- Distance -
(8)
精液でいっぱいになった掌で、同じくどろどろになった胸を鷲掴みにして、激しく揉みしだく。
にゅる、と指の間から白い液が溢れた。
その溢れたものをすくって股間に入れ指でかき混ぜる。
「あ、いっ、ぃひぃっ!」
意味のない行動だが、ユエには最高の興奮をもたらすのだ。
「……ひぐぅっ!」
指の動きを激しくすると、がくん、がくんと躰を震わせ、そのまま絶頂に達した。
「はぁっ、はぁっ」
ユエは肩でしている息を、何とか整えようとした。
「お、お許し下さい。また粗相をしてしまいました」
うつむいて顔を赤らめた。
さっきまでの陶酔は過ぎ去り、今はきちんと膝を閉じ、その上に手を乗せている。
「まあいいさ、俺もその方が興奮する」
実際、気分的にはユエといるときが一番盛り上がっている、と青年は思った。
「それにしても……」
青年は自分のものをタオルで拭き上げ、ズボンを履きながら言った。
「もう何年も続いているのに、毎回始めと終わりにお前は初々しい恥じらいを見せる。まるで処女のようだ」
「処女です」
ユエが間髪を入れず即答したので、青年は思わず笑った。
「そうだ、そうだった、すまなかった」
自分を見上げる彼女の顔は、白濁液にまみれて視界が悪そうだ。右目は完全に塞がっている。
青年はポケットからハンカチを取って、彼女に差し出した。
「もったいない……」
ユエは見づらそうに左目を薄く開けて手を伸ばした。
「ここにいればいつまでたっても処女のままだな。以前に誰か捧げたいと思うような者は居なかったのか?」
「はい、幼い頃から奴隷でしたし……それに、私が捧げたいと思っているのは世界でただお一人です」
ハンカチを持った青年の手が止まる。
ユエの手も下からハンカチを握ったまま止まった。
これまで二人の間には空気しかなかった。
しかし、今はハンカチを通してお互いの動きが分かる。
……しまった。
出すぎたことを言った。
ユエは後悔した。
今以上を求めてはいけない。
常に自分にそう言い聞かせてきたのに。
「そうか……」
青年はハンカチからゆっくりと手を離した。
それ以上は言わない。
聞き流してくれたらしい。
「また明日の晩来る。まだ話していないことがたくさんあるからな」
「はい、お情けをいただいてありがとうございました」
……何がお情けよ!
いつかの、夜伽係の声が甦る。
セックスもしないで何がお情けだ、と。
「いや、早ければ今夜また来る。それまでに綺麗にしておけ」
ユエが鬱(ふさ)いでいるので青年は少し明るく声を掛けた。
「はい、お待ち申し上げております」
ユエは青年の気遣いに感謝しながら、手を着いて深々と頭を下げた。
そして、ドアが閉まった音を確認して、もう一度言った。
「……ユエは、いつまでもお待ちしています」
ぎりぎりまで近づくことはできても、決して触れ合うことはできない。
その距離がゼロになる日がいつか来るだろうか?
そしてそれは、二人にとって幸福なことなのだろうか?
答えを見つける必要はない。
そんなことは想像するだけ無意味なのだと自分に言い聞かせ、ユエはハンカチを眺めながら、小さく溜め息をついた。
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end
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