- Distance -
(4)
<br> それにしても、主人には屈託がない。
いつまでたってもそこだけは、初めて会ったときと同じ少年っぽさを残している。
「中央はいかがでしたか?」
「ああ、なんのことはない。人は多かったが、中身はたいして変わらなかったよ」
「ご無事でなによりでした……」
三ヶ月振りに元気な声を聞いて、思わず涙声になる。
「どうした、たった三ヶ月だぞ?」
青年は笑った。
彼にとってはたった三ヶ月でも、ユエには長い日々だった。
彼女にとって心を許せる相手は、世界中にたった一人しかいないのだ。
「だが、俺も話が合う相手がいなくて退屈だったよ。次からはお前も連れていこう」
「いけません、貴族は蛮族を使用人に雇ったりしないと聞いています」
「そのくらいの融通は利くだろう」
ユエは首を横に振った。
気遣いは何よりも嬉しいが、それで主人に不利益があってはならない。
「ユエはこの部屋でご主人さまのお帰りをお待ちしております」
「うん? お前、三ヶ月前、俺が出かけるときにも同じことを言ったな」
「あら……そうでしたかしら?」
ユエはちょっと顔を赤らめて、三ヶ月振りの笑みをこぼした。
主人は三ヶ月間、仕事で首都にいた。
領主が父から自分へ代わったので、領地や税のことなど、いろいろな取り決めや手続きをしてきたのだ。
「年下好みの未亡人がいてね」
しばらく、土産話が続いていた。
「伯爵夫人なんだが、中央では女性も高い地位に就いていたよ」
主人は、いろいろと便宜を図る替わりに、一夜を共に過ごすことを要求されたのだった。
その伯爵夫人というのが、かなりの性豪で、毎晩ベッドには三人の男と入るらしい。
青年はたった一人で付き合い、婦人を失神させたという。
おかげで、手続きはスムーズに行ったようだった。
「かなりの好き者と聞いていたが、うちの夜伽係のほうがまだ上だったよ」
そんな話を聞いて笑ってはみるものの、ユエは複雑な心境だった。
自分が主人と決してそんな関係にはなれないこと。
主人が自分にそんな話を平気ですること。
主と奴隷の関係。
それ以上を望んではいけないと思っていても、やはり寂しく感じてしまうのだった。
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