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- Distance -
(3)
 主人は三ヶ月間、仕事で首都にいた。
 領主が父から自分へ代わったので、領地や税のことなど、いろいろな取り決めや手続きをしてきたのだ。

 「年下好みの未亡人がいてね」

 しばらく、土産話が続いていた。

 「伯爵夫人なんだが、中央では女性も高い地位に就いていたよ」

 主人は、いろいろと便宜を図る替わりに、一夜を共に過ごすことを要求されたのだった。
 その伯爵夫人というのが、かなりの性豪で、毎晩ベッドには三人の男と入るらしい。
 青年はたった一人で付き合い、婦人を失神させたという。
<br> 面白くないのは、夜伽係の女たちである。
 先代によりしっかりと性技を仕込まれている彼女たちは、自分の技に自信を持っていた。
 それなのに、今の主ときたら最後はいつも、何の技術も持たない卑しい蛮族のもとへ行ってしまうのである。
 本当なら、蛮族などこの屋敷から叩き出したいところだ。
 しかし、主人の不興を買うことは間違いないので何もできずにいた。
 勘の良いユエは、ずっと一室に閉じこもっていても、そんな女たちの不満を感じていた。
 自分が蛮族で、どれだけまわりに蔑まれているかは、この屋敷に来る前から知っていたし、食事を運んで来るときの態度などで、ここの使用人たちからも自分がどう思われているかは想像ができた。

 それを確証する出来事が以前にあった。

 その日はいつもと違う家政婦が食事を運んで来た。
 最近入った夜伽係だという。
 主人が毎日通うほどの女がどんなものか気になったらしい。

 「ここでご旦那様にお情けをいただいております」

 ユエがそう言うと女は叫んだ。

 「何がお情けよ!」

 突然だったので、ユエは面食らった。

 「セックスもしないで何がお情けよ!」

 その声を聞いて近くまで探しに来ていた他の夜伽係が彼女を連れ出した。
 その時居たどの女たちも、ユエを見ていい顔はしなかった。

 ……自分は可愛がられている。

 先代は、忘れた頃に現れては、彼女を見下し優越感に浸っているだけだった。
 しかし、今の主人はほぼ毎日来て対等に会話をしてくれる。
 同じ精を放つ行為でも、愛情のようなものが感じられた。

 しかし、それだけに危うい気がした。
 主人に正妻が居ないことで、夜伽の女たちは躍起になっている。
 子供が出来れば正妻とまではいかなくてもそれ相応の生活が保証されるだろう。
 彼女たちは平民なのでそれが可能なのだ。
 だが、自分はどうだろう。
 処女ではあるが、子供の作り方くらいは知っている。
 しかし、蛮族にそれが許されるはずはない。
 触れただけでも、禁を犯したとして屋敷から放り出されるだろう。
 もっと悪くすれば、主人さえ貴族の位を剥奪されるかもしれない。

 ふたりが接近するということは、お互いの人生を変えてしまうほど危険なことであった。


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あきゅろす。
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