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(2)
ユエはバルバロイ(蛮族)の娘である。
奴隷として売られていたのだが、あまりに美しかったので、今は亡き青年の父親が見初めて、破格の値を払いこの屋敷に連れて来た。
青年の家は大貴族である。
使用人にすら一般の平民を雇っている彼らにとって、蛮族など動物以下と言ってよかった。
買い取ったのはよいものの、貴族は蛮族に触れると「汚れる」ので、身の回りの世話をさせることもできない。
ユエはもっぱら「観賞用」として、一室に閉じこめられていた。
青年はこの家の一人息子である。
父亡きいま、十九歳で家督を継ぎ、この家の主となった。
彼は毎晩のように、この部屋に通い、自分より二歳年上の美しい蛮族の娘を「観賞」した。
ユエは七年前に出会ってから、ずっと彼のお気に入りだった。
当時、すでに彼には性欲処理の使用人が何人も付いていた。
これは、彼の父親の子育ての方針でもあった。
好色な父親の座右の銘は「英雄色を好む」だった。
男は女で失敗する。
将来、女性にたぶらかされないように、若いうちから鍛えておくのだ。
ユエもまた性欲処理の一環であった。
ただ、異色なのは互いに「触れてはならない」ことだった。
彼には理解できないが、父親が言うには「貴族たるもの、一人で虚しく精を放ってはならない」らしい。
「一人でするときは、せめてこの女にぶっかけろ」
ユエはそのための女だった。
だから、便所の隣にいるのだ。
そう教えられていた。
青年は夜伽(よとぎ)の女たちとベッドの上で一時過ごした後、この部屋にやってくる。
ユエを「観賞」しながら、その日最後の精を放つのだ。
平民には理解しがたいことだったが、若いうちからそういった生活しかしていない彼には、ごく当たり前の日常だった。
最初は青年もユエに対し観賞用の置物のように接していた。
しかし、話してみれば意外に面白い女だと分かってきた。
彼とはまったく違う境遇で育った彼女は、彼の知らない世界のことを多く記憶していた。
それは、なかなか興味深く、楽しい話だった。
彼もまたその日あったことなどをユエに話すのが日課のようになってきた。
ユエは黙って聞いているときもあれば、ときには笑い、驚き、また、彼の悩みに的確な意見を述べ、逆に感嘆させることもあった。
身分の違いこそあれ、青年の意識の片隅には「パートナー」として、狭いながら確かな居場所が出来ていた。
ユエは処女である。
買われる前に念入りに調べられた。
蛮族の娘が十四歳で処女ということは異例のことだった。
奴隷商人もその美貌を認めて、よほど高く売ろうと考えていたに違いない。
そして思惑通り高値で売れた。
この家に来てからもずっと処女のままである。
好色な先代でさえも卑しい蛮族には指一本触れることはなかった。
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