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- Maid in the Dark -
3.<冥奴の章・前>(1)

 真奈(まな)の上で絶頂を迎えた三人のメイドたちは、肩で大きく息をしながらよろよろと身を起こした。
 沙織(さおり)が振り返り真奈を見下ろす。
 三人の先輩メイドに責め立てられて、真奈は気を失っているようだった。
 その向こうに素肌を露(あら)わにした少女が立っていた。

 「それでは、仕上げに入ろうかしら」

 少女の静かで落ち着きのある声が地下室に響いた。

 「はい……玲華お嬢様」

 三人は深々と頭を下げた。





 それは偶然開いた綻(ほころ)びから、本能のおもむくまま新らしい餌場へと足を踏み入れた。
 そこは地表からはるか上空だった。
 こちら側の世界に出現したとたん、まだただの質量でしかなかったそれに、なにか巨大な塊が高速でぶつかってきた。
 かつて経験したことのない、激しい衝撃だった。
 衝突したものはバラバラに分解し地上へ墜ちていった。
 あとでそれが飛行機という人間の乗り物であったことがわかった。
 しかし、いまはなんであったかなど気にする余裕はなかった。
 衝突のダメージによりそれ自体の存在が危うかった。
 それは霧散していく自身の存在を必死にかき集め、一番近い生命体と同化した。
 その生物はとてもか弱く、いまにも命の火が消えそうであったが、選んでいる時間はなかった。
 ほかの生命体はただの肉塊となり飛行機とともに落下していた。
 助かる見込みがあるのは非常用脱出装置を背負ったその個体だけだった。
 もともと背負っていたのか、とっさに誰かに背負わされたのかはわからない。
 落下速度は背中のバッグから飛び出したパラシュートにより緩やかになっていた。
 ぶつかった側もぶつかられた側も大きなダメージを受けていた。
 無事救出され一命を取りとめたが、しばらくは昏睡状態にあり、完全に同化し目覚めるまでに丸一年を要した。



 神宮寺玲華(じんぐうじ れいか)は退院後、両親が所持していた別荘で「療養」していた。
 バスも通らない山奥の広い敷地内に幾人かの使用人たちと暮らしている。
 兄弟姉妹はいない。
 両親は飛行機事故で死んでしまった。
 自家用の飛行機で海外へ向う途中のことだった。
 父親が神宮寺グループという巨大企業の社長だったので当時はテロなどの噂も流れたが、事故の原因はいまだはっきりしていない。
 墜落した機体を調査した結果、なにか他の物体と衝突したのではないかという説が有力となったが、相手の破片がまったく見つかっていないので立証されていない。
 そのせいで、「UFOとぶつかった」などというものまであらわれている。
 玲華ひとりだけが奇跡的に生き残った。
 しかし、一年に及ぶ昏睡状態から目覚めても躰に異常が残った。
 身体が成長しないのだ。
 数ヶ月のリハビリのあと退院し自宅療養している。
 事故から十年以上経つが、いまだ彼女の姿は当時の――十二歳の少女のままだった。
 神宮寺グループの社長には副社長だった男が就任し、重役たちも好きにやっている。
 祖父はいまだ会長の肩書きを持っているが、息子夫婦の事故以来すっかり老け込んでしまい、経営には口を出さず隠居状態であった。
 「元」社長の娘は奇病を理由に山奥で何不自由無い軟禁生活を送っていた。
 孤独は苦にならなかった。
 ここには小さいながら最新の設備が整った研究所がある。
 神宮寺グループの母体は製薬会社だった。
 研究者でもあった父はここで表沙汰にできないような研究をやっていたらしい。
 玲華もここで研究をし、それに対し会社側も不足なく支援をした。
 実際、まだ若い玲華が出した成果には驚かされたし、社長の血縁だからと経営に出しゃばらず、ここでおとなしくしていてくれるなら会社にとっては願ったりだったのだ。


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