サキュバス日記
淫魔の仕事
○月×日
サキュバスは夜中に外出することが多い。
そして朝方には帰ってくる。
「今日はお休みなので家にいます」
「休みって仕事してんのか?」
「うん。仕事っていうか食事も兼ねてね」
サキュバスがする仕事ってデリヘルみたいなやつだろうか。
「そうだ、言えばお金もらえるかも。必要?」
「いや、当面のところいいよ」
あって困るものではないが、借りは作りたくなかった。
「俺はいいからなにか自分のために使うといい」
「うーん……」
サキュバスはしばらく腕組みをして考えていた。
本当に欲しいものが無いらしい。
「あたしが欲しいのはユウくんだけだもんなぁ……でへへへへ」
自分で言って自分で照れていた。
「そういうのいいから」
「……じゃあ、携帯電話でも買おうかなぁ。いつでもユウくんと繋がっていられるように……うっ」
サキュバスが股間を押さえてしゃがみ込んだ。おそらく「いつでも繋がって」に反応したのだろう。最近は潮を噴く前になんとか堪えるようになったようだ。
「なら普段から服を着ろよ。ポケットでもないと携帯を身に付けるのも不便だろ」
「ポケットならあるよ。いま押さえてるここに秘密のヌルヌルポケットが」
「そんなとこに入れてたらすぐ壊れるぞ」
「たしか防水のがあったよね?」
「あったと思うけど、そんな場所で耐久試験したことはないだろうからどうなっても知らんぞ」
「それならお尻のほうがいいかな。前より湿ってないし、どうせ排泄には使わないし」
どちらにせよ、出してから通話をする姿を想像すると嫌すぎる。
「あー、でもお尻はすごく締まりがいいから壊しちゃうかもなー。お尻すっごく締まりいいから!」
尻の締まりがいいことを強調しながらこちらをちらちら見ても「じゃあ、試してみようか」ってならないからな。
「それに、収納してるときにユウくんから電話が掛かってきたら……で、そのときちょうどバイブにしてたら………ああっ!!」
サキュバスがのけぞって倒れた。
一度は我慢した潮が押さえた指の間からほとばしった。
「ああ、ユウくんから遠隔操作でお尻犯されるなんて……想像しただけで、想像しただけでっ、めっちゃ噴いちゃうぅぅぅぅ!!」
「あーあ……」
結局、床をびしょびしょに濡らしてしまった。
「お掃除は……ちゃんと……しますので……」
サキュバスは仰向けに倒れたまま、肩で息をしながら途切れ途切れに言った。
サキュバスがいない夜はこちらもやることがある。
溜まった欲求を解消せねばならない。
彼女はいないし、風俗に行くほどの経済的余裕もないのでひとりでやることになる。
サキュバスに手伝わせても嫌とは言わないだろう(むしろ喜んでやる気はする)が、いまのところ赤の他人なのでそんなつもりはない(悪くすれば吸い殺されるらしいし)。
「ただいまー……」
明方、サキュバスは食事を兼ねた『仕事』から帰ってくる。
このときだけはいつものテンションではなく、どこかシュンとして元気がない。
最初は疲れているのかと思っていたがどうやらそうではないらしい。
サキュバスの食事といえば誰かと性交することなのだろう。
食事なので仕方ないことなのだが、想像するに好きでもない相手と性交して婚約者(と本人は思っている)のもとに戻ってくるのは自己嫌悪とか罪悪感とかいうものがあるのかもしれない。
サキュバスとして生きていくうえでは必要なことだろうし、こちらもそのことに関していろいろ尋ねたりはしない。
武士の情けというか暗黙の了解というやつだ。
サキュバスはベランダから入ってくる。
そして、スンと鼻を鳴らす。
おそらく精液の臭いに反応するのだろう。
使用したティッシュはゴミ袋に入れて硬く口を結んでいるが、サキュバスならそのくらい嗅ぎ分けるだろうと勝手に想像している。
ただ、いつものテンションで「オナニーしたー?」とか尋ねてくることはない。
これもまた武士の情けというか暗黙の了解というやつだろう。
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