サキュバス日記
淫魔の衣装
○月×日
大学のあと、そのままバイトに行って夜遅く帰ると、最近は同居人が部屋で煎餅をかじりながらテレビを見ている。掃除、洗濯などがすんでいるのは大いに助かるが。
「おかえりー」
「俺がいないあいだ、なにやってんの?」
「ずっとテレビ見てる。あたしここ十年くらい人間社会の常識の外にいたからちょっと勉強」
「そうか……」
「偉いな」と言おうとしたが、先日の嬉ション(嬉潮?)の後始末を思い出して言わなかった。
「あと、ドラマも観るよ」
「どんなやつやってた?」
「なんかね……出会って好きになって、なんだかんだあって、最後はだいたいうまくいくの」
「そういう括り方をすると、みんなおなじものに思えてくるな」
「で、その『なんだかんだ』がやたら長くて、うまくいったあとはセックスとかするんだろうけど、そのシーンはほとんど無いの」
「うん……まあ、そうだな。地上波には限界がある」
「セックスなんてすぐできるのに、それまで長すぎ!」
「いや、会ってすぐはなかなかできないものだぞ」
「できるよ! する? お風呂にする? ご飯にする? それともセックスする?」
「なんか古いコント見たな。しかも、そんなダイレクトなセリフじゃなかっただろ」
「あとね、オススメのデートコースと見ながら想像するの。ユウくんとのデ、デ、デ……」
「デート?」
「きゃああああああ!」
サキュバスは真っ赤になった顔を両手で覆った。
「ああっ、出ちゃった。ユウくんが変なこと言うからちょびっと噴いちゃった」
「俺、なにも言ってないぞ。そもそも、一緒に住んでるのにデートで興奮するとかおかしくないか?」
「タ、タオル取って、タオル」
「もう、そんなすぐ漏らすならパンツ(もしくはオムツ)穿けよ」
「ユウくん」
サキュバスは真面目な顔になってこちらを見上げた。
「サキュバスとしてのコケンに関わるから言うけど、あたし普段はそう簡単に潮噴かないからね」
「……そんなこといいから、早く拭けよ」
「うう……サキュバス的にはどうでもいいことじゃないのに」
サキュバスはタオルで床を拭きながらぼやいた。
「……だいたい、パンツ穿いてるサキュバスなんていないでしょ?」
「いや、サキュバスなんてお前しか知らんし」
「全裸はサキュバスの普段着であり戦闘服なのだ」
「それは前にも聞いたよ。だから出掛けるにしても服が無いだろ?」
「このままじゃダメ?」
「問題ありすぎる」
「じゃあ、お洋服買ってくれる? ユウくんが選んでくれるなら着てもいいよ。シマモラのでいいから」
「『のでいいから』ってシマモラに怒られるぞ」
「よし、とりあえずシマモラにゴー」
「待て、シマモラにたどり着く前に警察に捕まる」
そもそも、夜中にシマモラが開いているわけもなく、結局、ミッセンのネット販売を利用することにした。
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