サキュバス日記
淫魔の独白
○月×日
以下は薄葉早希(うすば さき)を名乗る女(淫魔?)が語った内容である。
家族四人でお出かけして、この山を越えればもうお家ってところでぶつかったの。こちらの世界に来たばかりの淫魔と。
運転してたパパは悪くない。
だって淫魔はまだ実体も持たず目には見えなかったんだもの。
それでお互い大きなダメージを受けて、淫魔は霧散しようとする自分の存在をかき集めて最も肉体の損傷の少ないあたしの中に入ってきた。
あたしもそれを受け入れなければ死ぬってなんとなくわかったから淫魔と融合したの。それでも生き延びれる確率は五分五分ってところだった。
躰に変調があるってすぐにわかってこのまま見つかったらやばいって思ったの。人間じゃないことがバレたらなにをされるかわかったもんじゃない。
だから車から出てそのまま森の中へ這っていったの。
パパもママもおばあちゃんもそのときは死んでたわ。
翌日か翌々日、事故現場からは結構離れたらしく捜索隊とかとはまったく出会わなかった。
事故のときひどく雨が降っていて血の跡が流されたのも見つからなかった理由のひとつだと思う。
そこでひとりのおじさんと出会ったの。
おじさんはあたしを見て最初はびっくりしてたみたいだったけど、近くまで来ると「おめえ、子供のくせになんてエロい躰してるんだ」って言って興奮しだした。
十歳だしべつにエロい躰はしてなかったと思う。
事故の傷は治りかけてたけど衣服は血まみれ泥だらけで、よっぽど特殊な趣味の人間でなければ性欲をそそられることはなかったはず。
おじさんもロリコンってわけじゃなくて、きっともうそのときは淫魔の能力が発動していたんじゃないかな。
おじさんはズボンとパンツを脱ぎ捨てると、まだあまり動けないあたしの下着を剥がして脚の間に入ってきた。
そして硬くなったアレをあたしの躰の中に突っ込んできたの。
「痛い! 痛い!」って泣き叫ぶあたしの口を手で覆いながらケダモノみたいに腰を振り続けた。
たぶん半日くらいそうしてたと思う。
気がつくとあたしのほうが上になってて、おじさんはもう冷たくなってた。
そのときあたしの中に、処女を見知らぬおじさんに無理やり奪われて絶望しているあたしと、人間の精気を吸収して満足しているあたしがいることに気づいたの。
それが淫魔になったあたしの初めての食事。
それからはずっと、好きでもない人間とセックスをして生き長らえている。
毎回死なすといろいろ面倒だから死なない程度に精気を奪いながら。たまに、気に入らないヤツやすごく気に入ったヤツは一滴残らず絞り尽くすときもあったけど。
そもそも、融合する前のサキュバスと激突して事故が起きたのだから、家族が死んだのは半分はあたしのせいでもあるの。
人間のあたしの心は壊れそうなのに、サキュバスのあたしはそれを見て笑ってるの。餌である人間の命なんて、牛や豚のそれと変わらない。セックスをすることも食事と同じだって。当たり前すぎることでなにを嘆くことがあるのかって。
あたしはもうとっくにユウくんの知ってるあたしじゃなくなってて、子どものころに結婚の約束したからなんて会いに来れる立場じゃないんだけど。でも、十年間、毎日のように誰かとセックスをしながら、ずっとユウくんのことだけを想ってた。「食事」じゃないセックスができるのは、旦那様と決めたユウくんとだけだって。
人間だったときのあたしが言うの、最高のセックスは本当に好きな人と結ばれたときにできるって。
淫魔になったあたしが言うの、最高のセックスを味わいたいって。
自称テクニシャンを名乗る何人もの男たちとヤッてきた。ヤバいクスリを人間なら何回も死んでるくらい打って一週間ぶっ通しで狂ったこともあった。
でも、そんなものとは比べ物にならない。
最高に感じるのは最愛の人に抱かれたときだって。
きっとそれは幸せを感じるからだと思う。
相手から奪う幸せじゃなくて与えられる幸せ。
淫魔では得ることのできない幸せ。
ユウくん、事故のあと探しに来てくれたよね。森の中は危ないからって何度も大人に連れ戻されて、それでも毎日来てあたしの名前を呼び続けてくれた。
聞こえてたよ。
返事できなくてごめんね。
あのときのあたしはもう人間じゃなくなってて、とても会うことなんてできなかった。
ユウくんはあたしにとって……いちばんのご馳走。
サキュバスであるあたしの性欲という名の食欲。
人間・早希が一番大事にしてる「好き」という気持ち。
このふたつが合致したとき……つまり、ユウくんとヤっちゃったら、あたしは自分が抑えきれなくなって全部吸い尽くしてしまうと思う。
それからはあたしはひとりぼっちになって死ぬまで後悔しつづけるんだわ。
悪魔の寿命がどれほどなのかはわからないけれど……。
以上、薄葉早希を名乗る女(淫魔?)の言。
食費はかからないと言うし、掃除や洗濯はやってくれるということなので、しばらく部屋に置いて様子を見ることにした。
吸い尽くされるのは勘弁願いたいが。
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