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サキュバス日記
Succubus meets Angel (1/2)

 薄葉早希(うすば さき)は、あお向けに倒れた男に馬乗りになったまま嗚咽を漏らしていた。

「ごめんなさい……」

 うつむいた顔は涙、鼻水、そして先ほど狂喜して腰を振っていたときに垂らした涎で濡れていた。

「うぅ……ごめんなさい……」

 おなじ言葉を何度もくり返しているが、男からの返事は無かった。
 四十歳前後のたくましい男だった。それがいま、すっかり生気を搾り取られて力無く横たわっていた。早希が手をついている厚い胸板も潤いを失いカサカサになっていた。十歳の少女のせまい膣を無理やり押し広げていた肉茎だけが強靭さの名残をとどめていたが、やがてそれも最後の精の放出とともにしなびていった。
 男は、近くで行方不明になった少女の捜索に参加していてここへたどり着いたのだった。
 交通事故だった。いわゆる「ひとり相撲」のようだが、何とぶつかったのかはまだわかっていない。
 不可解な事故だった。同乗していた両親と祖母の遺体は見つかったが十歳の娘がいなかった。
 事故の状況から無事であるとは思えない。生きている可能性があるとしたら事故以前に車から降りていた場合である。しかし、少女の血痕や衣服の断片と思われるものが事故車の中から発見された。一緒に乗車していたのなら相当なダメージを負っているはずである。
 その状況でなぜ姿をくらましたのか。
 そもそも動きまわることができたのか。
 あるいは何者かに連れ去られたのか。
 道路の東側は広大な森林地帯だったため、少女が――自分で動くことはできないにしても、誰かにさらわれて――森へ入ったならば、雨天ということもあり捜索は難航すると思われた。



 事故の衝撃のとき躰の中に入ってきた何かのせいで、自分が別のものに変わっていく自覚はあった。
 このまま人間たちに見つかるのはまずい。融合した何者かの本能がそう訴えかけていた。
 早希はぼろぼろになった躰を引きずりながら森の奥へ入っていった。
 折しも降ってきた激しい雨によって彼女の痕跡は現場から消え去った。
 躰の傷は信じられない速度で癒えていった。
 しかし、体力の消耗は激しく、少女は雨で躰が冷えるのを嫌ってぼろぼろの小屋にもぐり込んだ。
 小屋というより物置に近かったが、雨漏りをしているところ以外の地面はまだ濡れておらず、雨をしのぐことはできそうだった。
 最初にあらわれたのは五十代くらいの男だった。
 小屋で早希を見つけると「もう心配ない」と笑いかけたが、すぐにその笑みは好色で下品なものに変わった。

「おめえ……子どものくせになんてエロい躰してるんだ」

 男はいまにもよだれを垂らしそうなだらしない顔でそう言うと、ベルトを外してズボンを脱いだ。
 少女が初めて見る父親以外の男性器は、まるで鍛えられた筋肉でできているかのごとく隆々とそそり勃っていた。
 次に小屋を見つけて入ってきたのは四十前後のたくましい躰つきの男だった。
 地元の消防団員の服装をしていた。
 前の男に馬乗りになり腰を振っている早希を見ると「……悪い子だ……悪い子だ」とつぶやきながら、やはりベルトを外してズボンの中からいきり勃つモノを取り出した。
 いま入っているものより大きなモノを見せられて、早希は恐れるどころか「おいしそう」とゴクリと喉を鳴らした。
 まるで飲み込んだ涎がそのまま下腹部にとどいたかのように、膣から破瓜の血を押し流して愛液があふれだした。
 男たちのせいでないことは理解していた。
 獲物を呼び込んでいる自覚はなかったが、男たちの豹変は自分に原因があるらしい。
 躰のなかの獣の本能が飢えを満たすため、肉体を修復するためのエネルギーを摂取するために必要なことなのだ。

「……ごめんなさい」

 少女の涙が男の胸にポタポタと落ちた。
 自分でもどうしてこうなるのか理解できなかった。

――ニンゲンヲ喰ラウ。

 自分のなかに入り込んだ獣が、強烈な飢えを訴えて自然と躰が動くのだった。



 突如、とてつもない不安に襲われて、躰がブルッと震えた。
 早希は男にまたがったまま肩を抱いた。
 その腕にぎゅっと力を込めるが震えは止まらない。

「こんにちはぁ」

 それは、するりと小屋の中に入ってきた。
 女だった。
 こんな山中を歩いてきたとはとても思えない格好をしていた。白いワンピースを着て麦わら帽子をかぶった、二十代前半くらいのすらりと背の高い金髪の女だった。
 いや、女の姿形をしていたと言うべきか。
 早希のなかの獣がそのただならぬ気配に反応し総毛立っていた。
 雨中、山歩きをしてきたはずなのに、衣服は少しも濡れておらず、白いパンプスには泥汚れもシミも無かった。

「楽しそうな声がしてたから、まぜてもらおうと思って来たのよ」

 おっとりとした話し方だった。微笑むと目尻が下がってとても柔和に見える。
 しかし、見た目だけであった。
 早希のなかの獣の本能は、女の細い躰からにじみ出る圧倒的な存在感を感知し、途方もなく巨大な生物と対峙したかのような畏怖の念を抱くとともに、最大音量で警報を鳴らしていた。
 女からは敵意も悪意も感じられない。
 だがそれは、クジラは悪気もなくプランクトンを食べるということとおなじであった。

「ひっ……ひっ……」

 早希は躰がこわばって呼吸困難になっていた。

「どうしたの? だいじょうぶ?」

 女が腰を折って早希の顔をのぞき込んだ。

「こ、こわい……」

 早希はやっとのことで言葉を吐き出した。
 股間から大量の小水がジョバジョバと噴き出して、粘液まみれの男の躰を洗い流した。

「こわい? あたしが?」

 早希はゴクリと唾を飲み込んで、大きく頭を縦に振った。

「こわくないでしょう?」

 女は目を見開いて、不思議そうにグリっと首を傾げた。

「ニ……」

「に……?」

 女はさらに首を曲げる。
 肩口から長い金髪が滝のように流れ落ちた。

「……ニンゲンじゃない」

 早希の声はかすれていた。言葉にして口から出すことで恐怖は実体化し、女は巨大な生物の本性をあらわして少女を丸呑みにするのではないかと思った。

「あたし?」

 だが、女は躰をまっすぐに戻して微笑んだだけだった。

「あたしはエンジェルさんよ。あなたは……さしずめ『小悪魔ちゃん』かしら」

「え……えんじぇるさん?」

「そう」

 想像を絶する存在という意味ではあながち的外れな表現とは言えなかった。しかし、名前から連想する神々しさよりも、俗っぽさのほうが優っているような気がした。

「小悪魔ちゃんのお名前は?」

「さ、早希」

「サキ? サキュバスのサキかしら?」

「さきゅ……バス? あたしは、にんげん……」

 そう言いながら自分のなかの獣のことを思い心臓が高鳴った。
 否定されるのが怖い。
 自分は「まだ」人間「のはず」だ。

「あら、そう」

 女は否定はしなかったが、すべてを見透かしているような目で早希を見つめていた。

「ねえ、さっきのどうやるの?」

「さっきの?」

「テクノブレイク」

「てくの……?」

「オナニーのやりすぎで死んでしまうという『都市伝説』よ。気持ち良すぎて死ぬということでは、さっきあなたがやっていたのとほぼおなじ」

「うぅ……」

 早希はまた肩を抱いた。

「し……死んで……」

 自分の下とかたわらにいる男たちは死んでないと思いたかった。自分が犯したの殺人の罪を認めることになる。
 しかし「死んでない」とも言い切れなかった。実際、もう男たちの命の灯火が消えるのは時間の問題で、それは肌を通してつたわってきていた。

「気持ちよすぎて死ぬというより、あなたの場合その前に精気を吸い取られて死んでしまうみたいだけど」

 女は遠慮なくつづけた。

「大丈夫。殺したくなければ死なないていどに加減することもできるようになるわ」

「……お姉さんも?」

 自分のなかにいるものと同類なのか、と早希はたずねた。

「あたしはサキュバスじゃないから精気を吸わなくても生きていけるのよ。精気はおやつ代わり、あとは楽しむためにやってるわ」

 女は悪びれるようすもなく答えた。
 早希が感じているような罪悪感はないらしい。

「小悪魔ちゃんは入れるのと入れられるのとどっちがいいの? 選ばせてあげる」

 女はぐいと身を乗り出した。

「い……入れる?」

 少女の反応を見て、女はすぐに合点がいったようだった。

「入れられるの専門なのね。わかったわ」

 女は帽子を取り、するりとワンピースを躰から抜いた。下着は付けていなかった。着痩せと呼べる範疇にない、薄い布でどれほど抑えつけていたのかと思うほど豊かでかたちのよい胸があらわれプルンと揺れた。
 やっぱりこの人も「やる」んだと、早希はあきらめの表情を浮かべた。しかし、ほかの男たちとはあきらかにべつの生き物だ。それは性別の違いということだけではない。
 早希は女の躰からあふれ出す人間離れした膨大な量の生命力に圧倒されていた。

「うふふ……ひさしぶりに滾(たぎ)るわあ」

 女は両手で股間を押さえていた。
 その手の間から太い肉の芽が盛り上がり、めきめきと一気に成長し大樹のごとくそそり立った。

「さあ、お腹いっぱいにしてあげる」

 ソレをさすりながら女が見下ろしている。
 早希はその威容を見上げ、ただ震えるだけで動くことができなかった。
 女はしゃがんで早希の肩に手を乗せた。
 ゆっくりと押す。
 早希があお向けになる。
 縮んだ男のモノが股間からぬぽっと抜けた。
 そのあとに女の生気のみなぎる大樹の先端があてがわれた。

「ひ……」

 早希は言葉を発することができず、ただその巨木にブシャッと小水を注いだ。
 ミチミチッと少女の秘裂が押し広げられる。
 最初の男よりも、そのつぎの男よりも、はるかに太くてたくましい。
 そしてなによりも生命力に満ちあふれていた。

――はいってくる……!

 まるで大地に深く根をはった巨大な生命の木がずるずると躰を押し広げ侵入してくるようだった。
 早希は、呑み込んでいるのに逆に呑み込まれているような錯覚に陥(おちい)った。


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あきゅろす。
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