*ShortStorieS* Witchcraft(1) 深い森の中を、もう半日ほど少女は歩いていた。 長時間歩いているせいもあるが足取りは重い。 魔女の生け贄になるための道程だった。 森の奥に棲む魔女は、年に一度、若い娘を要求してくる。 それに応じなければその年の農作物は凶作、近隣の村人たちは飢えに苦しむことになる。 応じればその年は豊作、村は安泰である。 もう何十年も続いていることであった。 これまで生け贄に出されて還ってきた者はいない。 恐ろしくはあるが、村のことを思うと逃げ出すわけにもいかず、また、途中で逃げ出したところでひとりで生きていく自信もない。 少女は足を止めため息をついた。 足が棒のようだ。 生け贄が迷わぬよう、ときおり「魔女の家こっち→」と書いた立て札が立っている。 能天気なその文字を見るたびに怒りがこみ上げてきた。 ……唯一生き延びる方法は。 魔女を殺すことだろうか。 しかし、豊作もまた魔女の仕業であるのなら簡単に殺すわけにはいかない。 それに、魔女に失礼が無いようにと、森の入り口で村人たちから武器になるようなものはすべて取り上げられている。 戦うとしても森の中には木の枝くらいしか見当たらなかった。 「必ず助けにいくからね!」 村の少年の言葉がよみがえる。 三歳年下なので十三歳のはずだ。 先日、彼の誕生日にこっそり筆下ろしさせてやって以来、少女につきまとっていたが、森の中まで同行することは禁じられていた。 いずれ成長し生け贄をまぬがれた他の女と結婚するだろう。 別に好きだったわけでもないのでどうでもいいことだが。 朝方出立して日が沈み始めたころ、ようやく「魔女の家」と書かれた小屋にたどり着いた。 ドアをノックすると中から「はぁい!」と若い女の声がした。 どうやら年寄りではないらしい。 ドアを開いた女は確かに二十代半ばほどに見える。 「あらあら、また可愛らしい子が来たわねえ! こりゃ今年はサービスしなくっちゃ」 魔女は上機嫌で少女を招き入れた。 [次へ#] [戻る] |