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*ShortStorieS*
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 PCの明かりだけが点いた暗く狭い部屋で、男はモニターを見つめていた。

 「完成したぞ……」

 そこにはバーチャルシンガーとして絶大な人気を誇る「棗(なつめ)メグ」、通称「ナツメグ」、熱狂的なファンには「メメたん」とも呼ばれる少女の姿があった。
 バーチャルシンガーとはモニターの中だけに存在し、実体を持たない架空の歌手である。
 時折、3D映像となってステージに立つこともあるが、決して現実に存在するわけではない。
 それにも関わらず、彼女に恋し焦がれるファンは増える一方だった。

 「叶えてやるぞ」

 ややデフォルメされた愛らしい娘が画面の中から男に向かって手を伸ばしている。

 「お前たちの願い……叶えてやる」

 その手が画面をすり抜け、男の頬に触れようとしていた。

 「人類を堕落させ滅亡に導く美しい悪魔だ……『サキュバス・ウイルス』と名付けよう」

 男は笑っていた。
 薄気味の悪い、狂気の笑みだった。





 「『嫁がなかなかPCの中から出て来てくれません(涙)』……と」

 深夜、青年はネットの掲示板の書き込みを終えて、PCの電源を落とした。
 部屋の電灯も消し布団にもぐり込む。
 大学は卒業したものの就職は決まらず、ずっとぶらぶらしている。
 親は顔を合わせれば「早く働け、遊んでないで就職先を探しに行け」とうるさい。
 唯一の楽しみはPCでナツメグの動画を観ることだけだった。
 静まり返った室内でかすかに音がする。
 暇さえあればPCにかじり付いている彼にはそれが何の音であるかすぐにわかった。
 PCの放熱ファンが回る音である。
 見れば、やはり消したはずの画面が点いていた。
 画面には、棗メグが映っていた。
 それ自体はおかしなことではない。
 壁紙もスクリーンセーバーもナツメグであったし、PCの消し忘れであれば、いつも観ている動画が起動したままになっていることもあるだろう。

 ……変だな。

 青年は上半身を起こした。
 そこで、固まった。
 画面から、ずるりとナツメグの頭が出て来たのだ。

 「え!?」

 続いて、肩、胸、腰、と抜け出して来る。

 「ええっ!」

 ついには、全身が出て、机から畳の上へ棗メグが降り立った。

 「何? ……夢?」

 呆けている青年の前にナツメグが両膝を着く。

 「メグだよー。ほら、触ってみて、ぷにぷにだみゃん!」

 青年の手首を握って、手のひらを自分の胸に当てた。

 「うわぁっ!」

 青年は驚嘆とも歓喜とも取れるような悲鳴を上げた。
 それは確かな触感があった。

 「いつも『出てこない、出てこない』って嘆いてるから出て来てあげたんだよ」

 ナツメグは両手で彼の頬を挟むと、唇に自分のものを数秒重ねた。
 そして、小首を傾げて「嬉しい?」と尋ねた。

 「う、う、うん」

 青年は何度も頭を立てに振った。
 何の言葉も出ず、ただ、夢なら覚めないように祈るだけだった。

 「ほら、もっとちゃんとさわっていいんだよ」

 少女は再び彼の手首を掴むと、襟元から服の中へそれを突っ込んだ。

 「うわわ……」

 柔らかい肌に直接手が触れる。
 作り物とは思えないしっとりとした感触があった。
 躰をぴったりとくっつけると、彼女は彼の股間に手を伸ばしパジャマの上から擦った。
 ありえない出来事に縮こまっていたそこが、華奢だが巧みな手のひらの刺激でどんどん膨らんでくる。
 すぐにかつて経験したこともないほど、痛みをともなうほどに硬くなった。
 少女はその感触に満足気な笑みを見せた。

 「ウフフ、フル勃起完了! いただきまぁす(はぁと)」

 暗い部屋の中で、ぼんやりと発光する物体が、青年を布団の上に押し倒した。



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あきゅろす。
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