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Pandemic
- Afterlife -(1)

 病院のような建物の中にいた。
 学校の屋上から運ばれて一週間がたつ。
 最初こそいろいろと調べられたが、いまは定期的に血液を採られる程度だ。
 隔離されているとはいえ、健康を維持するために運動できるし、テレビを見ることもできる。
 食事も一般の病院食より量が多いように思う。
 僕から感染が広まることはないようだが、それでも外には出れないし、外部の人間と接触することもできない。
 家族とはモニター越しに面会ができる。
 他の生徒がどうなったかを考えれば、両親としては生きていただけで満足しているようだ。
 僕は渡されたペットボトルを持って、ドアの前に立っていた。
 その頑丈そうなドアには「サンプルNO.75 緋邑那由子(Himura Nayuko)」と書いてあった。





 ライフルを構えていた隊員たちは「射撃中止」の合図を受けてスコープから目を離した。
 誰となく「ふぅ」と息を吐いた。
 感染者とはいえ民間人の少年を撃ちたくはない。
 降下した先に地獄が待っているとしても、ひとりでも救けられるものなら、それが自分たちにとっても救いとなると思った。

 「パターン、紫……抗体!」

 やや興奮気味の声が告げると、隊員たちにどよめきがおこった。
 これまで単なる言葉でしかなかった「希望」というものが、形を成して彼らの眼下にあった。





 バタバタという大きな音で僕は我に帰った。
 感染したと思ったがまだ意識はあった。
 音のほうを見上げると自衛隊の大きなヘリコプターが飛んでいた。
 そこから宇宙服のようなものを着て銃を手にした隊員たちが、パタパタと降りてきた。
 僕は、馬乗りになってよがり狂っている緋邑那由子を押しやって立ち上がった。
 感染者に力負けしないのは僕自身が感染しているからだろうか。
 助けが来たと安堵するひまもなく、僕らは銃を向けられた。

 「感染者から離れなさい!」

 隊員のひとりが言った。
 少なくとも僕を殺す気は無いと言うことだ。

 「こいつも助けてください!」

 暴れる緋邑を必死に抑えながら僕は言った。
 彼女をこのままにしてはおけなかった。
 彼らにとっても生きた感染者のサンプルは貴重なようで、僕がなんとか取り押えることで彼女を保護してもらえた。
 あとで思ったことだが、僕を感染者と接触させる場合、赤の他人よりは恋人のほうがいいだろうという判断からのようだ。
 接触とはつまりセックスのことである。
 緋邑は拘束されたうえ、遺体収容袋のようなものにくるまれてヘリの隅に転がされていた。
 中から絶えず呻き声がもれてくるのが痛ましかった。



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あきゅろす。
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