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Resurrection extend Metamorphose
(2)

 綿瀬未空は作業をつづけながら不安を隠せなかった。

「なんだか……」

(なんだか薬の効きが悪くなってるみたい)

 ここ数日そんな気がしている。

(つぎに勃起したら抑えきれるだろうか)

 不安が大きくなるなか、また久魅のモノが硬直しはじめた。

「久魅ちゃん……!」

 瓶から指で薬をすくい取り、そそり立つモノへ塗りこむ。

「しっかりして! 誘惑に負けちゃだめ!」

 しかし、それは愛撫されるかのように皮を張り詰めさせ、未空の手の中でこれまでになく硬く大きくなっていく。

「ミクちゃん……」

 突然名前を呼ばれて未空はぎょっとした。
 声のしたほうへ目を向ければ、久魅が頭を上げ視線を向けている。

「久魅ちゃん……気がついたの?」

 会ったときにはすでに意識が無かった。
 未空が久魅の声を聞くのははじめてであった。どうして名前を知っているのだろうか。

「患者、意識をとりもどしました……それから、抗淫剤の効果が激減しています」

 襟もとのボタンを押さえて囁く。
 これで上司がいる制御室に聞こえているはずである。
 久魅が上半身を起こそうとしている。

「急に動いちゃだめよ。何日も寝たきりだったんだから」

 未空は慌てて支えながら、襟もとに「応援を」とふたたび囁いた。 

「……いいにおいがするわ」

 久魅がまた寝かせようとする未空の腕を掴んだ。
 いままで意識が無かった者とは思えない強い力だった。

「え……におい?」

 久魅の力に眉をしかめながらたずねる。
 未空は香水をつけておらず、部屋の中も機器のにおいがわずかにするだけである。

「ええ、とてもいいにおい……あなたのあそこから漂ってくるいやらしい香りよ」

「な、なにを言ってるの?」

 未空は思わず太腿を閉じた。

「あたしのチンポをシゴきながら濡らしてたんでしょう?」

「……!」

 頬がさっと紅くなる。
 絶句したのは、とっさに言い返せない理由があったからだった。

「知ってるのよ、あなたが毎晩眠る前に、あたしのチンポにハメられることを想像しながらオナニーしてること」

「な、なんで……!」

 久魅は上半身を起こし、口を横にニィと広げた。
 眠っているときの表情からは想像もつかないような淫猥な笑みだった。 

「いいのよ、好きなだけむしゃぶりついても」

 久魅は剛直を見せつけるように腰を浮かした。
 未空はその艶かしい動きにゴクリと唾を飲んだが、辛うじてベッド脇の非常ボタンを押すことができた。



 未空が非常ボタンを押したころ、「上」でも非常事態が起きていた。

「『魔』の侵入にまちがいありません!」

 綿瀬深香が眼鏡越しに様々な計器類を見比べている。
 稀良はモニターのひとつを見つめていた。
 そこにはなにかあったときのために待機していた男たちが映っていた。
 男たちは八人いたが、どれもみな床に倒れていた。
 カメラを動かすと、ひとりだけ立っている者が映った。
 浅黒い肌をした全裸の女である。
 女はカメラを見上げ、それに向かって妖しい笑みを見せた。そして、顎の下に手のひらを添えると口から白い液体をドロドロと吐き出した。それはすぐに手のひらからあふれ、糸を引きながら床に落ち、水溜りをつくった。さらに、手を返してすべて床にこぼす。
 それは、その部屋にいる男たちから絞り取った精液だった。

「こいつ……」

 稀良は『魔』と対峙したことなど一度もなかったが、それがまちがいなく淫魔であると確信した。
 新たな電子音が鳴り、深香が計器のひとつに飛びついた。

「過去のデータと照合できました!」

 過去に陰陽庁が対応した『魔』にはコードネームが付けられている。
 同時に特徴なども記されていて、いくらかでも退魔の助けになるはずであった。

「コード……」

 深香は計器を見たまま声を失っていた。
 信じられないといったふうに、目が大きく開かれている。
 しかし、それも一瞬で、気を取り直すと震える声でその名を告げた。

「コード……『イバラギ』」

「『茨木童子』か……!」

 稀良も愕然とした。
 はじめて遭遇する『魔』は、古くから鬼として知られる強大な存在だった。

(どうする)

 鬼であるとするなら、陰陽庁にも応援を要請せねばならない。
 そもそも、相手がなんであれ現状の淫魔宮では対応しかねる。
 未空が非常ボタンを押した時点で非常事態であることは陰陽庁にも連絡が入っているはずである。
 階下に目をやると、久魅が意識をとりもどし躰を起こしている。
 こちらも放っては置けない。

「深香、陰陽庁から連絡は……」

「ひっ!」

 短い悲鳴に振り向くと、深香を後ろから抱きしめるようにして全裸の女が立っていた。
 女の手は深香の躰をいやらしくまさぐっている。

「き、稀良様……」

 深香は恐怖で震えるだけで、動くことができないようだ。
 稀良はちらりと先ほどのモニターを見た。
 もう、倒れている男たちしか映っていない。いったい、どうやってここへ入って来たのか。
 女が口を開いた。

「ハジメマシテ、お若い陰陽師さんたち。結界がちょっと粗すぎるようね」

「封印が解けたのか……イバラギ!」

「ああ、長く生きていれば知恵も付いてくるものさ」

「知恵だと? お前たち淫魔は知的生命体などではない。ただ本能のままにまわりのものを食い尽くすだけのバクテリアとおなじだ」

「細菌あつかいとはひどいわね」

 女は眉をひそめたが、気にしているようすではなかった。
 額の左右からねじ曲がった短い角が生えている。臀部からは鞭のような細い尻尾が伸びうねっている。口を開くと発達した犬歯が目立つ。それ以外、見た目は人間と変わらない。

「まあいいさ、お互いわかり合おうなどとは思っていないのだからね」

 女はまさぐる手を深香の股間に定めた。
 服の上から少し触れられただけで、深香は自分の意志に関係なく濡らしていた。
 そこへ、下着を分け入り遠慮なく指が侵入してくる。

「ひやぁあっ!」

 深香は叫んだ。
 同時に生温かいものを噴き出す。

「あらあら、漏らしちゃったの? そんなに繊細じゃ、あたしの相手は勤まらないわよ」

 女は目を細めて、喉の奥で「ククッ」と笑った。

「深香……!」

 綺良は動けなかった。
 人間とおなじに見えても腕力は計り知れない。人形のように手足をもいでしまうことなどたやすいのだ。


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