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Angel Voice - 神様の失敗 -
姫ちゃんの秘密(4)

 共通の趣味の会話というのは弾むものである。
 映画を観終わったあと少し遅めの昼食を取りながら蒼介が「どうだった?」と感想を訊くと、無口そうな姫ちゃんもそれなりに楽しそうに思ったことを話してくれた。
 「初めてのデートで映画は良くない」と以前蒼介の姉が言っていた。
 二時間の映画ならお互い二時間黙ったままで、映画が始まる前と同様にお互いのことを知らないからである。
 だが、蒼介に言わせればそれは無駄な二時間ではない。
 こうして共通の話題について語り合い、相手の物の見方、考え方をより深く知ることが出来るのだから。
 更に言えば、座席に着いて映画が始まる前、姫ちゃんがバッグの中からいそいそと出して装着した黒いセルフレームの眼鏡−−ブログの画像でもかなりレアな「眼鏡っ子姫ちゃん」を間近で見ることが出来たのだから。

 蒼介は姫ちゃんとの距離が一気に縮まったように感じた。
 しかし、それが喜ぶべきことなのどうかは分からない。
 目の前でパスタをフォークにちょっぴり巻き付けて小さな口に運ぶ姫ちゃんは紛れもなく女の子に見える。
 だが、それはあくまでも「見える」だけで、ぶっちゃけた話「付いているところには付いている」のである。
 蒼介は高校三年で社会からドロップアウトする気はない。
 ただ、姫ちゃんが男にはどうしても見えないし、何よりも「こんなに可愛いなら男でもいいや」と心のどこかで思えて来ている自分が怖かった。



 「ソウさんにはお姉さんがいるんですよね」

 パスタを食べ終わり、カフェオレボウルを両手で挟んで一口飲んでから姫ちゃんが訊ねる。
 仕草はどこまでも女の子である。
 適当に選んで入った店は、ハロウィンが終わったばかりなのに、少々気の早いクリスマスの飾り付けがしてあった。

 「うん、姉とふたり姉弟だよ」

 「いいなあ……わたしはひとりっきりだから」

 「姉がいてもうるさいだけだよ。まあ、もう結婚して出て行ってるから気楽だけどね」

 暗い話になりそうなのでなるべく姫ちゃんの家庭のことには触れたくないところである。

 「あの……」

 姫ちゃんがうつむいてもじもじしだした。

 「……ソウさんのこと、『お兄ちゃん』って呼んでもいいですか?」

 「えっ……あ、う、うん、いいよ。俺もうるさい姉より可愛い妹がいたらいいなって思ってたから」

 蒼介は気さくに答えた。
 ネット上のやりとりの時も何となく兄妹のような雰囲気だったし、そういう設定ならドロップアウトしなくてすみそうである。

 「迷惑じゃありませんか……?」

 「いや、全然大丈夫だよ」

 「よかったぁ……ありがとうございます……お兄ちゃん」

 姫ちゃんは自分で言いながら照れているようだった。


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