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Angel Voice - 神様の失敗 -
それぞれの時間(7)

 「仲良くしてあげてね」

 控え室に入る前、美月と同世代の女に紹介された。
 女は時里真奈美(ときさと まなみ)といった。
 達哉と、もうひとりデビュー前の新人を連れている。
 真奈美は「時里プロモーション」の女社長で、かつては美月とアイドルユニットを組んでいたという。

 「今はライバルだけどね」

 真奈美は挑戦的な目で美月を見た。

 「ただの同業者よ」

 美月のほうはあまり気にしておらず、真奈美が一方的に競争心を燃やしているように見える。

 「おふたりでやってらしたんですか?」

 「あら、美月に聞いてなかったの?」

 姫ちゃんは首を振った。
 美月はあまり過去の話をしてくれないのだ。

 「三人でやってたのよ。デビュー当時はそれなりに売れたんだから」

 「三人組って……キャンディーズですか?」

 「そんなに古くないわよ!」

 真奈美の隣で達哉が大笑いした。
 最近の美形アイドルと違い、線が太く野性的な風貌をしている。
 見た目に違わず「やんちゃ」で物怖じしない性格であった。
 そこが受けているのか、すでに多くのファンを獲得していた。
 しかし、姫ちゃんにとってもっと気になる存在が達哉の反対側にいた。
 おそらく中学生であろう、姫ちゃんより若く小柄である。
 ショートカットで愛らしい顔立ちをしているが、先ほどからたたえている笑みはどこか少女特有の「妖しさ」があった。
 それに加え中性的な独特の雰囲気をまとっている。

 「さすがに『同類』には分かるみたいね」

 姫ちゃんの視線に気付いて真奈美が紹介する。

 「デビューは先を越されたけど、可愛さでは負けないわよ」

 真奈美が少女の背を押した。

 「うちの『男の娘』、小鳩(こばと)ゆうきよ」

 『少年』は一歩前に出て、上目遣いに姫ちゃんを見て小さく頭を下げた。

 「ゆうきです。よろしくね、姫香『お姉ちゃん』」



 自分以外の「男の娘」の存在は大いに気になるところだったが、まず集中すべきは番組の収録である。
 姫ちゃんは自分の名前が呼ばれるタイミングをドキドキしながら待っていた。
 当初の段取りでは、歌ったあとに「実はこの子は男の子なんですー!」と紹介されて周りが驚くという予定だった。
 しかし、メディアへの露出こそ少ないものの、そこそこ曲も売れて男であることが有名になってしまったので、あとで性別をばらしても効果が薄いと判断され、歌う前に紹介されることになった。
 最近話題の「男の娘」として呼ばれ、何処から見ても女の子である見た目で驚かせ、その女装男子の歌声を披露させるのである。
 有名なったと言ってもまだまだお茶の間の知名度は低く、そういった「仕掛け」を作っておくことは十分意義があると思われていた。



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