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Angel Voice - 神様の失敗 -
姫ちゃんの憂鬱(2)

 シャワーを浴びた後、姫ちゃんは蒼介に無事に帰宅したことを報告するメールを送った。
 なるべく短めに気持ちを伝えて、想いを残さないようにして。
 送信完了の文字が消え、画面が暗くなっても姫ちゃんはそのまま動かなかった。
 知らずにまた涙が溢れてくる。
 とても楽しい一日だった。
 蒼介には予想通り、いやそれ以上に好感が持てた。
 まだ、たった十六年の人生で熱烈な恋など経験したことはないが、これほどまでに好きになれる相手は他にいないとまで思えた。
 蒼介が自分を見る眼差しも、そう言っていたように思える。
 だからこそ、もう会ってはいけない。
 男同士なのだから。
 蒼介は気を遣ってくれたけど、男を相手にしているという戸惑いは隠せていなかった。
 彼をアブノーマルな世界へ引きずり込んではならない。

 一生に一度と思えるほどの熱烈な恋は、今日始まって今日終わったのだ。



 携帯を置くと、姫ちゃんは鏡に向かい薄くメイクをし、再びウィッグを付けた。
 鏡の周りには両親との思い出が写真立てに入ってたくさん並べられている。
 フレームの中で微笑んでいる母親は、鏡に映っている姫ちゃんにそっくりだった。
 さすがに年齢差はあるものの、今のように黒髪のロングストレートのウィッグを付けていると、母親の学生時代はきっとこうだったに違いないと思えた。

 小さい頃から母親に瓜二つだと言われていた。
 事故の後、この家に引き取られたとき、一緒に持って来た遺品の中に母親のお気に入りの服が入っていた。
 母親にそっくりだと言われている自分が着てみたらどうだろう。
 サイズは少し大きかったが、鏡の前に立つと、そこには大好きな母親がいた。
 まるで自分と同じ年齢になって会いに来てくれたように。
 更にメイクも真似てみた。
 最初はもちろん上手く出来なかったが。
 誰よりも綺麗で優しく、一緒に居るだけで誇らしい気持ちになれる母。
 鏡の中の自分がそれに少しでも近付けるように、メイクの技術はみるみる上達していった。

 ……お母さん……お母さん。

 姫ちゃんは女装して鏡の前でぼうっとしていることが多くなった。
 それを叔父の真之に見られた。


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あきゅろす。
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