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淫獣たちの森
5.旅の終え方(5)

 「サリー……」

 母親に呼ばれてタレイアは耳を動かした。
 猫型亜人種特有の三角形の大きな耳である。
 自室のベッドで身を起こす。
 いつぞや親友のニケイアが訪ねてきたときはベッドに縛り付けられていたが、いまは拘束を解かれている。
 躰に起こっていた異変はほぼ消えて、普通の生活ができるようになっていた。

 「玄関にお薬が置いてあったわ」

 母親は小瓶を手にしていた。

 「黄色い瓶……」

 タレイアは母親から薬瓶を受け取って呟いた。

 「前にニケちゃん言ってたわね、黄色い瓶が最後だって」

 ニケは知り合いの僧侶に調合してもらっていると言っていた。
 淫獣の毒にあたっているので薬草に微量の淫獣のエキスを加え、それを少しずつ薄めていくのだと。

 「淫獣なんて……危ない目に遭ってまで届けてくれて」

 初めの頃は会って薬の効き加減などを聞いてから帰っていたのに、いまは玄関に薬瓶が置いてあるだけになっていた。

 「最近顔も見せてくれないのね」

 「忙しいのでしょう、あの子も」

 母親は窓を開け、朝の光を部屋に入れながら答えた。

 「ちゃんと瓶が届くのだから、きっと元気にやっているわ」

 「ありがとう、ニケ……」

 タレイアは窓の外を眺めながら呟いた。



 猫型亜人種のニケイアは森の奥へとさらに進み最深部へ到達していた。
 そこは太い触手が幾重にもとぐろを巻く淫獣の巣だった。
 その触手の渦の中心にニケが崇拝する女僧侶がいた。
 ヌメヌメした触手の束から何も纏わぬ上半身だけが見えている。
 芸術的な曲線で描かれた裸体は長い金髪と同様温かい光を放っていた。

 「ソ、ソフィ……ソフィ」

 名を呼びながらニケがそばに寄ると、彼女はしなやかな指を伸ばし優しくその髪を撫でた。

 「レイとマットが来たのね」

 ニケは言葉を発することなく、目を閉じて甘えたようにゴロゴロと喉を鳴らしているだけだ。
 数本の触手が躰にまとわりつくが、以前のようにそれに怯えることはなかった。

 「久しぶりだったのに、遊べなくて残念だったわね。でも大丈夫」

 ニケは触手の中で胎児のように躰を丸め、安心しきった表情をしていた。

 「お母様が活きの良い精気を次々に送り込んでくれるから、触手たちもどんどん成長しているわ」

 女僧侶はニケに子供を見守る母親のような優しい眼差しを向けている。

 「いずれこちらからみんなを迎えに行きましょう」

 そう言って、ソフィーティア・フォン・オーリックは女神のような微笑を浮かべた。



 −PART 5−

 epilogue「旅の終え方」

  END



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