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淫獣たちの森
4.仲間の選び方(14)



 「気がついた?」

 倒れているニケの顔を女僧侶が覗き込んでいた。
 道中を共にしてきたあの女ではない。
 身なりは似ているが、瞳には比べものにならないほどの深い知性の光を湛(たた)えていた。
 輝く長い金髪は月の光を受けてというより自らがまばゆい光を発しているようだ。
 流麗な曲線で描かれたスラリとした体型で胸だけがボリュームを強調している。
 身に着けた装備品は派手ではないが、決して安いものではないことがニケにもわかった。
 強烈な知性の光を宿した冷徹な瞳は一見人を拒むようにも見えるが、その中にあるどこか俗っぽい揺らぎがそれを中和して、きっと笑えば人懐こい笑みを浮かべるのだろうと想像させた。

 「亜人なんて珍しいわね」

 高潔そうな見た目に反して、飾り気のない口調だった。

 「あたしはソフィーティア・フォン・オーリック、見ての通り回復魔法士よ」

 「ニケ……ニケイアですニャ」

 「勝利の女神(ニケイア)? また、たいそうな名前ね」

 ニケは起き上がろうとしたが、手足に力が入らなかった。

 「まだ動かないほうがいいわ。というか、動けないでしょ。ずいぶん精気を吸い取られていたから」

 女僧侶は自分の魔法でも現状まで回復させるのが精一杯だったと言った。

 「助けていただいて、ありがとうございます」

 失礼とは思いつつ、ニケは横たわったまま礼を述べた。

 「いいのよ」

 女僧侶はぶっきらぼうに答えた。

 「他の人は……?」

 ニケは動けないので三角の耳をそばだてた。
 かすかに生気のない呻き声が聞こえる。

 「淫獣の餌食になってるわ」

 何とか声のほうへ首を曲げた。
 そして、息を飲んだ。
 女はうつ伏せに近い格好で宙に浮いていた。
 躰中に淫獣の触手が巻きついていた。
 前後の穴と口に太い触手が入り込み、ズルッ、ズルッと蠢いていた。
 男もまた触手にがんじがらめにされ木にもたれかかり座っていた。
 股間に太い触手が吸い付いている。
 躰は絶え間なく痙攣し、その度にゴキュッ、ゴキュッと触手の精気を飲み干す音が聞こえてくるようであった。
 ふたりとも目の焦点が合っておらず、意識は無いように見えた。
 ニケは、快楽の地獄というものがあるならこの場面こそがその地獄絵図だと思った。

 「た、助けてあげられませんか……?」

 ニケは女僧侶を見上げた。

 「助ける? あなた、彼らに酷い目に合わせられてたんじゃないの?」

 この人はどこから見ていたのだろう。
 淫獣に襲われる前のことも知っているようである。
 襲われているところを傍観していたのだろうか。
 一瞬、背筋に冷たいものが走ったが、すぐに振り払った。
 誰でも淫獣に立ち向かうのはそれ相応の覚悟が必要なのである。
 その覚悟を持ってこの女僧侶は自分を助けてくれたのではないか。

 「ご覧なさい。どっちにしろ、もう廃人だわ。社会復帰もできないし、このまま気持ちよく吸い取られてしまったほうがあの人たちのためよ」

 残酷だが正論かもしれない。
 助けたところでそのあとの面倒を見れるのかと問われれば、ニケには返す言葉がなかった。


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あきゅろす。
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