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淫獣たちの森
4.仲間の選び方(5)

 懸念は残るものの、このまま何もしないわけにもいかず、ニケはふたりの話に乗ることにした。
 ふたりはすでに準備ができているとのことで、ニケも財産は背負ったリュックひとつだったので性急だがすぐに発つことになった。
 町を出て西へ進み、村をふたつ通って次の小さな集落で一泊した。
 人間よりも亜人のほうが歩くのは得意なようで、彼らのペースに合わせるのは全然苦にならなかった。
 親友のタレイアのことは心配だが、外の世界は広くすべてが目新しく、あらゆるものに興味をそそられた。

 「保護区の外に出るのは初めてかい」

 ニケの様子を見て男が言った。

 「ホゴク?」

 最初何のことかわからなかったが、人間は亜人種の村のことをそう呼んでいるのだと理解した。

 「はい、村の外を見るのは初めてですニャ」

 語尾に猫型亜人種独特の訛(なま)りがある。
 それを意識するようなったのも人間と話すようになったからだった。



 翌朝、食事を済ませて集落を出る。
 淫魔の森に到着したのは昼食の後だった。
 都市部から遥か西に広がる大森林地帯の一部であり、その場所を正確に知るものは少ないと言われていた。
 天候に恵まれ青空が広がっている。
 しかし、眼前の森は木や蔦が鬱蒼と覆い繁り暗く湿っていた。
 ニケは森の入り口で立ち尽くしていた。
 うなじから背中に微量の電気が走り全身の毛を逆立てているように感じた。

 ……これは、ヤバイ。

 理屈ではなく、躰が危険を察知していた。

 「どうしたの、子猫ちゃん?」

 動かなくなったニケを見て女が声をかけた。

 「なんだ、入り口でもう怖気づいたのか!」

 男が豪快に笑ってニケの背をバンバンと叩いた。

 「心配すんな! 俺たちはもう何べんも来てるベテランだ」

 「そうよ、行きましょう」

 ふたりは躊躇することなく歩みを進める。
 ニケはこれまでと違った重い足取りでついていった。
 森の中は外の天気が嘘のような暗さだった。
 とはいえ、昼間なので何も見えず歩行に窮するとまではいかない。
 むしろ、足元がおぼつかないのは、訪れるものもなく獣道さえできていないためである。
 比較的歩きやすい場所を選んで通っていると、ところどころ木の枝に布が結んであったり目印が見つかる。
 これは女僧侶と戦士のふたりがつけたものだと言う。

 「ね、危なくないでしょ? いつもここまで来てるのよ」

 結構奥深く入ったところで少しばかり開けた場所に出た。

 「おう、ここが中継基地だ。今夜はここにテントを張るぜ」

 男が背中の大荷物を下ろす。
 ちょうど日が暮れてきたところだった。

 「う……うニャ」

 ニケが力なく応える。
 森へ入ってからというもの彼女の躰は異常を来たしていた。


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あきゅろす。
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