人形姫(十九)
 現実に意識が戻るにつれ、僕はバスに乗った本来の目的を思い出した。
 僕は、やはり、彼女に逢う為にこのバスに乗ったのだ。



 終点でバスから降りると、僕は白い建物の中に入る。知った顔に出くわす度、軽く会釈する。そうして、僕の足はある部屋の前で動きを止めた。
 ここに来ると何故か決まって、激しい息苦しさが襲う。それは、まるで何人たりとも近づけまいと拒むかのような、強い意思に思えた。


 落ち着け。

 僕は必死に自分の感情を押し込める。
 そして、扉のノブに手をかけた。

 部屋には白いベッドが置かれ、彼女が眠っている。辺りは彼女が好きな百合の花の匂いが充満し、僕の脳を刺激し……そして、ゆっくりと麻痺させてゆく。


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