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Access 4 情報屋

駅の階段を下り、男は近道の為に路地裏に入った。普通に歩けば幾つかの角を曲がって人通りの多い道を通過しなくてはならないが、この道を使えば公園を抜けたらすぐに目的地が見える。

スタ スタ スタ…

「…っ…う…」

だがその時、木に囲まれた奥の花壇の方から小さな呻き声のようなものが聞こえた。木の間からぴくぴく揺れる頭頂部が見えたが、男は先を急ぐ。仕事柄時間には常に余裕が無い。
だが呻き声が泣き声だと分かり、更にはその正体が幼い少年だと気付いた時、男は木々の間を抜けて少年の前に姿を現した。

「ふぇ…っ…?」

翡翠色をした髪を揺らし、少年は泣き腫らした目で男を見上げる。銀色の髪に少年の髪と同じ翡翠色の瞳。その射抜くような眼差しにビクッと肩を震わせた。

「ご、ごめんなさい…」

怒られる気がした。
だが男は何も言わず、そして零れ落ちる涙をそっと指で拭う。

「いつまでも泣いてたら笑われるぞ、カイリ・アイハラ」
「え…?」

名前を呼ばれたことに疑問を抱く少年、カイリ。だが胸元には小学校の名札がついていた為だとすぐ理解する。男がポケットから取り出したシルクのハンカチを擦りむいて血が滲む膝に結んでやると、カイリはゆっくりと立ち上がって土で汚れたズボンを叩いた。

「あ…ありがとうございます…」

赤らんだ頬を擦り、カイリは男を見上げる。男は何も言わず、振り返ると目的地へと急いだ。

「あっ…あの……っ」

然し既に男の姿は見えなくなっていた。
高そうなシルクのハンカチには"M.Sakurakouji"の刺繍。

「サクラコウジさん…」

カイリは溢れそうな涙を袖で拭い、結ばれたハンカチをきゅっと握った。


――――――

カランカラーン

薄暗いバーに入って来たのは銀髪でスラッとした線の細い男。片手には書類の入った茶封筒を持ち、辺りを見ることなくカウンターの奥へ入って行った。

「よぉ、お前さんにしちゃ珍しく遅れたんじゃねえか?」
「悪い」
「まあ気にすんな。そこに座れよ」

奥の席で待っていたのはデュークで、銀髪の男に座るよう促す。男は言われた通りに腰掛け、茶封筒をテーブルの上に置いた。

「χとか言う奴のことは出生から全て調べた。詳細はこれを見れば分かる」

今回、赤名からの依頼にχの調査は入っていない。だがアスラとデュークがボディーガードをするにあたり、必要と思って情報屋に調査を頼んでいた。
依頼費は勿論諸費用から賄うつもりだ。

「さっすがガイアさん!情報屋は何もかも調べられちゃうんですねっ!」

カウンターから声を上げたのはこの店のアルバイト、美咲相図17才。

「嬢ちゃん、他の客に話がバレないように奥の席を使ってるんだからそんな大きい声出すなよ。それに俺たちの話を聞くのは良くないな」
「だって聞こえるんだもん…」

不貞腐れたように頬を膨らませる相図に対し、デュークは深い溜息をついた。
相図は普通の女子高生で、ガイアが情報屋とは知っているものの何の情報屋なのか、更にはアスラやデュークがアサシンだなんてことは一切知らない。

「分かった。でも内容を口外しちゃ駄目だからな」
「はぁ〜い♪」

女に弱いデュークはこうしていつも相図に負ける。参ったなぁ…とでも言うかのように頭を掻くデュークを見て、ガイアは席を立った。

「じゃあ俺はこれで」
「オイ、もう帰るのかよ!まだ来てから三分も経ってないぜ?」
「そうですよガイアさ〜ん」

寂しそうにガイアの背中を見つめる相図だが、それに動じることはない。

「この後も忙しくてな。アスラに宜しく言っといてくれ」
「友人に冷てえなあ…まあ良いぜ。この仕事終わったらパーッと飲もうぜ」

グラスを持ったように手を掲げるデュークにガイアは頷き、カウンターを出た。マスターはグラスを拭きながら、チラリと横目でガイアを見る。

「ガイア…この前店に来た時に君の封筒の中に間違えてハンカチを落としてしまったんだが、知っているかな?」

ガイアは立ち止まり、ふと思考を巡らせる。
先日持ち帰った封筒の中に確かにハンカチがあった。マスターか誰かが間違えたんだろうと洗濯して持って来た筈だが…と、そこまで考えて先程の公園のことを思い出した。

「…ああ、失くした」
「失くした…?まあ、そんなに大切な物じゃないからいいが」

ガイアは一瞬眉間に皺を寄せ、そして店を後にした。デュークは渡された封筒から書類を取り出し、一通り目を通すとフッと不敵な笑みを浮かべた。

「マジか…さすがガイア、本当にここまで調べちまうなんてな」

デュークの額に一筋の汗が伝う。
そんな様子を見ていた相図は不思議そうに小首を傾げた。

「マスター、デュークさんどうしたんですかね?…マスター?」
「クス…さあね…」

マスターの切れ長の目が細められる。
相図は見たことのない二人の様子に、一人困惑していた。







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あきゅろす。
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