■佐伯雉鷹の朝は早かった。 毎年の事ながらに紙袋をカバンに忍ばせていたが彼も思春期なのか今年は少しソワソワした気持ちがあった。 案の定早めに学校に向かうと他校の生徒と思われる制服の生徒からまずチョコを受け取り、途中の近所でも知り合いから受け取り。 それから学校に着くと演劇部時代の取り巻きや下級生からもチョコや焼き菓子を受け取り。今時古いと思いながらも靴箱にも手紙が入っていた。 それでも彼はいつものように業務(チョコの整理整頓)をこなし朝の行事が入る前に礼拝堂に向かっていた。 少しだけ。上気した気持ちがあった。 ”後で部長にもチョコを送りますね” 先日書店で出合った際に笹目にそういわれたのだが。それも理由に一つある。 笹目の入籍には驚いた。しかもそれが自分の”兄”とのものだからかなり驚きを隠せずに居た。 半面で。”自分ももうそんな歳”なのか・・・・・・と思い始めたものもあるのである。 卒業先の進路は大学受験と決めているが自分も”笹目”たちと同じくいつかはそういった”輪”というものを作ることになるかもしれない。 「はぁ・・・・」とため息をつくと白い息が立ち登る。 神聖なその場所に今の自分が近寄ってもいいものかと思ったが・・・・・・・・・やはり礼拝堂は心のより所。今日は近くのベンチではなく中で朝の時間を過ごしたかった。 もとより”ソレ”についての考えをめぐらせたかったのである。 ”ましろと一緒に計画して・・・・・・・”告白”の準備は考えているが・・・・” まだそれは”準備段階”あくまで卒業までに自分の気持ちを伝えたい。 当初の段階ではそんな甘い気持ちから始まったのだが・・・・・・ 巡る思考の奥底で相手の気持ちを考える。 自分は”相手の気持ち”という物について考えた事があるのだろうか。 物心着くかつかないかそんなころに父親に叱咤された記憶がある。 それがなんだったか覚えては居ないがそれから早くして母親がソレと別れ後に死亡。 自分は教会のある孤児院へと預けられた。 そこからずっと俺の心のより所は礼拝堂であった。 ・・・・その頃から”相手の気持ち”なんざ考えた事が無い。 特に”男女間の交際”については冷ややかな目で見ていた気がする。 唯一そんな過去を知るましろくらいしか心を開いて話したことが無い。 そんな自分が。・・・・・”初めて他人に敬意を表したい”そんな気持ちで”告白”することを考えた。 けれども その中に”相手の気持ち”は考えた事があっただろうか。 そんな自問自答を繰り返しながら雉鷹は礼拝堂に向かっていく。 礼拝堂に着くと十字架の立てられた教壇の奥でステンドグラスがキラキラと輝いていた。 窓の外から差し込む朝の光がまぶしい。 ここに居るとくもった心も洗われるような気がする・・・・・・・ そんな洗練されたこの場所で・・・・・思考をめぐらせてもう一度・・・・・・・・・・ 雉鷹はそう思い椅子に座って十字架を見ていた。 ”自分は・・・・・・・・・・” そう思ううちにいつの間にか眠ってしまった。 昨日からのソワソワした気持ちが珍しく彼を夜更かしさせた。 演劇部時代夜更かしには慣れていたはずなのだが流石にそれも引退して体がなまったのかいつの間にか寝てしまった。 そして雉鷹は夢を見る・・・ソレは幼い頃の記憶・・・・・・。 ■NEXT■ [*前へ][次へ#] [戻る] |