☆ササメモリアル☆
■それぞれのバレンタイン■

■朝。佐々木望が家を出ると道の端に見慣れた老婆が立っていた。
「・・・っ・・・!?シノさん・・!??」
まだ雪も解けきらぬその寒い朝方から黒い犬を連れた老婆は待っていた。

近寄る佐々木に「ォン!!」と嬉しそうにテツが駆け寄ってくる。
「今日はばれんたいんじゃけぇのう。これから爺様のお墓に行くついでにお前ぇさんにもプレゼントしにきたんだわ。」
そう言って手渡されたのはラップに包んで紙袋に入れられた干し柿だった。

「死んだ爺様の大好物じゃったけぇ、おめぇさんにも喜んでもらえるといいんじゃが・・・・」
「シノさん・・・!!!!気持ちは嬉しいけどこんな寒い朝から待っていなくても・・・・・・!!!」
連絡先を知ってるんだから電話くれれば来た物を・・・・

それに「お墓って確か一人で行くものじゃないって誰かに聞いた覚えが・・・」
佐々木は献身的な老婆に墓までついていこうかと話したが
「なぁに。わだすにはテツがいるっちゃい、まだまだ足腰も丈夫だで。」
そう言ってシノさんは冷えた身体をさすりながら振り返って道を行く・・・・・・・・

「シノさん・・・・」佐々木がそういうと。
「あ・・忘れどっだ。」

「これ笹目からお前さんにじゃけぇ・・・・・」
それは綺麗な紙袋に入れられた数枚のチョコチップクッキーであった。

そしてその手紙には「大好きなお婆さまへ」と書かれていたが
「シノさん・・・コレ・・・!!」佐々木が慌てて足早に去っていくシノを追いかけようとしたが
「笹目にはないしょじゃけんのぉ・・・・・・」とシッっと笑顔で指を立てられ何も言えなくなってしまった。

「・・・・待ってシノさん・・・!家にカイロがあったから貼るタイプの奴もらってってくれ・・・!」
何度か言葉を交わすうちに会話も打ち解けてきたのかお互いそんなお茶目な話ができるようになっていた。

ただ。これが老婆でなかったら佐々木は後ほど茶化されずにすんだものを・・・・(ぇ・・・・・・・。


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「おはようございます!神風くん、メイちゃん!」
笹目は少々目を輝かせながら登校してくる二人を待っていた。

「笹目和美・・・//!!!!!!!」
「笹目さま・・・!」

やはり振られたといえども鳳太は鳳太である。
だが一気に急上昇した機嫌もまた笹目の指にはまったソレを見て落ちるのだが。
「・・・・・今日はバレンタインですからね!二人にもクッキーを用意したんですよ!!!」

と、小さな紙袋に入れられたそのクッキー。それは朝佐々木がシノから渡されたソレと一緒だった。

「二人にもってことは他にも渡す相手がいるんですね。笹目さま。」
メイのその言葉に一瞬また気持ちが上気した鳳太の機嫌も一気に急降下する。

「もってことは・・・”まさか”・・・」

「ハイ。コレ。”部長”にも渡してください」
そう言ってニコニコと渡されたソレ。
ソレはやはり鳳太が渡されたソレと同じものであった。

鳳太の言った”まさか”の人物は彼ではなかったがそれでも”気が合わない”ソレに不機嫌になる。

「(・・・・・・絶てぇ渡さねぇ・・・・けど・・・・・)あ。あぁ・・」
鳳太はそう言って一応返事をして両方受け取ると、
どちらも同じ胸ポケットにしまうのであった。

「笹目さま・・どう考えてもこれは義理の方ですよね。”本命”の方は何を作ったんですか?」
自分のチョコを渡しながら聞いてくるメイに笹目は「内緒」としか答えられなかった。


実は用意できなかったのである。”恥ずかしくて”
こういった仲なものでどういったシュチェーションで渡せばいいのかが思い浮かばなかったのである。
気持ち程度であれば市販のものでも構わなかったのだが”自分の気持ち”を表すには流石に年上の同姓相手には恥ずかしいものがあった。
家にシノが一緒に居るとはいえ二人きりになるチャンスはいくらでもある。

だが笹目はそれが嬉しい反面怖い気持ちも持っていたのだ。

自分にはまだ何も無いような気がしていつ飽きられてしまうか分からない・・・・・・
”彼”が好きなのは”演劇が好きな自分”なんじゃないのかと時々思うことがある。

歌う事も踊る事も止め。時折休日に一緒に歌うが鬼似鷹こと佐伯雪鷹が歌下手だということに最近気づいてかなり驚いた。

”音痴”といっても歌う以外はさほどソレを感じないが異常にキーが高いのである。
それは驚きの反面笹目には少々憧れもあった。

声は悪くない。只それが上手く表せていないだけで・・・できることなら自分もそういった声が出ればよかったのに。

”演劇”から脱退した”自身”に時折悔しさを感じる。”鑑賞”中にも自分と比べて自分にはこんな魅力が無いんじゃないかと思ってしまう。

それだけ”好き”でやってきたものだから”捨てる事はできない”そんな気持ちが頭にある中で”自分”に少々自信が持てなくなっていた。

それでも自分のクッキーを喜んで受け取ってくれた鳳太やメイには喜びを感じた。
そして”やっぱり”チョコを用意できなかった自分に罪悪感を感じる・・・・・・・

「私もカトリック科だったらよかったなぁ・・・・・」そうすればこんな気持ちは浮かばなかったかもしれない。
なんとなくポツリと呟いたそんなバレンタインの出来事である。

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あきゅろす。
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