■目が覚めるとその部屋はもぬけの空となっていた。 「兄さん・・・・」 いつの間にか外されていた眼鏡をかけて気だるい身体を徐に起こし残されたベッドから周りを見やる。 月日は2月4日。立春を迎えていた。 「・・・・・・・・」 まぶしい光が窓の外から照らされている。 近くにあった服を着て、窓の外へと顔を出すとまだ肌寒い空気が白刃の頬をかすめていった。 「・・・・・・・・もうすぐ。春が来るんですね・・・・・・・」 そう言って彼は自分の携帯を見やる。 パスワードの先の待ち受けにはある少女と一緒にとった写真が飾られていた。 「待ってますよ。華桜・・・・・蘭姫さん・・・・・・・・」 華桜高校に巻き起こっていた脅威は一夜にして消えたのである。 残るはこの先の後始末・・・・・・・”彼女”が、 大好きな”自分の生徒”が”胸を張って”高校のその門を叩くまで。 携帯に口付けをすると白刃はシャワー室へと向かって行った。 兄の事だ、朝にはもうこの部屋も解約しているに違いない。 汚職をそのままに逃げられたが”地位”は自分が頂いた。 もみ消し・・・・・・なんて汚い真似はしたくは無いが綺麗な学校教育を目指したい。 白刃はそう思う事にした。 -------- 翌日。 「白刃先生が・・・・・・・//」 学校に通った蘭姫は一新にその姿を探したがそれは見当たらなかった・・・・・・・・・。 帰ってくるとドアを閉めそしてそのまま泣き出した。 と、そこに。 「泣くんじゃないわよ・・・・私だって・・・・・・・・・泣きたい事は沢山あったけど・・・・」 そう言ってカセンがやってきた。 泣きたい事は沢山あったけれども何故かいつの間にか開放された。 そう思い新しく入った校長に呼び出され、彼女もまた自分の仕事から解放された事を知った。 これで晴れて”戒”と胸を張って交際できる・・・・・・・ わだかまりはまだあったが自分もソレに涙した。嬉しくてその新校長に抱きついた事は目の前の彼女には内緒である。 「あんたもさ・・・・早く大きくなってうちの高校に来なよ。・・・そしてさ。胸を張って笹目先輩みたいになればいいじゃない。」 そう言って蘭姫の頭を撫でた。 昨日、節分の晩に泣き出して外に出た自分を真っ先に抱きしめたのは笹目であった。 「これも何かの節目です。縁起のいい晩に当たったのですよ」 意味は分からなかったが自分はその辛さから解放された。 その笹目先輩を構成するものの一つとしてあの緑毛が居てもいいかもしれない。 自分の好きな人の憧れは自分も好きだと思う。 だから・・・・・・ 「あんたの好きな人も。私は好きよ・・・・・・・」 実際初めて会った”白刃校長”のイメージはクリーンだった。 あぁ。”この人”が”あの子”の好きな人なんだ・・・・・・・・ 暖かい印象がそのまま伝わってきた。裏ではこれから忙しくなるのであろうが。それすら分からないほどクリーンな印象の素敵な男性であった。 「だからさ・・・・・・蘭姫。泣かないで。」 ”早く大人になりなさい” カセンはそう言って蘭姫の額に口付けた。 いつか笹目先輩が自分にそうしてくれた”魔法の解き方” 自分を幸せな道へと繋ぐ新たな魔法。 「行こう、蘭姫。」 ”街はもうすぐバレンタインよ・・・・!” そう言ってカセンは蘭姫の手を引いて外へと向かって行った。 彼女達を祝福するように白い光がキラキラと空から降ってくる・・・・・・・ 少々肌寒い祝福だが彼女達の春は始まったばかりである。 ■END■ [*前へ][次へ#] [戻る] |