☆ササメモリアル☆
■憂鬱/笹目D■

■食事が終わると板脇シノは”お風呂に入る”と出て行ってしまった。
テツを挟んで二人きり。鬼似鷹と笹目が二人になったその折である。

「笹目さん。寒くないですか?」
制服姿の笹目に話しかける鬼似鷹。ソレに答えるのが恥ずかしくて笹目は片付けの準備をする。

といっても縁側に座る分には構わないのだが室内に戻って二人きりはかなり恥ずかしい。
笹目が一人食器を持って室内に戻るかどうしようかと迷っているところ鬼似鷹が次の言葉を投げかける。
「笹目さん・・学校は・・・楽しいですか?」
その言葉に笹目はびくりと肩を震わす。

「学校・・・・?」
途端に急な不安に襲われた。そういえば鬼似鷹さんはなんで今この家に居るんだろう。
そしておどおどとした表情で目線を下に泳がせる。何て答えたらいいんだろう。そして出た言葉がこれだった。

「誰から・・・・・・?」”誰から聞いたんですか?”誰かの差し金で今ここに居るのだろうか。
急な不安に襲われる。そういえば彼は場所が違えど学校関係の人間であった。

「私は別に誰かの差し金で来たわけではありません。只、単純に笹目さんの事が気になって足が向いただけです。」
”嘘だ・・・・”笹目はそう思った。しかし何故自分は制服を着てしまったのだろう。
「学校は・・・・・楽しいです。」

嘘だ。目線を泳がせながら出た言葉がソレだった。

「そうですか・・・・・」
そう言って鬼似鷹は目線を下に降ろすと下に座っていたテツを一撫でしてこう言った。
「近々18歳以上を対象にした劇団のオーディションがあるんですよ。」

「え・・・・?」
”劇団?”その言葉に笹目の瞳孔が大きくなる。

「笹目さんがもしプロの世界を目指すなら・・・・・・・・・そんな話があってもいいかなと思ったのですが・・・・・」

”プロの世界・・・・?”そういわれて笹目は少し泣きたくなった。強いプロ意識を持って歌った学祭でのある女性を思い出す。
”プロ意識・・・・”そんなものは私にはあるのだろうか。胸を張って学校に行けていない自分にソレを投げかける。

「私は・・・・」笹目が何かを返そうとすると鬼似鷹がまた話し出す。
「でも私は笹目さんにソレを受けてもらう前にちゃんと学校に行って胸を張って卒業してもらいたいんです。」
”卒業?”何のために?・・・・目の前に”プロ”というへの道が見えかけている中笹目は学校に居て足を止めるような気配に迷いを感じていた。

「笹目さん。”学校”という物は”本当に”幸せな空間なのですよ。」
色んな事を学んでそして自分を磨いて。誰かがソレを守ってくれる。

”護り手があってそして幸せに居られるのが学校だと私は思います”
「護り手・・・・?」

そんなもの私にはあるのだろうか。誰かに護られている感覚・・・・・・・・・確かにソレは部活には感じていた。部長が居て顧問が居て護られた空間で演技をする自分。
それがなくなってしまい棘だらけの世界に出るのが怖かった。
それでも

「今の”学校”に自分を守るものは無いと思います。」
笹目はそう答えた。

「その中に・・・・”自分自身”も含まれるのですか?」

”え・・?”

笹目が不意に顔を上げる。すると今度は鬼似鷹から額に口付けをされた。
「これは私からの祝福です。・・・笹目さん学校だけはちゃんと卒業してください。」

「でも・・・・・」
額に手を当てながら目線を逸らす。自分には”卒業”する目的がない。

ずっとそこにいられれば幸せなのかもしれない。でもいつかはそこを離れてしまう、
なら誰かに引き裂かれる前に自分の意志で・・・・・・・・

笹目はそう思った。幸せな場所だといわれても卒業すれば終わってしまう。
それなら最初からそんな幸せ・・・ないほうが幸せかもしれない。
自分が”ソレ”に気づく前に離れたくなってしまったのだ。

それだけ本心の奥底では”その場所”が好きなのである。

「笹目さん・・・・」
鬼似鷹がまた話しかける。

「ココにオーディションの応募用紙ともう一枚申請書があります。」
”貴方はどちらを選びますか?”

そう言って目線を向けたその先には”劇団”の応募用紙ともう一枚

”婚姻届”と書かれた文字が見えた。

「え・・・・・・?」

驚く笹目に鬼似鷹は言った。
「貴方が本当にプロの道を目指すなら・・・・まずはちゃんと卒業して”笹目和美”を演じてください」
もしそれが出来ない・・・・というのなら”まずは”私のために・・・・・”笹目和美を演じてくれませんか?

「え・・・・・?」笹目にはその意味が分からなかった。
”プロに”なりたいのだろうか。・・・・・だが、甘い誘惑がもう一つ存在する・・・・・・
その中で選ぶのは・・・・・・・


そして次に目に付いた文章は”婚姻届”という紙に書かれた”佐伯雪鷹”の文字であった。

「”佐伯・・・・・・・!??”」
その言葉に笹目ははっとして涙を流した。

「”鬼似鷹さん・・・・・・・・貴方は・・・・”」
貴方の本当の名前は・・・・・・・・・。

ずっと見られていたのかもしれない。そうかもしれない。でも実は違うかもしれない・・・・
けれども”その名”を知って涙が出た。

ずっと頂いていた”恋心”ソレがまた芽吹き始める。

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あきゅろす。
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