☆ササメモリアル☆
■笹目と麗姫(学パロ)■

■それは突然の出来事だった。
「笹目和美(なごみ)さんですか?」
「え?」

突如目の前に訪れた大きな黒い車の中からどこかで見たことのある赤い髪の眼鏡の少女が顔を覗かせた。
この人は確か・・・・・・・・

「初めまして。笹目さん。月代学園華桜校高等部、生徒会長の華桜麗姫(うるひめ)と申します。」
麗姫はぺこりとそう挨拶するとドアを開けて目の前に立ちはだかった。

「は・・・はじめまして・・・・」
声が少し強張った。華桜校生徒会というと校内で強力な権力を持つ組織だと聞いている。
ソレが突然どうして私なんかの前に・・・・?笹目は少々ソレを疑問に思ったがソレを問う前に麗姫が喋りだした。
「こんばんわ。笹目さん。私、今日は貴方をヘッドハンティングしに来ましたの。」
どーんと効果音が付くのではないかといわんばかりの発言に持っていたセンスを向けられ。笹目は少々驚いた。
「ヘッドハンティング・・・・?」

「えぇ・・・・。貴方の事はいつも公園で演劇の練習をしていると一部の生徒や親類からそう聞いております」麗姫はそう言った。
彼女といい鬼似鷹さんといいどうにも親類、家族・・・という言葉であのこの事を指しているような気がする。何故か笹目は”親類”という言葉に”蘭姫”のことを思い浮かんだ。

「あの・・・・」そう答えようとした笹目の言葉をさえぎるように麗姫が続ける。
「私。あなたの公演を何度か来賓席で見たことがありますの。その演劇にかける情熱に凄く感銘を受けましたが・・・・あなたはどうにも・・・・・」
”私生活で演技をしてはいませんか?”

その言葉に笹目はどきりとした。・・・・見抜かれている。同じ3年の同じ年頃の女性なのになんだか凄く上下関係が間にあるように感じる。

「実はそれから私あなたの事を一生懸命に調べましたの」
麗姫はそう言ってなにやら何枚か紙の重なった資料のようなものを取り出した。
「どうやら貴方にはまだ出会ったことの無い名前だけの許婚のような方がいらっしゃるそうですね。」

その言葉に笹目はびくりとした。・・・・見抜かれている。
私の最も弱い部分。「それから・・・・幼少時のときになにやら誘拐未遂にあったようで・・・・」
そう続ける麗姫に
「あの・・・!」笹目は勇気を出して声に出した。
「だからなんだって言うんですか!」少し感情的に・・・出てきた言葉がソレだった。

ソレを聞いた麗姫は資料に目を落としていた視線を笹目に向けると形の良い口でこう言い出した。

「私なら・・・あなたをその”不安”から。護って差し上げられます」
だからうちの高校の”歌姫”になりませんか?

そういわれて笹目は少し戸惑った。
”歌姫”・・・それは宣伝搭になれという事だろうか。

「私は。好きで”演劇”をやっているんです!・・・・”歌姫”とかなんとか”名声”のためにやってるわけじゃありません!!!」そう答える笹目に「でも今の貴方じゃ将来に道がありませんよ」
麗姫はそう答えた。

この人は・・私の何を知っているのだろう。・・・そう思うと少し怖かったが頭に浮かんだのは昨日の楽しいひと時だった。カトリック科の可愛い後輩と一緒に見てくれた可愛いお客の後輩さん。
それから・・・・・・”華桜校”といえば仲の良い蘭姫の通っている学園のことだが・・・それでも。
「どうして私に道が無いというんですか!!!私は。私自身の手で自分の舞台を手に入れたいんです・・・・!!!!」

そう言って笹目は「その話はお断りしたいと思います」
ペコリと頭を下げてその場を後にした。

もう3年。芸能の世界ではまだ身になる出来事は何も無い。けれどもこれまで”演技”といえどもずっと通ってきたその高校。”やっと”三年に上がって自分の手足を少しずつ伸ばすことが出来てきたのに・・・・・・・
私はここから羽ばたきたい。そう思ったその芽を先ほどのこの人は詰むつもりなのだろうか。

「そういうつもりじゃぁないんですけどね・・・・」
去って行った笹目の後姿を眺めながら麗姫ははぁとため息をついた。

「私なら・・・・・」
貴方を守ってあげたい。・・・・何故かそう思った。
好きでもない許婚のような人と将来一緒にさせられる。
それがどうにも資料を読んで心の片隅に引っかかった。

自分も似たような存在だから。

”ダイナさん・・・”
不意に思い人の顔が浮かんだ。
まだそれは開かされてはいない”妹”の保護者役。
このまま行けば私は”戒”と将来夫婦になるかもしれない・・・・・・・・・・

幼馴染として仲良くやってきたソレを彼の父親はきっとそう見ているだろう。
ソレが何だか寂しくて・・・同じ環境の彼女を助けてあげたかった・・・・・

私の傍で。それを護ってあげたかった。
けれども・・・・・

「彼女は自分の手で”運命”を切り開きたいんですね。」
そう思うと私も他の力を借りずそれを実現できないか・・・と思いたくなってしまう。

戒の事は嫌いじゃない。それでも・・・・
彼は・・・きっと”あの子の事を・・・・”

放課後生徒会室で拾ったシャープペンシル。それは戒が拾って彼女に届けてくると言っていたはずの物。申し訳ないが生徒会誌津の防犯カメラを覗いてみたら一部始終が写っていた。

やっぱり”戒は”「あの子が好きなんでしょうね・・・・」

性別を偽ってこの生徒会にやってきた丸眼鏡の小さな来訪者。
それが”上”からのスパイだと分かっていながらも・・・麗姫も戒もそれを受け入れた。

その上で戒はきっとあの子を好きなんだとそう思う。

なら”私は・・・”

「笹目さん。私も”貴方”と同じなんですよ?」
だから傍に置いて護ってあげたかった。でも

「貴方は私と違って”まっすぐな”翼を持っていらっしゃるのね」

籠の鳥は私の方だ・・・そう思いながら麗姫はまた車に乗ってその場を後にした。

■END■

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あきゅろす。
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