■礼拝堂に歌姫の独唱が響き渡る。その声量と人柄から出るのか大きな慈愛のようなものに観客はみな包まれていた。 涙するもの震えるものうっとりと聞き入るもの。 笹目もその中でその大きな存在に涙を流していた。 こんなにも世界が変る瞬間が自分にあったとは思わなかった。 それはMCが紹介する独特の世界観の中でのそれもそうだったが。同じ。同じ”三年生”でこうも”表現者”として尊敬すべき”人間”が目の前に現れたのには”多大”な衝撃であった。 自分はまた演劇部を引退して孤独な一人の”少女”に戻るんじゃないかと不安に思っていた。 それすら吹き飛ばすような強い歌声に笹目は心から聞き惚れてしまった。 「凄いですね。部長・・・・・!!!!あの。歌姫さんに後でお会いすることは可能ですか?」 横から笹目がそう聴いてきた。どうやら一目で彼女の虜になったらしい。 「あぁ・・・・可能であれば楽屋の方へ行かせてもうらうか・・・・・・」 笹目たちがこそこそそう言い合っているのを遠くから不穏な雰囲気の二人組みが覗いていた。 それはその場所に似つかわしくない来客だとばかりに非難の目を向ける神風家の両親二人であった。 ------- 同時刻校舎の前ではくすくすとまたよからぬ雰囲気の笑い声が聞こえていた。 「なんだあれ・・・あれ風呂敷って奴か・・・?だっせー・・・・・・・・田舎のばあさんがいも息子でも探しにきたのかよ。」 「そうそうあれじゃぁまるでドロボウかサンタクロースよ。変な風呂敷姿・・・・・くすくす・・・・・」 「サンタクロースってお前それ時期早すぎじゃねーの・・・・!!!!!!!だっせー・・・・でもウケけるー・・・・・!!!!」 そんな声が聞こえる中笹目の祖母である板脇シノは1人風呂敷包みをもって人を探していた。 そこに「おい、ばあさん・・・・!!!ここは都内でかなりの有名校なんだぜ。あんたみたいなだっせーババァが・・・・・・・!!!」 ついに勇気と愚行を勘違いしたのか1人の生徒が立ちはだかる。 そこに「オイ・・・!お前らそれはレディに対して失礼じゃないのか・・・・・!!!!」 現れたのは赤頭の神風鳳太。その言動と派手な見た目から校内でも彼を知らないものは少ない。 カトリック科であることが不思議な彼もまた愚人だと思われている人間である。 「あっれー・・・・もしかしてこの婆さんって先輩のお婆さんですか〜・・・・・?」 一部の生徒が調子に乗る。それが更に彼を苛立たせるも「ここは平等で神聖な桜聖学院だぞ・・・!!!!お前らこそそんな態度で学校側に泥を塗ってるんじゃないのか・・・・・・・・ん・・・・・・・?」 そこで初めて風呂敷包みの老婆と目が合った。 「あんた・・・・・笹目和美の・・・・!??????」 「・・・・・・・・・・そういうお前さんはいつぞやの若人じゃないけぇ?」 そこで周りが固まった。まさかここで演劇部のホープの1人”笹目和美”の名前が出るとは思わなかったからだ。それでことの次第を察した生徒達はそのまま散り散りにどこかに消える。 「・・・・・・婆さん。笹目和美を探しているのか・・・・・?俺も朝から探しているんだが全然見つからないんだが・・・・」そういうと鳳太は持っていた杖で頭を叩かれた。 「婆さんと軽々しく呼ぶんじゃない・・・・・・・!!!!!それよりわしはあの若人を・・・」 「若人・・・・・?」 鳳太がそういうといきなりわっと周りの生徒が騒ぎだした。 散り散りに去って行った生徒達とは別にことの次第を見守っていた生徒達を書き分けでどこぞの父兄が押し寄せてきたのだ。 「・・・・神風・・・鳳太くんだね・・・!!!」 「誰だよあんた・・・・・・・あ・・・っ!!」 最初は敵意を向ける鳳太だったが後ろからオレンジ毛のどこか誰かを髣髴させる面影を見せる女性が現れたので鳳太はすぐにことの次第を察することとなった。 「君・・・どうしてうちの和美を振ったんだい・・・!!!」 その言葉に毎回振られているのは俺のほうだ・・・!といいたくなったが鳳太は黙る事にした。 「そうよ。うちの和美ちゃんのどこが気に入らないって言うのよ・・・・!!!!」 そう言って言い寄る二人。そこに 「親がそんな風に娘を信じないから進むものも進まなくなるんじゃ・・・!!!」 とシノさんが一括した。 「か・・・・母さん・・・・・!!!」どうやら父方の母親であるシノさんには笹目父は敵わないようだ。 「見たどころこの若人もなかなかそれなりの器量のおどごだで。笹目になにがしたりすることもしねぇだろ」 「何もないんじゃ困るんです。お母さん!!」笹目母がソレに食いつくも・・・・・ 「俺は・・・・まだ自分の器が笹目和美を受け入れるほど広くは無いと感じたんだ・・・だから・・・・・・」 そういう鳳太に二人はそこで止まってしまった。 「じゃぁあながら成長したらうちの和美ちゃんをもらってくれるの」 それでも食いつたのは母親の方であったが 「そういう意味じゃない。俺は彼女に・・・彼女本心から笑みの絶えない人間になって欲しいんだ」 なんとなく見てて違和感を感じていたそれを口に出す。”友達”という存在になれてはじめてそれに少し気づけたのだ。 「何を言ってるか分からないわ。あなた。どうなの笹目ちゃんのことは好きなの・・嫌いなの・・・!??」 そう言って食いつく母親に「わがんねぇのはお前の方だ・・・!!!笹目の気持ちさちゃんどきいだんが?」とシノさんがまた言い始める。 「和美ちゃんの気持ち・・・・・?」「・・・・・・。」ソレを聞いて少し黙っていた鳳太だったが「この婆さん・・・他に用があるみたいだから先に失礼します・・・・。」と。シノさんを連れてその場を後にした。 「婆さんとゆったのはまだゆるしちゃおげねぇが・・あんだもなかなか見所のある若人だな。」 「その若人っていうのは辞めてくれないか・・・・・・俺にはちゃんと神風鳳太って名前が・・・」 「んにゃわしは別に名前までは聞いとらんそれよりあの若人に野菜を持ってきたんだが・・・・・」 「あの若人・・・・・・?」 「そう。死んだ爺さんにソックリないい若人じゃわいv」 とシノは思い出して心潤わすように微笑んだ。 「・・・・・よくわかねぇけどあんたはその若人って人に会いたいんだな。なら俺が会わせてやる。」 鳳太はそう言って校舎内を歩いて探す事にした。 ■NEXT■ [*前へ][次へ#] [戻る] |