■昨日の笹目家は散々だった。泣きつく母に怒る父。よほど神風君とのことがショックだったようだ。 普段はお父様とお母様の事を日記に書く笹目も今回ばかりは苦笑したが「他に好きな人と夢があるんです」となだめるようにそう話した。 「その好きな人というのは同じ学院のモノなのか・・・・?」 「い・・・いえ・・・・・・そういうわけじゃぁ・・・」 父親の反応になんと答えたらいいか分からなかったが笹目はそこで困ってしまった。 「和美ちゃん!!!お母さん明日桜聖祭に行くわ・・・!!!!」 「え?」 「だってこの話は神風家のお子さんの方から破棄の願いを出したそうじゃない・・・・お母さん明日行ってその男の子と話してくる・・・・!」 「な・・何のために・・・・・?」 「だってこんな素敵な和美ちゃんをいらないなんてどんな男の子なのか見てみたいじゃない・・・・!」 「いえ・・・そういうわけじゃないと・・・・」 「ならどういうわけなんだ・・・和美・・・・・」 父親にも追求されて笹目は困ってしまった。 明日は・・・部長と一緒に賛美歌を聴きに行く予定なのでできれば両親にはその姿を見られたくない。 今度はそれを勘違いして部長との仲を押されても困るからだ。 それでも・・・ 「そこまで言うならお父様とお母様の好きになさって構いません。・・・けど私は予定があるので一緒には参加しませんからね。」 そう言って笹目はリビングを後にした。 久しぶりの”自宅”の自室でそのまま眠る事にした。 そして翌日の朝を迎える。 ------- 「そうか・・・・笹目のほうは両親がこちらにくるのか・・・・」 「部長の方は・・・誰か来たりしないんですか?」 賛美歌の時間まで少し時間があったので雉鷹の提案の元カトリック科校舎を回る事にした。 そこにも色々な催しや装飾が施されていたが足早にそちらを歩きぬける。 それで笹目には滅多に来ないこちら側の風景は新鮮であった。 「うちは・・・まぁ・・・・・演劇部の公演が今回1日目になってしまったからな・・・ソレが無いなら特に見る価値も無いだろうと思って来ないんだろ・・・」 「そんな・・」 「・・・・・・・まぁそんな事はどうでもいいが・・・・・・・笹目は・・その。将来の夢とやらはどうするつもりなんだ?」 「え・・・?」 「・・・将来の話だ。・・・俺は小説家にもなりたかったが今は教師を目指して勉強している。 できればこの学校のような・・いや・・・・・・夢を大きく語るなら”ここ”の教師になりたいがな。」 「ここの教師ですか・・・・・」 部長の教育はかなり厳しそうだと思いながらもそれはそれで想像できる姿なので笹目は納得した。 「・・・私は・・・・迷っています。・・・・・・できれば両親よりもお婆様との今の生活を優先に考えたいし・・・・・・進路のことは・・今の皆とのふれあいが楽しくて・・・先のお別れを考えたくないというか・・・・」 「・・・・進路が決まったからと言って分かれることになるとは限らないだろう。」 「でも・・・・・・・部長とは多分別の道を歩むことになりますよね。」 笹目はとうに部長への恋心はどこかへ行ってしまっているのだが今こうして悩みを話せる相手も中々少ない笹目には部長は強い支えになる人間の一人だと思う。 「笹目・・・・」部長が何かを言うように話しかけたのをさえぎるように笹目は話し始めた。 「一応進路志望としてはどこかの劇団に入ることを希望はしているのですが・・・・・」 といっても実際の役者になるには何年下積みがあるか分からないが。”役者”の道を笹目は希望しているのである。 「両親は・・・なんて言ってるんだ・・?」 「先日までは神風くんのことがあったから・・特に何も言わずそっちの道の将来があるから安泰だと気楽に考えてたみたいですけど・・・・」 「そうか・・・・・それで今日の賛美歌の話だがな。・・・・・・歌い手の名前くらいは知ってるだろう?」 「生島・・・祥子さん・・・同じ3年のカトリック科の方ですよね。」 笹目の居る普通科にもファンの多い素敵な歌声の持ち主である。 只笹目は普段立ち入り禁止の礼拝堂に開放日といえども1人で近づく気にはなれずまともにその歌を聞いた事が無い。 「会って損は無いと思うぞ。お前の成長に何か役立つきっかけが出来るかもしれない・・・・」 「はぁ・・・・」 その言葉に”部長はやっぱり知り合いなんですか?”と聞いてみたかったが聞けなかった。 カトリック科での部長の交友関係は良くは知らない。普段はそちらの方にばかりいるので一般科の人間との交友関係は無さそうに見えるが・・・・・・。 「部長もその歌声が好きなんですね・・・・・・」 笹目がそう言うと雉鷹は暫し長考したあとに「あぁ・・」 と答えた。そして礼拝堂に戻りベンチに着く。 二人はそのまま”歌姫”が出ることを待つことにした。 ■NEXT■ [*前へ][次へ#] [戻る] |