■明日の賛美歌に笹目和美を誘ったのには彼女にも”生島祥子”という人間を知ってもらいたかったと共に普段は入ることの出来ないカトリック科の礼拝堂を含めてこちら側の世界の事を彼女にも知って欲しかったからだ。 自分が好きだと思う世界を好きだと思うものにも知ってもらいたいと思うのは人間の性(ひとのさが)だと思う。 といってもとうに佐伯雉鷹は笹目にふられたことになっているわけであるが・・・・ カトリック科の公演プログラムの日程表を見ながら佐伯雉鷹も昼食を取っていた。 明日の午前に”生島”が唄う。 いつもニコニコと笑みを向けながらこちらに近づいては覗きにきたり人を”へんてこ”呼ばわりしたあげく”主に代わって清する”だとと笑みを向けられ・・・・ 色んな姿を見せるソレはどこか笹目のそれににているような部分がありながらも生き生きとした芯からの表情を見せてくれる。 おっとりとした抜けた部分もありながらもそういった芯の強い部分に佐伯は敬愛心を持っていた。 それは彼女の歌声にも精通するものがあり。笹目にそれを出会わせることでまた一つ彼女に成長して欲しく思ったからだ。 それとまた・・・・・・・ 自分自身がその歌声を聴きたいという欲望もどこか奥底にあるわけで。半面でそれを表立って出すのがなんだか生島の手の上で転がされているような気がしてなんだか癪に障るというか・・・・ 「別に・・・俺は生島の歌声に惚れているだけで・・・そういうわけじゃ・・///!!!!!」 ・・・・誰に対して言っているわけでもないが不意にそんな言葉が出た。 勢い余って手に持っていたプログラムがぐしゃりと音を立ててへし曲がる。 ・・・・紙で出来たソレはとても脆く彼の指先に絡みつくと今度はソレが居心地悪そうにちくちくと手に主張を繰り返す。 「・・・・・・・先生に言ってプログラムをもう一枚もらってくるか・・・・・・・」 咥えていた飲み物のパッケージのストローを吸いながらついに中身がなくなったそれをゴミ箱に捨てる。 近くのゴミ箱は模擬店のトレーやビニール袋などでパンパンになっていた。 「・・・・・・ゴミが出ることは構わないが校内は綺麗な空間であって欲しいがな・・・・」 雉鷹がそうため息をつくと何故か神風鳳太がこちらにやってきた。 手には幾枚かの写真を握り締めている。 おおかた文化部のどこかから今日の公演の写真を買い占めてきたのであろう。 ソレを見て雉鷹は苛立ちを感じながらもはぁとため息をついた。 それでも・・・ 「今日は頑張ったな・・・・・・お前。少しは俺も見直したぞ・・・・・・・」 鳳太の方に向かっていきそういうと彼はいきなり何か嫌なモノでも見たように顔を青ざめさせた。 「・・・・お前・・・・」 佐伯が不機嫌そうにそう返すと「お前からそんな言葉が出るとは思わなかった・・・・!!!」 と正直な感想を口に出した。 「・・・・・・・・・・空気の読めないやつだな。」雉鷹がそういうと「それはどっちだよ!!!!!!!!」と返された。 どうやら写真を手に入れてウハウハだったところに天敵・・・・・・・というほどではないが苦手な奴が現れて一気に気分が急降下したようである。 「そうか・・・人がせっかく褒めてやったのに・・・・お前は・・・はぁ・・・・・」 そう言ってため息をつくと後ろにちらりと礼拝堂が見えた。 明日その場所に笹目と行く。 自分が”部長”で居られるのもあと少しの時間かもしれない。そうなると笹目との関係もそこで切れて終わる可能性もある・・・・だが自分は生島の歌声に敬愛を表すように笹目自身にも役者として敬愛している。 出来ればその”成長”にもう少し関っていたい・・・・・・・。 恋愛・・・・・・感とはまた違った愛情のようなものを雉鷹は笹目を含め部員達には持っているつもりだった。それは笹目だけでなく黒川や他のメンバー達にも言えることだ。 それでも刻々と3年は卒業。引退のシーズンが近づいてくる。 演劇部も世代交代の時を向かえ自分もまた一つの居場所を失うことになる。 そうなれば礼拝堂が心のより所としてまた大きく自分の中に出来上がるであろう。 「笹目も同じくこちら側の人間だったらよかったのにな・・・・・」 何故か不意にそんな言葉が出た。やはりカトリック科と一般科。少々存在に壁がある。 笹目との関係も部活が終わればそのまま切れるだろう。 ・・・雉鷹は間近にせまるそれを刻々と感じながら明日の賛美歌を待つことにした ■NEXT■ [*前へ][次へ#] [戻る] |