■「もしお前がよければ明日の午前・・・一緒に賛美歌を聴きに行かないか・・・・・?」 ・・・いきなり部長にそういわれて笹目は驚きもしたが賛美歌の場所がカトリック科の礼拝堂ということもあり普段は立ち入り禁止のその神聖な場所に入れることに目が行ってしまい笹目はそのまま承諾した。 「リリちゃんは・・・礼拝堂には入ったことがあるんだろうな・・・・」 顧問の話では彼女は文化祭中は休んで寮で休養しているとこのとである。 「会いに行きたいけれども具合悪いところに行ったら迷惑かもしれないなぁ・・・・」 そんな事を思いながら笹目はフラフラを足を震わせながらベンチでお弁当を食べていた。 今日のお弁当は祖母のシノさんが早起きをして作ってくれたものだ。 なにやら元気の出る野菜を中心に料理して詰め込んだものだという。 笹目は元々元気なつもりだったが・・・・・・やはり少しだけ不安に思っていたものがあった。 それは海外に暮らしている両親の事である。 笹目の両親もまた桜聖祭の日に一時帰国するとのことであった。 「多分今日の夜あたりには自宅の方に帰ってきてるんだろうなぁ・・・・」 それは笹目がこの学院に入る前に住んでいた家。まだそれは売り地に出されず残ったまま彼らの一時帰宅の場所として残してあったのである。 ソコに両親が帰ってくるという事は今日は祖母を1人残して自分はその家に帰らなければならないことになるのだと思う。 笹目がそんなことを思いながらお弁当をつついていると、「隣・・・いいか・・・?」 と神風鳳太がやってきた。 「・・・・どうぞ・・・・」 といいながら笹目が隣に人一人分の席を開けるともう1人分少々距離を置くように移動した。 「・・・・・・・・」 相変らずあまり歓迎されているのか良く分からない距離感を取られたが彼は気にせず隣に座ってきた。 「これやる・・・・・」 ”ん・・・”とそういわれて差し出されたのは模擬店のフランクフルト。只焼いただけのそれであったが一応彼からの労いのつもりらしい。 「ありがとうございます・・・・」そう言って笹目がソレを手にすると鳳太は「はぁ・・・」とため息をつきながら「・・・”許婚”の件・・・親になかったことにするようにお願いしといたから。」 と自分の足元を見ながらそうつげた。 「い・・・いいの・・・・・?」笹目が驚きの表情を向けながらそう聞くと 「せっかくやっとの”関係性”が出来たのに”ソレ”が負担になってたら嫌だから・・・・・・」 な。と付け加えた後に鳳太はもしその関係性が欲しくなった場合は親同士の決め事ではなく本人同士の意識としてそれを手にしたい。と心に秘めた。 「・・・・これからどうすんだ?」 と鳳太が聞くと笹目は「特に予定は無い」としたものの他のクラスで行われているフリーマーケットの方に行ってみたいという旨を話してきた。 「フリーマーケットおぉぉぉぉ・・・・?」成金の彼が少々眉をひそめる。 「えぇ・・・お婆様とテツにお土産を・・・なにか見つけられたらと思って・・・・」 ”それとゆず茶をご馳走いただいた彼にも何かしらお礼をまたしたいとおもいましたので。” 「・・・・ゆず茶?」 鳳太が不思議そうに見つめると笹目はふふっと笑って「内緒です」と微笑んだ。 「フリマ・・・1人で行くのか・・・・・?」 「ハイ。・・・・・・・一応お財布は持ってきてますし。誘いたい誰かも特に居ませんので」 笹目がそう苦笑する。 そういえば幾人かの後輩と演劇部の同級生以外とはクラスの人間や他の女子と仲良くしている姿を見たことが無い。 鳳太が不思議に思いながらも声をかけようとすると笹目はそのままお弁当を持って足早に校舎のほうへと消えてしまった。 「誘いたい誰かか・・・・・・・」”自分”がその中に入っていないのが少々寂しく感じたが。鳳太はそれを大人しく見送った。 校舎沿いでのその珍しい組み合わせのやりとりを幾人かの生徒が見ていたが二人はそれに気づく事もなくまたお互い別方向に歩みだすのであった。 ■NEXT■ [*前へ][次へ#] [戻る] |