■「そうか・・・黒川は当日欠席か・・・・。」 文化祭の最終調整をしていたところに顧問からの連絡が入る。 演劇部もステージで短い劇を行う予定だったのでその調整をしていたところだ。 「先生がなにやら体調不良って言っていたけれども・・・・」 笹目も不安そうに顔を上げる。 部長、こと佐伯雉鷹は当日のスケジュール表を見ながらそれとにらめっこしていた。 「黒川が出れないなら演目を変えるようだな・・・・・」 ”ちょっと風に当たってくる・・・・” そう言って当に日の落ちた校舎の外に雉鷹は出て行った。 -------- 「笹目家の長女と手をとっての将来が見える姿を楽しみにしてるぞ・・・・・」 電話口で最後に聞いた言葉がソレだった。 どうやら今度の文化祭。・・・・・・海外から父と母がやってくることになった神風鳳太は頭を抱えていた。 「どうすりゃいいんだよ・・・」 思い出すのは先日の出来事。花束を持って歩いていく途中を横切るように走り去る笹目和美。 ちらりと視界の端を横目でとらえるようにこちらと目が合ったがそのままどこかへ消えてしまった。 ・・・・・それから暫く文化祭の準備が始まってからはなかなか姿を追うことが出来なかった。 時折カメラを持って追いかける事が出来たがそれでも面と向かって会う事が叶わずそのままひきずるようにこの日を迎えてしまったのだ。 表向きは両親の公認の”許婚”・・・のようなもの。なのだが。まだ笹目和美とはちゃんとした面識を持てずそれすらちゃんと伝わっているのかが分からない。・・・・・・・だが、下手に目の前に現れてもまたいつものように変人だと思われてあしらわれる。 できれば両親の前ではちゃんとした”公認のソレ”の姿を見て欲しいとは思っているが・・・・逆に両親が現れたことで彼女を傷つける事になるのではないか・・・・・と神風鳳太は感じていた。 なんとなく・・・・なんとなくだが・・・・・この自分”ひとり”の感情で彼女を束縛してしまうのは・・・演劇の道を歩む彼女を潰してしまうのではないかとそう思う自分が居る。 1人の女性。というものもありながら。自分は”演者”としての笹目和美に憧れているのだ。 そう気づいたのはつい最近のことである。 「「はぁ・・・・・・」」 鳳太がため息をつくと同時に近くでもう一つの声が漏れた。 「・・・・・・!お前は・・・・!」 先に気づいたのは佐伯のほうであった。 -------- 「それで・・・お前は・・・どうしたいんだ・・・・・・?」 中庭のベンチの隣に座って雉鷹が話しかける。 「どう・・って・・・何がだよ・・・!??????」 少々煙たそうにそれに答える鳳太。 「お前は・・・・自分の気持ちを笹目に伝える気はあるのか・・・・・・?」 「”自分の・・・気持ち・・・・!!?”」 「正直俺はお前がどう思っているのかが良く分からない。行動にしても言動にしても真剣味という物を感じないのだが・・・・・・・役を降りる気は無いのか・・・?」 「・・!役を降りるって何だよ・・・!!!!!俺は他人の操り人形じゃないんだぞ!!!俺に役なんてない!俺は俺だ・・・・!!!!!!!!!だから・・・・・///!!!!!!」 「・・・・・・・・役不足だと思うがな・・・・・。」 「・・・・っ・・・・!!!!何だと・・・・!???????・・・俺は・・・・///!!!!!!」 「じゃぁ。試してみるか?」 「・・・・・・え・・・・?」 「もしお前にその気があるのなら明日の劇の演目の主役として笹目の相手役をしてもらう。」 ”そこでお前が気持ちを伝えて・・・・それで笹目がOKを出せばお前の親も安泰じゃないのか?” 「・・・・っ!!!!お前・・・!!!!!!!!!・・・笹目和美はお前の物語の道具じゃないんだぞ・・・ !!!!!」 「・・・・そうか。お前がそう思うなら自分でその物語から生きた彼女を救い出せばいい・・・・」 ”ヒーロー気取りのお前には丁度いい役柄だと思うがな” 「・・・・お前・・・・!!!!!!!」 苛立つ鳳太が佐伯の胸倉を掴むとそのほうに一筋の光る何かが伝わった。 「・・・・・・・・・俺はそれすらできなかったんだ・・・・・・。お前にはそんな後悔はさせたくない。」 ”フラれても構わないから気持ちだけは伝えて来い・・・・!!!” 「・・・フラれる気は無ぇよ・・・!!!!!」 ・・・・・・鳳太が佐伯から手を離すと彼はすぐさま背を向けて去って行った・・・・・・・。 手には目薬が握られていたがその意図は掴めない。 ■NEXT■ [*前へ][次へ#] [戻る] |