■私は笹目。”人魚姫” ・・・・私の好きな人は・・・・・・・・・・・ 「”めーちゃん”って、好きな人。居る?」 不意に蘭姫ちゃんに言われたあの言葉が浮かんだ。 私の好きな人・・・・それは・・・・・・・。 「鬼似鷹(きじたか)さん・・・・」 中等部校門前。蘭姫ちゃんに会いにそこへ向かうと大きな黒い車がソコに止まっていた。 中等部生徒会長”華桜里利(さとり)”ので迎えの車である。 その運転席隣。助手席から出てきたのが”鬼似鷹”と呼ばれたその男。護衛の三従者の1人である。 「こんにちは・・・・///」 頬が少しだけ赤くなり声も上ずってしまう。 黒いスーツに赤いネクタイ黒緑の短いウェーブ毛がその名の通り”雉”を思わせるその風貌。 以前他の施設のミュージカルを見に行った時に出会って以来どこか気になるその方に。久しぶりに出会ってしまった。 「こんにちは。・・・笹目さん・・・・・・あの日。”以来”ですね」 にっこりと眼鏡の奥から微笑むそのまぶたが印象的で独特の黒緑のマツゲがとても美しい。 ”あの日”ミュージカルを見に行ってたまたま隣に座って意気投合した。その日。 公演時間が夜間だったためそのまま家まで送ってもらった”その日”の事である。 何故か自分が蘭姫の友達だと明かすとそれは”私の家族も同然です”と手を差し伸べて送ってくれた。 正直年上男性と車で二人きりというのは凄くドキドキしたが車内の匂いもかける音楽も自分の好みと似ていたので安心感があった。 たったそれだけ。同じ舞台を見に行って少し話して送っていただいただけ。それだけの関係なのに思い起こすとドキドキする。この感情は何なのだろう。 「あ、今日は私、蘭姫ちゃんを迎えに着たんです」 今日もまたいつもの公園で演劇の練習を見てもらいたくてここにやってきた。 その言葉に鬼似鷹は「そうですか。」と笑顔で答えた。 演劇部部長”雉鷹”さんと同じ”名前”の素敵な人。 家に帰れば祖母と犬との3人生活。学校では友達に年上の先生方とも出会うけれどもそれとはまた違った感覚。 「笹目さん。」 「ハイ・・・・?」 「彼女”蘭姫”の事を宜しくお願いしますね。」 ペコリ。 そう一言言うと鬼似鷹は校門から中へと入って行った。 「ねぇ。彼女?」 「え・・?」 運転席から”犬鬼(いぬき)”が話しかけてきた。 「鬼似鷹の友達?」 そう聞かれてどう答えればいいか迷ってしまった。 「アイツ結構変ったやつだけどさ。”王子(里利)”も”蘭姫”も気に入ってるんだ。」 だから”蘭姫”の事大事にしてやってくれな? そういわれて何故ここで”蘭姫ちゃん”が出てくるのだろう、と思ったけれども。 彼は理事長の使いの従者。 ここで笹目は「はい!」と答えてその車を見送った。 ・・・・・私の好きな人は・・・・・・・・・・・・ ”部長”・・・・・なのかもしれない。同じ”雉鷹”という名前の彼に”その”想いを寄せてしまう。 けれども彼には”想い人”がいて・・・・人魚姫はそこで泡になって消える・・・ だけど・・・・ ”鬼似鷹”さんは・・・・・”好きな人”がいるのだろうか・・・・・・・。 私は・・・・”人魚姫”だけど・・・・・・・ どうしても役にはまれない自分のソレを自覚しながらも笹目は笑顔で蘭姫を迎えに行った。 そして今日も彼女は蘭姫のために歌うのである。 ■END■ [*前へ][次へ#] [戻る] |