■放課後手紙を持って中庭に向かう笹目に部長が話しかけてきた。 「どこかいくのか・・・・・?」 今日は他の部がホールを使っているのでたいした活動もできず早めに部活は終わった。 「・・・大事な用があるんです。」 笹目が真剣な顔つきで答えると部長は「そうか・・・」といって去って行った。 その次に現れたのは赤頭の編入生だった。 「笹目和美・・・・!!!!」 手には花束を持って現れた彼を横目でちらりと覗いた後に軽くあしらい笹目は中庭へと走る。 このまま今の状況をそのままにしていたら自分の中でのあゆくんがどっかに行ってしまうような気がして・・・でもそれが彼の望みならちゃんと見送りたいという気持ちもどこかにありながら。 それでも朝の彼の印象が忘れられず笹目は走った。 遠くでリリちゃんや他の生徒が目に入ったような気がしたが今は走ることに集中したい。笹目はそう思っていた、普段はあまりこういった行動はしたことがない。ましてや足に古傷のある彼女は走ることに対してあまりいい印象を持つ事が出来なかった。それでも。今日・・きっかけができたこの日に会話できる事ができたなら・・・・・・・。 はぁはぁと息を切らしてぐちゃぐちゃになりかけた手紙を握り締めながら笹目は放課後の中庭で目的の人物を探す。 「・・・・あゆくんは・・・・・・・?」 きょろきょろと見渡すが姿が見当たらない。 ・・・・・・・・・・・・・やっぱり笹目は振られてしまったのだろうか。 少しの沈黙の後・・・笹目は目線を上に上げて中庭のベンチに座ってもう暫くその姿を待つことにした。 座ったスカートの先に古傷が少しだけ見えている。 これをさらして生きる事を決めたのは・・・・彼の後押しがあったからだと笹目は思う。 タイツ姿で3年まで過ごした今までを振り返りながら今のハイソックス姿に少々苦笑しながらも息が整うのを待つように静かに手を挙げ伸びをする。 空を見上げると・・・もう季節の変わり目を指し示すかのように雲の流れが速くなる。 彼との最初の出会いから今はどれだけたったのだろう・・・・・・・笹目はそんな事を思いながらベンチで次の舞台の練習を始めた。 次の舞台はミュージカル調のシンデレラ。王子役には黒川梨々花ちゃんが抜擢された。 笹目はそれを思い出しながらそれに何かを重ねるようにガラスの靴を落とした後の。シンデレラの気持ちを思いやった。 「あぁ・・・・・・あの時の王子様・・・・・できることなら・・・もう一度お会いしてお話がしたいです」 脳裏に写るのは誰なのか・・・それは自分でも分からない。 思い浮かぶのは他校で出会ったあの男性・・それでも・・・・・・・ 不意に頭をよぎるのはどこか寂しげなあゆ君の姿・・・・・。 できることならもう一度・・・・・・・ 「友達に戻りたい・・・・・・・」口に出して言ってみた。けれども・・・本当は・・・本当にそれだけなのだろうか。笹目にはそれが分からなかった。 好きな気持ちはある。只ソレが何なのかは自分でも分からない。恋愛感情かもしれないしそうではないかもしれない・・・只・・・奥底にあるのはどこか切ないその気持ち。 その気持ちが何なのか・・・・・笹目はよく分からないままにその判断は彼に任せようと思った。 ここで振られてしまうなら・・・それでも構わない・・・・だけれども・・・・・・・ 「笹目はもう一度・・・・・・」 あゆくんに会いたいです・・・・・・・・!!!!そんな思いを胸に秘めて笹目は小さく歌いだした。 空を見上げて・・・・・懐かしい日を思う・・・・・・・。 遠い遠いあのお城のたった一夜の出来事を・・・・・・・ 姫は密かに胸に馳せる 魔女の魔法が尽きたとしても・・・・・・ [*前へ][次へ#] [戻る] |