■「なぁ・・・ゆら坊。何で演劇部の”人魚姫”は途中で終わったんだろうな?」 天才音楽家の曲を聴きながらホールの椅子に座る二人。 「そんなことより十兵衛。・・・さっきから一生懸命ドアに張り付いてる一年生がいるんだけれども・・・・・・・・・外に出たいと思わない?」 なんだか楽しそうな気がする・・・と目を輝かせて椅子から降りる御子柴(みこしば)ゆら それに十兵衛(じゅうべえ)は続く事にした。 そして時間はまた数分前に差し掛かる。 気絶していた笹目はやっと目を覚ますと自分の両手両足がテープで塞がれていた。 近くには男二人の姿が見えなかったが窓から差す陽光がステンドグラスのカトリック科の校舎内だという事を語っている。 ”怖い・・・”初めに思った感情はそれだった。 思い出してしまう昔の記憶。 ”お爺様”の遺産を狙った親戚に・・・笹目は幼少の頃誘拐されかけた事が在る。 見知った顔が笑顔でこちらに近づいてきたので笹目もそれに微笑んだ。 その直後、いきなり身体を抱え上げられて車の中に詰め込まれた・・・・・・・ 幸いな事にそれは未遂で終わったが無理やり車から脱出した際に笹目は足に大きな傷を負った。 それが今のタイツ姿の下に隠れている・・・・・・・・・。 ”怖い”そう思った・・・次の感情は・・・・・・・”誰かに・・・知らせなきゃ・・・・・” 自分のこともそうだが相手の男性二人はこのカトリック科の校舎に火をつけようとしているらしい。 今はどこにいるかは分からないが灯油の入った小瓶を持っていたようだ。 運ばれた時二度得のその臭いをかいだ気がする。それに笹目を気絶させたあのスタンガンを着火剤に使うつもりだろうか・・・・・・・・・・・・・・・ それはとても物凄く”危険な行為”のような気がする・・・きっとそれは上手くいかないような・・・・・・・・・・・・・大きな怪我を彼らに残すのではないかという不安。 それからこの綺麗な校舎を汚されたくないという気持ち・・・・・そして・・・・・・・・・ ”舞台に・・・上がらなきゃ・・・・・・・・” 1年生の双子の片割れに。背中を押されたあの言葉。 不器用ながらの彼のその好意を笹目は無駄にはしたくなかった。 その繋いだ糸が切れてしまえば彼との淡い友情関係も途切れてしまうような気がする・・・・・ だけれども・・・どうすればいいのだろう・・・・・・・。 笹目がもぞもぞと動いていると着ていた衣装の装飾が外れた。 それを廊下の隙間から下の階へと降ろしていく・・・・ 誰か・・・・”気づいて・・・・!!” その音に気づいたのは天門まことだった。 「今なんか・・・・へんな音がしなかった・・・・・?」 校舎の中。できるだけ目立つ通りを通りながら中の様子を探っていると不思議な音が聞こえてきた。 見上げると上の階のステンドグラスの窓の前になにか黒い影が見える・・・・・ 「もしかして・・・・笹目先輩・・・・・!!!!」 そう発言した瞬間だった・・・・・ 目の前から男二人が襲ってきたのだ・・・・・・・ 「あぶない・・・・!!!!!!」とっさにまことは他の所持二人を護ろうとする。 男に背男向けたので攻撃を回避できない。 そこに・・・・・ 「(”行きなさい・・・クロガネ・・・!”)」 聞きなれないロシア語が聞こえた。しかしその声はどこか聞き覚えのあるものだった。 「雪花ちゃん・・・!??」 渚がそれに反応した。 そして大きなクロガネの突撃に男二人は吹っ飛ばされる。 それに続いて。 「くらえ誘拐犯・・・・!!!!」 突如現れた歩が持っていたバケツの水をぶちまけた。 「く・・・・くそ・・・・!!!!!」 男がそれにスタンガンを取り出そうとした瞬間。 「魔法戦姫梨々花キーック・・・・!!!!」 と。制服姿に衣装を着た梨々花が飛び込んできた。 そして・・・・・・・ 「今だよ!なごみん!二人で魔法戦姫の力を見せ付けよう・・・!!!!」 梨々花が振り返るとそこには梓と西出に救出された笹目が自分の足で立っていた。 手足を封じていたテープを二人が解いてくれたのだ。 そして・・・・・ 「魔法戦記の名にかけて。貴方方に天の制裁を加えます・・・・・!!!!」 取り出したのは男が手にしてすべり落としたスタンガン。 「・・・・・・・・水をかぶったそれにコレを当てたらどうなるかなぁ〜・・・・・?」 歩がにこやかな顔でソレを見つめる 「え・・・ちょ・・・!!!」「待っ・・・・!!!」 男たちがそういった瞬間「行きます・・・・!!!!!!」 それを笹目が振りかざした。 途端に「「ぎゃああああああああああああ!!!!!!」」と叫ぶ男達。 だが笹目はそのスイッチを動かしては居ない。 何故か彼らの周りでオモチャの爆竹が爆発したのだ。 「ね。十兵衛。・・・礼拝堂に爆竹隠しといてよかったでしょ?」 どこからすり抜けてきたのか御子柴ゆらの一撃だった。 「事情は良く分からないが途中から様子を見ていて手助けしに来たぞ・・・・・」 そう言って後ろから現れる叔父の十兵衛。 それから・・・・ 「あ・・・・・!」 やっとエルを連れて現れたみこととその後に続く雉鷹。 「・・・・・・・っ。・・・・・部長・・・・・!????」 劇は・・・・”劇はどうしたんですか・・・!!!!”笹目から最初に出た言葉はそれだった。 だが「笹目ちゃん・・・こういうときは泣いてもいいんだよ?」 コスチューム姿の梨々花に抱きしめられる。 少々抱きしめてくるその胸が迫ってきて苦しいのだが。笹目はどうしたらいいか分からなくなった。 ”泣いても・・・いいのだろうか?” それは演劇部で普通化の私が唯一手にしたその役どころ。 ”主役”をやらせてもらえる回数も多くなりそのあたりから彼女は人前で涙をこぼさなくなった・・・・ しかし・・・・・・・・・ ”先日”あの時は違った。 ”部長”今の貴方は・・・その冷ややかな目で迷惑をかけた私を見たりはしませんか・・・・・・? 笹目がそう思って部長の顔を見ようとした瞬間、不意に歩の顔が目に映った。 そこで・・・・・・・ 「あゆ・・・・くん・・・・・・///」笹目は急に泣いてしまった。 ごめんなさい。私、貴方との約束は果たせなかったかもしれない・・・・・・・・ ”舞台を最後まで演じる事ができなかった・・・・”そのことに笹目は涙したのである。 しかし・・・・・・ 「あーあ。せっかくなごちゃんが助かって大事な”王子”との再会シーンで俺達がそれを覗くのは野暮な話だよね」そう言って歩が他の面々を連れて行こうとする。 「歩・・・・くん・・・・・」ぽろぽろぽろぽろとそこで涙が零れだした。 「部長・・・私・・・・・・」 まだ皆が引き返す前。・・・・・・・聞こえているであろうその距離で笹目は佐伯に告白した。 「私・・・・・・・今まで。部長の事大好きでした・・・ずっと・・・憧れてました・・・・・・」 だけど・・・・・ 涙が止まらない・・・・ 佐伯はそれに驚くように目を見開いて丸くする。 「でも・・・私。今度は私”1人”で自分の人生のシナリオを・・・歩んでいきたいんです・・・・・////!!!」 涙が止まらない。だが笹目はそこでペコリを頭を下げると 「”ありがとうございました・・・・!!!”」そう言っておぼつかない足で去り行こうとする面々を追いかける。 「部長・・・着替えなおして・・・・ラストの演目を演じなきゃいけないんで。先に失礼します。」 その顔は・・・・・・いつもの笹目以上に役者の顔をしていた。 その顔に雉鷹は何も言うことなく「先に言って来い」とそう伝えたのだった。 そして事件を起こした男二人はここでやっと教師の先生方に引き渡される。 それは舞台観客にも警察にも伝わる事の無いことの始末。 彼らを先生方がどうしたのかは分からない。主の導きの下で許したのかもしれない。 それでも・・・今は笹目が無事だった事を祈ろう。 そして 「有難う・・・・・・・・・・白金くん・・・」 彼女は渚の存在が心配で後を追ってきただけだったがそれでも笹目やその他の女子生徒を護った大事な”ヒーロー”の1人であった。いつか彼女が心を開いてくれたその日にはその小さな勇気の心を”シナリオ”というちっぽけかもしれない世界で。その大きさを彼女に示したくなった。 「俺も・・・自分の目線だけで見た小さな世界とシナリオだけをむやみに追い続けたのかもしれないな・・・・・・・・・」 この先は・・・俺も笹目のように自分の足で人生のシナリオを作り上げて行きたいとそう思った。 そして舞台の最終幕はまた別の変化を遂げる。 人魚の足にはいつものタイツ姿ではなく傷の在る生の足が見えていた。 「これは・・・・私が王子を思ってつけた・・・・自傷と愛する印です」 ソレでも貴方は”こんな私を愛してくださいますか・・・・・・・?” 人魚が鳥の王子へとそれを問う。そこで王子は困ってしまう。 そして 「私は自分の道を歩みます。・・・・・・・貴方のお気持ちは一生忘れる事はありません。 それでもまたどこかでお会いした時には。また笑顔で会えるよう幸せな生活を送りたいと思います。」 そう言って人魚は自分の足で舞台裏へと帰っていくのだった。 大好きな演劇部と自分の”未来”のために・・・・・・・ ■END■ [*前へ][次へ#] [戻る] |