■「部長。こんな感じでどうでしょう・・・・・?」 「・・・・ほう、実に笹目らしい純粋なエピソードだな。」 今日は土曜日。学校は休みの日。朝早くに部長を呼び出した私はいつもの公園でシナリオの手ほどきを受けていた。部活は午後から入る予定。でもその前に部長にソレを見てもらいたくて。犬のテツを連れて公園にやってきたのだ。 といってもテツは私が男性と一緒にいると機嫌を悪くするのか吠え出してしまうので少し離れた木の下に繋ぐ事にしましたが。 ・・・・・そんなわけで早朝の公園は誰も居ない二人きり、でも自然と笹目はなんとも思わなかった。 ”あの事件”の後から部長は少し丸くなったような気がする。前より話やすい人柄になった。 といってもまだ他の生徒との間には壁のようなものを作りたがるようだが笹目や他の演劇部生徒とは随分打ち解けてきたような気がする。そんな早朝の出来事だった。 「・・・クゥン・・・・」 テツが一瞬声を上げたような気がする。そう思って振り返ると、私服姿の若い男性が木陰の間からやってきた。 「よう・・・!あんたが”笹目”ちゃんだろ?話しは”麗姫”から聞いてるぜ・・・?」 そう言ってへらへらやってきたのは早乙女戒。華桜高校の生徒会副会長である。 「誰だ貴様は。」 それに反応するかのように部長が眉に皺を寄せたが。私は「麗姫」と言う名にピンと来た。 「あ・・・もしかして。華桜高校の・・・?」 笹目がそう言うと戒は改めて自分の名前を二人に名乗った。 「そ。俺。早乙女戒。・・・・・華桜の生徒会で副会長やってんだ。次の公演も麗姫と見に行くつもりだからよろしくな?」 そう言って笑顔を見せる戒に笹目は”早乙女”という名に何かを感じる・・・ 「”早乙女・・・”もしかして・・・・”蘭姫ちゃんの・・・・?”」 笹目がそう言うと、「そ。親戚」とまた笑顔が帰ってくる。 だが部長はソレが気に入らないのかいつもの伏し目がちの目を更に細めて戒の方を睨んでいる。 「で。それが何の用だ。」 部長のその言葉に戒は胸元のポケットから何かを取り出すとソレを笹目に渡してきた。 「麗姫からの手紙。預かってきたぜ?」 ポケットから取り出したソレは小さな折り紙細工の鶴の形をしていた。 「・・・・綺麗な手紙ですね」 笹目はソレを手にとって几帳面に折られたそれに反応する。 ”華桜麗姫”正直華桜校にヘッドハンティングの誘いをされた思い出があるので正直あまり好ましくは思っては居ないが・・・・・・ 今は部長も傍に居る。目の前の戒の笑顔もどこか緊張を緩めるようで。笹目はそれを手にとって。中の手紙を読む事にした。 中には一言。「今後の生活にお気をつけ下さい」と書いてあった。 「これは・・・・・?」 どういう意味ですか・・・・・? 笹目がそう返そうとすると突然テツが吠え出した。そしてそちらの方を向くと赤い髪の身長は・・・ソレほど高くない男性がこちらに向かってやってきた。 「あー・・お前!戒だろ!!こんな時間に女とやりとりとは副会長の名が廃る・・・・ん?」 赤毛の男性は戒と呼ばれたその男を発見してコチラにやってきたようだったが笹目の姿が目に入ったところで固まった。 「笹目・・・和美・・・・?」 男性がそういうと。 「誰だ貴様は。」 お決まりのように部長の声が飛んできた。・・・それは先ほどの戒へ向けられたものよりも少し低く棘の在る口調だった。 「誰って”俺は・・・・”・・・・お前こそ・・・誰だよ・・・!!!」 その場に険悪なムードが走った。テツがずっと吠え続けている。 笹目はそれが気になってその場を後にすることにした。 「すみません。私はここで失礼します。」 「あ・・あぁ。」 部長がそう言う。 「気をつけてな。」戒も少々微笑みながら道を譲る。 そして「あ・・・待て。笹目和美・・・!!」 いきなり現れた鳳太はそれを追いかけようとしたが男二人に両側から肩をつかまれる。 「「お前は少し黙ってろ」」何故か二人の言葉がハモった。 「どういう意味だよ・・!!!!!俺は笹目和美の”許婚”だぞ・・!!!せっかくのチャンスをなんてことするんだ!!」 その言葉に彼を睨んでいた佐伯雉鷹は目を丸くした。 「”許婚・・・?”」どうやらその存在は彼には明かされていなかったらしい・・・・ 「あーあ・・・・・・」 お前。ホント空気読めないやつだな。 戒にもそう言われた。 だが。 そんなことは関係ない俺達のこれから出来上がる仲は両親が既に公認のものなのだから。 「つーか、誰だよお前。」鳳太が佐伯を睨みつける。 「・・・・・・・・・・・。」 暫しの沈黙の後に 「彼女の兄のようなものだが」そう返ってきた。 嘘だ。俺は知っている今の笹目和美は祖母と犬と三人暮らしのはずだ。 住所も大体知っているだが。 鳳太は”犬”が苦手だった。 「とりあえず・・・貴様はこれ以上笹目に近づくな」 ”兄のようなものだ”と名乗ったその男にそんなことを言われたが。鳳太は引かなかった。 「うるさいんだよ。お前・・・俺は・・・・・」 何かを言いかけた瞬間いきなり腹に激痛が走った。 戒が鳳太に一発いれたのである。 「悪い・・とりあえずこれ以上拗れるのは見てられないんだ・・・・」 そう言って気絶した鳳太を肩に抱くと戒はそのままソレを引きつれ消えて行った・・・・・・。 「・・・・・・」暫しの沈黙の後雉鷹が喋りだした。 「・・・・・・・・・・・いい腕をしているなアイツ・・・」 それは麗姫を守るために身につけた護衛術。本来はこういった使い方はしたくなかったが。 これ以上関係が拗れるのは彼女とその周りの”世界”に失礼だと思ったのだ。 おおかた今の一撃は目を覚ましても覚えていまい。 戒はそういった処理の方法も覚えている。・・・・・・・少々身体に痣が残るかもしれないが。まぁ大丈夫だろう。 自分の地位の関係上。誰も見ていなければ・・・・・・・・・・・・・。 目の前で起こった出来事は佐伯が見ていたがきっと彼は語らないだろう。なんとなくそう思った。 他校の生徒・・・というのもあるが笹目を見守る彼の目が遠巻きに観察していてそれを語っていた。 実は暫く戒はテツのすぐ近くでソレを覗いていたのです。あの”クゥン”はその戒が去っていくのに寂しさを感じたものかもしれない。 「さて。コレからが大変だな。」 それにしても思わず連れて来たこいつはどうしよう・・・戒は一瞬そう思ったら”蘭姫”の家へと行く事にした。あそこなら公園から近いしなんとかなるだろ。戒はそう思って足を向けた。 ■END■ [*前へ][次へ#] [戻る] |