☆ササメモリアル☆
■それぞれのバレンタインE■

■そして笹目は雪鷹に打ち明けた。
今の生活が本当に幸せだと思えること。その半面で”芸能”の道を諦めた自分には演劇部を辞めた以上、彼にとって魅力を感じるものがなくなってしまったのではないかと思うこと。
半面でそんな自分とプロの役者を見比べてソレに嫉妬してしまう自分がいること。

そして第一に雪鷹の目線がいつか自分からはなれてきらびやかな憧れを感じていたその世界へと向かってしまうんじゃないかということ。
そしてそんな葛藤の中でチョコを用意できなかった事。

他にも不安は色々あったが笹目は思いつく限りを雪鷹に話した。

不安で不安で自然と目線が足元の方へと向いてしまう。怖くて雪鷹の顔が見れない。
少々夕刻のその寒さを受けた室内で笹目は少し震えていた。

そんな笹目の両手をぎゅっと目の前に座り込んだ雪鷹がつかんだ。
形で言えば長椅子に座る笹目の向かいに立ち膝を着いてその手を握る。

「大丈夫ですよ。安心してください。笹目さんはまだ未成年なんですからそんなに悩みをかかえなくとも私にそうやって話してくだされば私はなんでもしてさしあげます。」

「どうして・・・・・ですか・・・・・・・・?」
今の自分には役者としての魅力も無い。只の女子高生に戻ってしまった自分にどうしてソコまで彼は献身的に尽くしてくれるのだろうか。

「甘えてもいいんですよ。笹目さん。貴方はまだ学生なんですから。私もあなたが好きだからと言って無理に社会に反するような恋愛関係を持とうとはしませんし。笹目さんがそうやって甘えてくれれば私は幸せです。」
ずっと貴方の事は雉鷹から聞いていました。
それで・・・・私は彼が、”雉鷹”が貴方に好意を持っていたことを知りながら・・・・自分も同じく貴方に惹かれてしまったんです。

「・・・ぶ・・・部長が!??」ここで初めて笹目はソレを聞いて驚いた。
「そうですよ。彼はいつも帰ってくると演劇部の話ばかりして。特に良く出る名前が”笹目さん”だったのですぐにそれを覚えてしまって・・・・・・そして初めて出会った舞台会場で貴方のまっすぐなその瞳に一目惚れしてしまったんです。」
ですから笹目さん。貴方は貴方の生きたいように生きてください。

「演劇を目指したくなったらまた私に言ってくだされば何かしらの支援はしたいと思います。」
それでも約束として卒業だけはちゃんとしてください。あとは貴方の行きたい好きな道を私も一緒に見てみたいです。

雪鷹はそう続けた。
「私の行きたい好きな道・・・・・?」
そう思いながら笹目は目を閉じて”行きたい道”を考える。

「雪鷹さんにはそれがあるんですか?」
そういうと雪鷹は微笑んで「ハイ。最後は笹目さんと一緒のお墓に入ることです。」
とそう言った。

その笑顔があまりにも柔らかい表情だったので物騒だという意識は何も感じなかった。
「末永く・・・・一緒に居てくれるってことですか・・・・・・?」

その言葉に雪鷹は「はい」と首を縦に振った。
「人生面白いほうがいいじゃないですか。二人でいろんなことに挑戦してみましょう笹目さん。」
たまにはシノさんやテツや雉鷹なんかも巻き込んで楽しい思い出をこれから一緒に作っていきましょう。

そういう雪鷹に笹目は「なんだかプロポーズされてるみたいですね。」とそう言った
「それならもうしたはずですよ。・・・・・あえて言うなら今のは教会での約束ですね。」

二人の愛を誓うその”約束”
「笹目さん・・・・ここで。指輪の交換の変わりに笹目さんがよければさっき笹目産が買った鳥型のクッキーを交換して食べませんか?」
ソレは少々強引なお願いだったかもしれないが。笹目もさすがに夕刻。雪鷹も小腹がすいているだろうとソレを承諾する事にした。

「それじゃぁ・・・・・・・交換・・・ですから。ピンクの鳥のほうお渡ししますね」
そう言って笹目がピンクのクッキーを雪鷹に渡す。そして自分が袋から青のクッキーを取り出そうとすると

「笹目さん!笹目さん!・・・・・誓いの鳥キスです・・・!」と雪鷹は笹目の持つクッキーの鳥のくちばしに自分のクッキーの嘴を重ね合わせた。

「・・・・・・・・・ゆ・・・・・雪鷹さん///!!!!!」流石に笹目も恥ずかしくなって声を少々荒立てる。

「はい。笹目さん。・・・・・・・・・今日はココでクッキーを交換して一緒に”夫婦”として頂きましょう。」
そう言ってにっこり笑う雪鷹にやはり笹目は飲み込まれた。

少々恥ずかしさを感じながらもさくりと一口小鳥をかじる。
そして

「・・・・・雪鷹さん・・・・これ・・・・!・・・・・・・・今日のチョコの代わりにはならないかもしれないけれども・・・・・・!!!」
もう一つパン屋の紙袋の中から小さなビニール詰めされた袋を取り出した。

中に入っていたのはチョココロネ。実はパン屋のほのかさんの大好物のソレであった。

「わー・・・・笹目さん。有難うございます・・・・・・・・・・!」雪鷹は嬉しそうにそれを受け取るとふんふんと鼻歌を歌いだした。

「・・・・・・それじゃぁいつまでも礼拝堂を借りてるのも申し訳ないですし。コレを食べたらここは一旦立ち去りましょうか。」
そう言って雪鷹はコロネを半分にちぎる。
「この幸せも笹目さんと分かち合いましょう。」
そう言って渡されたソレ。ソレを受け取りながら笹目は雪鷹をみやる。

ソレに気づいたのか雪鷹も笹目の方へと視線を返し暫し二人は見つめあった。
そして
「お婆様には内緒にしてくださいね」と笹目は恥ずかしそうに雪鷹の唇に口付けた。

事実上のファーストキスである。
いや笹目の実際のファーストは別の男性に不可抗力で奪われてしまっていたわけだが。

「ん・・・・」少しくぐもった声で雪鷹がソレを受け入れる・・・・・・が。すぐに笹目に手を差し伸べてそれを引き剥がした。

「流石に知り合いのいる教会の中では恥ずかしいですからね・・・・もしかしたら誰かに見られているかもしれませんし・・・・・」そういうと窓際から誰かのくしゃみが聞こえてきたような気がした。

「・・・・す・・・スミマセン///!!」さすがの笹目も我に返り二つに割ったパンの片割れをもそもそと食べると足早にそこを離れる事にした。


「・・・・・・・・雪鷹くんも見ない間に大人になったなぁ・・・・・・」
少々不良気味だった彼の若かりし頃を知る恩師はそう言って影でソレを見送った。


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あきゅろす。
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