08 予想していた通りの光景に、思わず頭を押さえた。 頭痛がする。 寮にシャンデリアは必要ない。ソファーもこんな高そうなやつでなくていい。ついでに燕尾服を着たお兄さんもいらない。 「本日入寮なされる添鳩香黒様ですか?」 「はい」 答えると、燕尾服は完璧な笑みを浮かべた。 プロだ。 「お待ちしておりました。私、羽陽学園寮の管理人を務めております加倉井と申します。簡単な手続きがございますのでカウンターへどうぞ」 そう言って、燕尾服改めて加倉井さんは、俺をカウンターに案内した。 「こちらが添鳩様のカードキーです」 説明書に添えられた銀色のカードキーを差し出される。 「万が一紛失された時、こちらにお越しいただければ新しいカードキーを発行いたします。その場合前のカードキーは使えなくなりますのでお気をつけ下さい」 「わかりました」 「他にご質問はおありですか?」 「門限と、外出したい時の手続きは」 「門限は夜十二時までとなっております。それ以降フロントドアはロックされ開きませんのでお気をつけ下さい。外出に関してですが、お手数ですが、カウンターに外出許可証を提出していただきます。外出許可証はこちらで発行しております」 「わかりました。後は大丈夫だと思います」 「それではこちらへ」 ボタンを押すとすぐにカウンターの左のエレベーターが開く。 「お部屋は三階の301号室になります」 「はい。加倉井さん、ありがとうございました」 礼を言うと、加倉井さんはきょとんとした顔をしてから、 「いえ。それでは楽しい寮生活を」 ドアが閉まり切る直前に見えた顔は、嬉しげに微笑まれていた。 ***** 独特の浮遊感の中で、ぼんやりと先日言われた予言を考えた。 『不幸のすぐ後に訪れる幸運』 不幸は間違いなく会長との遭遇だが、そのあとにある幸運が思いつかない。まだ、と思いたいが、魔女がすぐと言ったからにはすぐ起こっていたはずだ。 すぐ後あったことと言えば、寮の前での会長の、 思考を停止させた。 これ以上は嫌悪と怒りで死にそうになるだろうから止めておこう。 調度いいタイミングで止まったエレベーターから降りると、目の前に俺の部屋はあった。向かいは345号室。 見た目程建物は大きくないのか、と隣の部屋を見ようとして、 「……」 遠くにあるドアに閉口した。 なんだこの無駄な広さ。 <<>> [戻る] |