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01

暗い部屋には明かりと言えるものは燭台に乗った一本の蝋燭しかなく、部屋の端は闇に満ちていた。



「それで、」



香黒は三人の魔女にきいた。涼しげな、耳に心地好い声だった。
魔女たちの顔はベールで覆われ全ては見えなかったが、楽しげに歪められた唇から笑っているのが見てとれた。



「それで、浅河たちの居場所はわかったのか?」
「いいえ」
「残念ながら」
「まだよ」
「それでも俺をここに呼んだってことは、何か情報が入ったからなんだろ」
「ええ」
「羽陽学園に」
「浅河一派の内通者の子供が」
「……羽陽に?」



閉じていた目をゆっくりと開くと、澄み切ったアクアブルーが現れた。



「調度いい。助かった」
「じゃあ」
「転入の噂は」
「嘘じゃなかったのね」
「佳さん……保護者の命令が来た。面倒だけど修学してないと法術行使もままならないらしいから」
「それはそれは」
「一般人は」
「ご愁傷様?」
「まあ、そんなとこだ」



小さくため息をつくと、香黒は音もなく立ち上がった。肩まである長めの黒髪が揺れる。



「あら、ネコちゃん」
「もう行くの?」
「早いわね」
「ネコちゃんは止めてくれ……入学が明後日らしいから、用意しに佳さんのとこ行かなきゃいけないんだ」
「残念ねぇ……」


三人同時に頬に手を当てる仕種に香黒は微笑んだ。



「じゃあ、またそのうち来る」



頭を上げて、手を蝋燭に翳す。
風もないのに火は揺れ、ふ、と消えた。

途端に消えた三つの気配に驚く様子もなく、香黒はくるりと椅子に背を向け歩きだした。



「ネコちゃん……」



かけられた声に足を止める。



「学園に着いたら気をつけて……」
「不幸がネコちゃんを出迎えるわ……」
「でもその不幸の後すぐに訪れる幸運は、きっとあなたの助けになるわ……」
「…………わかった」



意味深な言葉に頷いて、香黒は再度歩きだした。
そして、部屋から全ての気配が消えた。


魔法使いのススメ
Chapter.00




後に残ったのは、机に乗った燭台と、四つの椅子だけだった。

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あきゅろす。
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