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高坂さんと後藤くん
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俺は、高坂順一(コウサカジュンイチ)。恋人の東(アズマ)と同棲し始めてから、今年でもう4年になる。奴は掃除に洗濯、炊事・・・と、見事に仕事と家庭を両立してくれている。その腕前は、主婦も真っ青といったところだろうか。もちろん俺も、出来ることはしてるつもりだが・・・東ほど器用にはこなせない。けど、ひとつだけ気になっていることがある。あいつ、同棲当初からやたら部屋を綺麗にすることにこだわってるんだ。

隣人の後藤を初めて招いた時、全然生活感がないですね、と言われたくらい。でもホント、俺もそう思う。殺風景すぎる。奴はといえば、そんなふうに言われて喜んでたけど・・・俺としてはけっこう複雑だった。だってあいつ、インテリア用品とか、雑貨とか花だとか大好きなはずなのに、ひとつも置こうとしない。そりゃあ、他人が来たときにある程度隠さなきゃならないことはあるかもしれないが、何もそこまで徹底しなくても・・と思う。

東はよくやってくれてるけど、これじゃこの部屋は、飯食ってヤッて、寝るためだけにあるみたいだ。そんなの、ちょっと悲しくないか?

あいつはそこのとこ、どう思ってんだろ。

そんなことを考えているうち、急に玄関先が騒がしくなった。

東だ。

「順ちゃーん、ただいま!」

「お帰り」

「遅くなっちゃってごめんね。駅前のスーパーで特売やってたのよ。すぐご飯にするから、ちょっと待っててね」

「あ、いいよ。まず休め。それからでいいから」

「そう?ありがと・・」

「ああ」

「・・順ちゃん?どうかした?」

「んっ?う、ううん。別に・・・」



─────

「本当は、花の一つでも飾りたいんだけどさあ」

「・・・言えば良いじゃないですか。そうやって」

「うん、まあな」

そうなんだけど・・・なんだか今更恥ずかしいし、少し怖いっていうのもある。東の口から、どういう答えが返ってくるのか。

こいつ、隣人の後藤は人懐っこくて、俺もあいつもこいつを子供代わりにみたいに可愛がっている。良い相談相手でもあるし、けっこう頼りになるんだ。

「黙ってちゃ分かりませんよ、いくら恋人同士だって」

「・・・・だよな」

「別に、深い意味はないんじゃないですか。大丈夫ですよ」

「・・・だと良いんだけど」

「そんな顔してたら東さんが心配しますよ?元気出して下さい。はい、どうぞ・・・」

後藤はそう言って、にこにこしながらグラスにビールを注ぎ足してくれた。

「ああ、すまん」

「・・頑張って下さいね」

「あ、ああ・・・」

って言ってもなあ・・・何をどうすりゃ良いんだよ。あいつとちゃんと向かい合えってことなのか。

うーん。




─────

そんなこんなで、俺はいつも通りの休日を迎えた。

相変わらず殺風景な我が家。

無駄な物は何もない。東はと言えば、鼻歌なんか歌いながらしつこいくらいにテーブルを拭いている。そんな彼の大きな背中に、俺は声をかけた。

「なあ、東」

「はい」

「・・あのさっ」

「・・・なぁに、早く言ってよ。どうしちゃったの。何かあった?」

「んと、あの、あのさあ・・・もうちょっとその・・・この部屋、なんか飾ったりとかしてもいいんじゃないか?ほら、おまえさ、好きじゃん。ぬいぐるみとか、花とか・・・・」

「え・・」

きょとんと俺を見つめる東。

ああ、くそっ。

なんか照れる・・・なんでだろ。

なんか言えよっ。

「い、いいの?お部屋、ぬいぐるみとか、お花とか・・・・」

短い沈黙のあと、固まっていた東は嬉しそうに笑いながら、小さな声でそう言った。

「うん」

「良いなら、少し可愛い部屋にしたいんだけど、順ちゃんが嫌かなと思って・・・それに・・・」

それに?

「なんだ?」

「・・・別れる時、すぐ出ていけるように・・余計な物は置かない方がいいかと思って・・・」

「はあ?」

「あんまり、このお部屋には思い入れのないようにしておきたくって・・・」

このバカ・・・。

「痛っ!」

思わず俺は東に駆け寄り、彼の頬を平手で叩いた。東は女みたいな悲鳴をあげて、体を丸める。

「俺とおまえが、いつ別れるって?」

「・・・もしもの話よぉ、でもありえるか・・」

「ありえないっ!!おまえと俺は別れない。絶対だ」

我ながら強引な発言。

でも、自信ある。

だって俺、東なしじゃ生きていけねーもん。東はどうか知らないけど。

「・・・だから、好きにしていいよ。東のしたいように、住みやすい部屋にしたらいい」

「じゅ、順ちゃ・・・!!」

東は大きな目を潤ませて俺を見ていたが、やがて大きな声をあげて泣き出した。俺はそんな東をそっと抱き締め、背中を撫でてやった。



──────

「わ、ピンク。ぬいぐるみも全部ピンクだ」

「・・・・・」

「東さんらしいですね、可愛いじゃないですか!!」

「・・・・うん」

「さ、飲みましょう」

「ああ」

「どうしたんですか。ほら、これ今日新発売のやつですよ。美味しいと良いんですけど・・・」

淡いピンクのクッションに座りながら、後藤は嬉しそうにビールを取り出す。

うん。

良かったんだよ、これで。
だけど実は、寝室まで真ピンクにされたから、落ち着かなくて最近少し寝付きが悪いんだ・・・。

その一方で、東の奴はよっぽど嬉しかったのか、ベッドの中でやたらサービス精神旺盛だ。というわけで、まあよしとするか・・・なんて思っているということは、後藤には秘密だけどな。


【おわり】



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