SS ボクはキープくん(上) 「あーあ、今日も疲れた。冬樹はどうだった?この前言ってた新人さん、上手くいってるの?」 ボクは、ベッドに腰掛けて雑誌を読んでいる冬樹に声をかけた。すると彼は、雑誌から顔をあげてボクに笑いかけながら言う。 「うん。今日は機械の調子も良かったし、まあまあだったよ。あの新人さんなら、だいぶ馴染んできたみたいだけど。どうして?」 「あ、ううん。ちょっと聞いてみただけ・・・」 出来るだけ平静を装いながら、ボクは冷めたインスタントコーヒーを口に運ぶ。けっこう上手く誤魔化したつもりだった。けれど冬樹はボクの様子がおかしいことに感づいたらしく、こっちを見てちょっと首を傾げた後、再び雑誌に視線を戻した。 「そう・・・」 「・・・・うん」 そっか、この前言ってたドジな新人の女の子・・・まだ冬樹と一緒に働いてるんだ。つまらないことかもしれないけど、冬樹に一日中面倒見てもらえてるなんて、すごく羨ましいし妬けるなあ。 ボクは冬樹の恋人なんだから、本来気にすることないんだろうけど。大きい工場で働いてる彼とは、こうやって夜勤のないときしか一緒に過ごせないのに、その子はずっと冬樹といられるわけで・・・・。 ボク、へんかなあ。 でも、妬かずにいる方がムリだよ。 それに、顔も知らない彼女に嫉妬するのには、ひとつ大きな訳があるんだ一 一一一一 「あ、ほら。そんなことより、ここ空けたから早く来な」 「うん、今行くよ」 呼ばれた。 今日も、ボクのこと呼んでくれた。 冬樹は、今まで自分が座っていた場所を空けると、その空いた場所をぽんぽん叩いてボクを呼ぶ。迷わず、ボクはそこへと直行する。 「へへ、あったかい」 冬樹の体温が、シーツを伝わってボクを包み込む。冬樹が今まで腰掛けてたとこ以外は、少しだけひんやりしてる。 「だろ?今日は特別に長くあっためといてやったから」 「うん・・・・」 雑誌を読みながら、冬樹はボクの頭を撫でる。 こうしてると、なんだか冬樹のペットにでもなっちゃったような気がする。ボクはしばらく、そのまま彼に甘える。って言っても、横でただぼーっとしてるだけなんだけど。 でも一緒にこうやってぼんやりするの、最高に幸せだなあって思う。 そう、幸せ・・・なはず、なんだけど。 やっぱり気になるのは。 「ねえ、冬樹」 「んー?」 「あの、あのね。冬樹。その、さあ」 「なに?なんだよ、急にどうした?」 普通のカップルがやること、手を繋ぐ、デート、抱擁、キス、同棲、結婚・・・はムリにしても。 あとひとつ、ボクたちがまだしてないモノ。 「や、やっぱりいいや。なんでもない」 「んん?なんだよ、気になるじゃんか」 「いいの、気にしないで。忘れちゃって」 「んなの、ムリ。教えろ」 「やーだ」 「何だと。ひとつも隠し事はしないって、最初に決めたじゃん」 「そんなんじゃないもん」 隠し事・・・にはならないと思うんだけどな。 「実」 みのる、って冬樹の低い声が耳に心地よく響く。普段はあんまり名前でなんて呼んでくれないくせに、こういう時だけズルいよ。でも、嬉しいのも事実だけどさ。 でも、言えないよ。 もし言って、嫌われちゃったら嫌だもん。 おまえってそういうことばっか考えてたんだ、見損なった・・・・とか言われたりしたら、ボク、もう一緒になんか暮らせない。 やめよう。 冬樹がしたいって言うまでは、言わない方が賢明だ。 「・・・なんか眠いや。お休み、冬樹」 「えっ、まだ話終わってないぞ?言うまで寝かせるもんか」 「えっ!?わあっ、や、ちょっ・・・・!」 「んっ・・・っ」 なんと冬樹は、毛布に包まろうとしたボクの上に覆いかぶさると、無理矢理ボクの唇を奪った。 [*前へ][次へ#] [戻る] |