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◆Main
キミもボクも



ついさっきまでは友達だった。


だけどあたしはもうずっと前からサトシがほしかったから、こらえきれずに手を握ってキスをした。



「・・・カスミ、手が早すぎ。」


「え、ご、ごめん!」



どうしよう。
呆れられたかな。

でも気づいたら体が動いてたから。



「あたし、舞い上がりすぎだよね・・・えへへ。」



苦し紛れにそう笑うと、急に冷たい風が吹き抜けて肩を竦めた。



「暗くなってきたな。帰ろうぜカスミ。」


「あ、うん!」



そう言いながら、あたしの手を引いて歩き出したサトシに少し驚いて、横顔を見上げたら



「なんだ?」



思わずニヤけてしまった。



「サトシ寒い?」


「いや、そんなに。お前あったかいし。」


「あたし?」


「手が温かい。」



サトシの言葉に妙に照れて、頬が勝手に赤くなるのがわかった。



「・・・はぁ。なんかあたし暑くなってきた。」



「じゃあ俺寒いからもっとくっつけよ。」



・・・なんだかサトシがさっきから。



「フフ。くっつけってなんか可愛い。サトシって実は甘えん坊?」


「はぁ?なんでそうなるんだよ?」



ものすごく甘いモードになってるように感じてしまうんだけど、これはあたしが舞い上がってるからそう感じるだけ?


でもあたしを見つめる顔はキョトンとしてるから、いつものサトシの深い意味のない言葉なのかなぁ。



「んー、なんとなく?」


「なんだそれ。変な奴。」



それでも、会話をしながら手がずっと繋がってる。


さっきまでとは違うサトシとの距離。


―――あたし、サトシの特別な人になったんだ。


そう思うと、胸がキュッと締め付けられた。


これから何があったって、あたしからこの手を絶対に離したりなんかしない。



「なんか・・・やっとすごく実感わいてきた。」


「何が?」


「今日からサトシの全部が、あたしのものなんだなぁーって。フフ、あたしだけのサトシかー。誰にも渡さないんだからね、覚悟してよ?」


あれ。これっていわゆる重い女かも。


でも今は大袈裟な言い方もしたくなるくらい、この現状に感動してるだけだから許してくれるかな。


だって、サトシと両想いになれるなんて、本当に思わなかったから。




―――・・『ねぇタケシ、友達を好きになるのってどう思う?』


『は?』


いつだったかどこかのポケモンセンターで、グラビアの雑誌をめくりってるタケシにそう聞いたことがあった。


「こんな可愛い人とデートしたい」だの、「こんな綺麗なお姉さんと結婚したい」だのと言ってるタケシを前に、


あたしは自分の重ねた両腕に顎を乗せて呆れながら話を聞いてて、気づいたらタケシにそう尋ねてた。



『なんだなんだ急に。』


『いやなんかドラマとかで最近多いじゃない?友達から好きになって、いろいろ悩んでいろいろあって最後は恋人になるやつ。』


『あー確かに最近そういうので流行ってるやつあったな。』


『ただの友達から恋人になるって、本当にあると思う?』


『そりゃーあるだろうな。』


『じゃあ例えば、もし何も想ってない友達に突然告白されても困ったりはしない?』


『さぁどうだろうな。多少驚くだろうけど、やっぱり好きになってもらうことは嬉しいんじゃかいか?』


『・・・じゃあ、例えばサトシとか他の男の人も、ただの友達に好かれても困ったりはしないのかなぁ。』


『サトシ?』


『・・・・』



正直タケシに肯定されたら心強いなって思った。


女の子が絡まなければ、冷静に物事を見る人だから実は結構信頼してる。



『まぁ人に好かれて嫌な気分になることはないと思うが、感じ方は人それぞれだからよくはわからんなぁ。直接本人に聞いてみろよ。』



だけど残念ながらほしい言葉はもらえなかった。

タケシの答えが当然の答えなんだけど。




『まぁそれはそうなんだけど・・・。』


『脈のない友達でも好きになったのか?』


『・・・・』



一気に不安になった。


だから自分を奮い立たせてた。



『・・・可能性ってあるじゃない?あたしにも、タケシにも、友達を好きになってしまう可能性。』


『そうだな。みんなにその可能性はあるな。』


『・・・だよね。』



きっとサトシにも、その可能性がある。


あたしのことを好きになる可能性が。


そう言い聞かせないと、どんどんサトシが遠くの人になってしまうから。


その可能性に縋りついて頑張ってきたの。




―――「・・・本当によかったなぁ。サトシが、あたしのところに来てくれて。」


「・・・・」


「あたしのこと好きになってくれて、本当によかったー。」


「・・・さっきから何言ってるんだよカスミ。お前ってほんっと―――・・・」


「え?何?」


「・・なんでもない。」


「何よー。あ。そういえば、前に一緒にバトルを観戦しに行った時のこと覚えてる?」


「2人で観に行ったやつ?」


「そうそう。あの時、初めてあたしからサトシを2人きりのお出かけに誘ったんだよね。」


「あー・・・そうだっけ?」


「あの時、これがデートならいいのになーなんて思ってたの。そんなに前でもないのになんか懐かしいなぁ。」



―――・・そう、あたしはサトシを誘うためにいろんな準備をして、チケットが届いたその日に真っ先にサトシの元に向かったのよね。



サトシとタケシの話し声が聞こえて、何か大事な話でもしてるのかと、少しだけドアを開けて部屋を覗き込むと


『お、噂をすれば。カスミ、何をコソコソやってるんだ?』



タケシにすぐ声をかけられて、あたしはいそいそと部屋に入った。



『おはよう。何かお取り込み中だった?』


『まぁな。俺たちにとってすごく大事なことを話してたんだ。』


『え?何それ?あたしにも教えてよ!』


『ちょっタケシ・・・!』


『ダメダメ。まだその時じゃないからカスミには話せないな。』


『えー!内緒話とか寂しいんだけど。』


そう訴えたのに、あたしの目の前でコソコソと小声でタケシはサトシに何か言ってて、あたしは1人ムスッとする。



『てゆうか、こんな早くにどうした?今日は朝から雨だからまだ外には出ないぞ。』


『知ってるもん。それよりすっごく大事な話って何?』


『しつこいなぁ。サトシと今度のポケモンリーグ優勝者の予想当てしてただけだよ。』


『え?なーんだそんなことかぁ。』


『俺たちには大事なことだろ?もしサトシとこんど・・』


『あのね!あたしサトシに話があるんだけど。』


『え?俺に?』


『ほう、遮るか。カスミカスミ、俺に用は?』


『特にない。』


『かぁぁ!お前可愛くないぞっ!』


『可愛くなくて結構でーす』



タケシに髪をくしゃくしゃにされてあたしが逃げると、タケシがしょうがないなーと笑った。



『はいはい。俺は先に朝食頼みに行くから、2人で心ゆくまでごゆっくりー』



タケシが部屋を出ていくのを見送って、あたしはサトシの隣に座った。



『変なの。どうしたのかなタケシ。』


『・・・し、知らね。』



サトシの様子もなんだか変で首を傾げる。



『あたしとサトシが仲良しだから嫉妬したのかしらね?』


『べ、別に俺お前と仲良しじゃないし・・っ』



・・・ちょっと傷つくんですけど。

でもまぁ言い返してくるってことは大丈夫かな。



『そんな冷たいこと言わないで、あたしと仲良くしといた方がいいわよー?』



フィッと横を向いてしまったサトシにニコニコしてから、かざこそとカバンを開く。



『じゃーん!これ見てサトシ!』



サトシの顔の前にチケットを出すと、サトシの目がみるみるキラキラと輝き始めた。



『うっわ!行きたかったコラボバトル大会のチケット!』


『すごいでしょー?』


『なんで持ってんの?しかもこんなアリーナのいい席!』


『サクラ姉さんがもらったんだって。でもサクラ姉さんはあんまり興味ないから、ほしいって言ったら譲ってくれた。
でね、ちょうど今週末にあるんだけど。』


『マジ?ちょうどいいな!』


『行きたい?』


『すっげえ行きたい!!』



サトシの嬉しそうな反応を見てもうそれだけで満足なのに、欲張りなあたしはしらじらしく泣き真似をした。



『でもサトシはあたしと仲良くないらしいし?一緒にいってもつまんないよね。やっぱりチケット返してくれる?』



『さっ・・・さっきのは嘘だ!超仲良い!』



必死な顔であたしの方を見つめてきたサトシに、堪えきれず吹き出してしまった。



『ふっ!あははは!そうだよねー!』



サトシを安心させるためにニッコリ笑ってみせた。



『じゃあ一緒に観に行こうね。』



サトシと2人きりで初めてのお出かけだ。

嬉しいな。



『あ、そうだ。サトシ、ついでにこれもあげる。』


『何だ?これ。』


『ほら前に、ガムは好きだけど最後苦くなるの苦手って言ってたでしょ?
これね、あたしのオススメなの。』


『・・・・・』


『ガム特有の後味って感じがしなくて、むしろ噛めば噛むほどおいしくなるの。』


『・・・お前それ俺のために買って試したのか?』


『だからこれ食べてみて、って・・・へ?』


『それ。』



指さされた方を見ると、あたしのカバンから3つくらいガムが飛び出していて。


気づかれた瞬間、顔がボワッと赤くなった。



『あ、えっと、試したっていうか、これはその・・・』 



別にそんなつもりじゃなかったけど、サトシの話を聞いて、気になってたまに買ったりしてただけなんだけど。


なんか、確かにサトシのためにやったみたいだよね・・・。


恥ずかしくなってカバンを胸に抱えて隠した。



『もしかして、タダでチケットもらったってのも嘘か?』


『そ、それは本当よ!人魚ショー主演2回で手を打ってもらったもん!』


『条件付きだったのかよ。』


『あっ・・・。』



あーぁ、あたしのバカ・・・。



『い、今のは聞かなかったことに・・』


『いやもう聞いたし。なんで言わねぇの?』


『だ、だって条件付きって聞いたら、サトシ純粋に喜べないでしょ?だから言わないことにしたのに・・。あたしって口軽い。』



思わずため息をついてしまった。

サトシはそんなあたしをじっと見つめてから、あたしの手から優しくガムを取った。



『観戦の日、ご飯おごる。』


『えっ。だからそういうのいいって。』


『カスミに拒否権はない。』


『えぇー』


『どこ行きたいか考えとけよ。あと、そのショーの日決まったら教えて。』


『え?もしかして観に来てくれるの?』


『当たり前じゃん。そんなのチケットのことがなくても、カスミがやるなら行きたいに決まってるじゃんか。』



サトシの言葉にトクンと胸が鳴る。


たぶんあたしと同じ気持ちから出てきた言葉ではないだろうけど、それでもすごく嬉しい。



『やった。気合い割り増しで頑張るね!』


『・・・チケットとガムありがとな。すげぇ嬉しい。』


『それならよかった。』



やっぱりサトシを好きになってよかったなってその時あらためてそう思った。


その週末、2人で観戦に行った後、あたしはすごくはしゃいでて、サトシも熱いバトルを観た後だったから2人して盛り上がって、ファミレスで夜遅くまで話をした。



『最後のあの弾丸攻撃はマジ凄かったな!!』


『一撃であの素早いピジョットに当たったもんね。』


『それを受けたケンタロスがまたさぁ!』


『うんうん!ピジョットが体制立て直す間あえて身体を張って前に出て、ピジョットの敵への風の追い討ちの中でもバランスも崩さずに、そこからの2頭の快進撃が凄かったね』


『そうそう!いやすげぇ熱いコンボバトルだったなぁー!!!はぐっ・・・ゴクン。それでさぁ!』



これでもかってくらいニコニコしながらそう言って、ハンバーガーにかぶりつきながらもまだ話そうとするサトシにあたしは思わず笑ってしまった。



『もう食べるか喋るかどっちかにしなさいよー。でもま、そんな顔を見れたなら連れてきた甲斐があったわ。』


『そんな顔って?』


『んー?心底楽しそうな顔。』


『はぁ?なんだそれ。』


『要するに、可愛いなーって。』


『可愛っ?!お、お前、男に可愛いとか言うなよな。』


『あれ?ダメなの?本当に可愛いのに。』


『だからもう言うなって。』


『ねぇ口元にソースついてる。』


『え?どこ?』


『もっと左よ。』


『どこだよ。』



全然違うところをゴシゴシと拭くから、サトシの口元に手をやってぬぐってあげた。



『むしゃむしゃ食べてるサトシもかーわいっ』


『だからもう言うなって!』



パンっと手を払い除けられて、残りのハンバーガーを全部口に放り込んだサトシにクスクスと笑う。



『ねぇねぇサトシ。手をパーってして。』


『はぁ?なんだよ?』


『いいから。』


渋々と差し出してくるサトシの手と、自分の手を近くで比べてみた。



『・・・サトシこんなに手大きかったっけ?』


『さぁ。自分じゃ分かんないけど。』


『でもあたしとそこまで大きく差はないか。』


『おい、嫌味かよ。』


『違うよー。あたしの手も大きければ、サトシに何かあった時は受け止められるかなって言いたかったの。』



サトシの指先に少し触れると、サトシの手がピクッと揺れる。



『まぁあのケンタロスほどはたくましくないけど、あんな風に支えられたらカッコ良いよね。』



なんだかあたし変なこと言ってるけど、今サトシはどんな気持ちであたしの話を聞いてるのかな。


サトシが拒否しないことをいいことに、ニギニギとサトシの手を触ってみた。



『でもあれだね。そんなに大きくなくても骨がゴツゴツしてる。このカルシウムがもっと身長にいけばよかったのにねー。』


『また嫌味言いやがって。』


『あははは。手が冷たいねサトシ。』



そろそろ離そうかと名残惜しくもそう思った瞬間、ギュッとサトシが手を握り返してきた。



その瞬間驚いて思い切り手を離してしまった。



『あ、ご、ごめん!急に指が動いたからビックリして・・。』


『散々握っといて、俺が手を握り返したらダメなわけ?』


『やっいいんだけど・・・・握り返されるのは予想外だったから。』


『お前なんで顔赤いんだ?』


『な、なんでって言われても・・・』



もう。サトシには何の意図もないんだろうけど、あたしはサトシの行動一つに振り回されまくりだよ。


動揺してるあたしに追い打ちをかけるように、サトシが反対の手を伸ばしてきて、なぜかあたしの頬に触れた。



『あはは、変な顔。』


『な、何・・・?!』


『・・・・もっとすげぇ可愛いんだろうな。』


『へ?!何て言ったの?何が可愛い・・・うわっ』


小声でなんか言われて聞き返したかったのに、ぐしゃぐしゃーっと髪を掻き撫でられた。



『ほらさっさと食えよ。冷めるぞ。』


『えっ?あっ、うん・・・』



どうしよう。


サトシと手を握り合っちゃった。


すっごく嬉しいのに。


あたしって欲張りかもしれない。




・・・もっともっと、サトシに髪を撫でてもらいたい。

ずっとサトシの手に触れられていたい。

ベタベタとサトシの顔にも触ってみたい。

もっと言えば誰も知らないサトシの腕の中の温もりを肌で感じてみたい。

あたししか知らないサトシを、もっともっと増やしたい。




―――・・「て、そう思ってたんだよね。少し前のあたしに今起きてることを言ったら驚くだろうなぁ。」


「・・・お前はまたそうやって恥ずかしいことを言う。」


「だってあたし毎日思ってたもん。サトシとキスしたい。抱きつきたいって。サトシは、思ったことない?」


「・・・なくは、ないけど。」



そんな言葉が返ってきたもんだから、あたしの顔は真っ赤になって、すぐに頬が緩んでしまった。



「よかった。同じこと考えてたんだ。」



サトシからこんなことが聞けるなんて嘘みたい。



「ねぇ、もしあたしの気持ちが重すぎたら言ってね。あ、重いって言われてもそれは直せないんだけどね。」


「ふはっ。なんだそりゃ。」



サトシはいつからあたしを好きなの?


いつからあたしを特別にしてくれてたの?


サトシのいろんなことを知りたい。


これからもっとたくさん、サトシを知っていけるんだよね。



そう、さっきみたいに。




「今日からサトシの全部が、あたしのものなんだなぁーって。フフ、あたしだけのサトシかー。誰にも渡さないんだからね、覚悟してよ?」


「・・・・・その台詞、俺もそのままお前に返す。」


「え?」


「お前も今日からおれのものなんだからな。他の人にフラフラするなよ。」




その真っ直ぐな目と笑顔を向けられて、知らないサトシの一面を見たようで、あたしの心臓はぎゅーっと鷲掴みにされた。



これからサトシのいろんな面を知っても、あたしはきっとそんなサトシをまた好きになる自信がある。



サトシも、もっとあたしを好きになってくれるといいな。



end

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あきゅろす。
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