[携帯モード] [URL送信]

◆Main
サクラ咲き、D




一生に一度のあの時を

あいつの隣で過ごせたこと。




当たり前だと思いたくない。




ただ奇跡だとも思いたくない。




あたしの意思とサトシの意思。




2人が自分で選んだ道だったから。




だからたとえ、サトシと想い合えなかったとしても




あたしはあの頃のことを一生忘れない。




D




「何やってんだ?」




桜の木からヒラヒラと花びらが落ちる向こう、




「カスミ?」




そこにはなぜかサトシが立っていた。




「・・・・・・・」




なんでサトシがここにいるの?




驚きで何も返事の出来ないあたしに、サトシは不思議そうに首を傾げる。




そんな光景に、今更ながら信じられないものを見た気分になった。




サトシが、目の前にいる。




「どうしたんだ?気分でも悪くなったのか?」




少し低くなった声。



春の匂いを運んでくる風に、少しだけまた胸がトクンと鳴った。




サトシを思い出していた、懐かしい桜の匂い。




「・・・え、えっと、別に何でもないけど・・・・・」




桜の木の下に、あたしとサトシだけ。




――まるであの時と同じように。




「て、ていうか、サトシこそどうしたのよ?まだ、」




花火は終わってないでしょ?




あたしの少し緊張してるような問い掛けに、サトシは2、3度ゆっくり瞬きをすると




「どうしてって、カスミが心配だから来たに決まってるじゃんか。」




「心配・・・・?」




「あぁ。」




さらりと言われたその一言に、あたしは胸がトクンと弾んだのを感じた。




温かいものが胸に流れ込んでくる。




――心、配。




まだ、あたしの心配してくれるんだ。




もうあの頃みたいに、子供じゃないっていうのに。




・・・あぁなんだか懐かしいなぁ、この感じ。




心配されておせっかいだと思う半面、実はちょっぴりうれしかった、素直になれなかったあの頃の記憶が蘇ってくる。




―――あぁどうしよう。本当に困った。




サトシの背中の向こうで花火が絶えることなく上がっている。




「まぁ何でもないならいいんだけどさ。安心したぜ。」




そう言ってニコりと口元に作った笑みは少し大人びていて、それを見たあたしの胸に甘酸っぱいときめきが染み込んでいった。




・・・・どうしよう。




この気持ちはどこに向かえばいいんだろう。




サトシの笑った顔なんて。
少し前まではもう見ることはないだろうと思ってたのに。




笑顔を見た瞬間、やっぱり胸がキュってわしづかみにされた。




――・・・本当、困ったな。




「あ、ここからでも、花火は見えるんだな。」




サトシが振り返った瞬間に、黒いくせっ毛の髪が目について、あたしはその髪をじっと見ていた。




「カスミ」




「・・・何?」




そんなサトシの後ろ姿に見入っていたあたしに、




「せっかくだからさ、ここで花火見ていかないか?」




ニッコリと微笑みながらサトシがそう言った。




「えっ・・・いいけど。」




でも・・・・ヒカリはいいの?




思いもよらない言葉に、そんなことを思いながらもあたしはそう返した。




「ここ、花火見るにはちょうどいいかもな。」




神社の階段に腰を下ろしたサトシ。



そんなサトシを見つめていたら、




「カスミも座れよ。」




「あっ・・・・うん。」




当たり前のようにそう言われ、実はどこに座ろうかと悩んでいたあたしは、そっとサトシの傍に近寄った。




「ここ、」




「えっ?」




「ここなら人もいないし、最初からここにすればよかったよな。」




腰を下ろした瞬間に、サトシが顔をこちらに向けて、その近さにあたしはピクリと肩を動かした。




「そ、そうね。」




「あ〜ぁ、あんなに人が多くちゃ帰りも大変なんだろうなぁ。」




クスクスと苦笑するサトシを、横目でこっそりと覗き見る。




嘘みたい。




――・・・・・あたしの隣に、サトシがいる。




あの頃みたいにサトシがあたしの隣で笑ってる。




あの頃から何も変わってないかのように、サトシと話している。




頭のどこかでひょっとしたらもう二度と会うこともないんじゃないかって思ってたのに。




時間って怖い。




昨日の今頃、今日がこんなことになってるなんて思いもしなかった。




サトシなんてもう遠い関係になったんだって
サトシのことなんてもう何とも思ってないと思ってたのに。





――なのに




なのにあたしは今、あたしの全てがサトシだけでいっぱいいっぱいになっている。




今日のついさっき、会っただけで昔のあの頃の“想い”を思い出してしまうなんて。




そんなの今更なのに・・・・・・




「うわっまた赤いのが上がったぜ!綺麗だよなぁ。」




「・・・・・うん。」




だけどどんなにあの頃の気持ちを思い出しても、やっぱり時間が経ってしまった現実は変えられるわけなんかなくて・・・・・・




「・・・・・・・・・」




何年も一緒にいたサトシ相手に、何を話していいのか分からないあたしは、黙り込むことしか出来ずにいた。




その途端に襲ってくる沈黙の時間に、あたしは焦りを感じて俯き加減になるばかり。




これじゃあ、何のためにサトシの誘いに頷いたのかわからない。




――いや。1つだけはっきりと、

言いたいことはちゃんとある。




“好きた”って告白したい。




言ったからどうなるってこともないだろうけど、
――・・・・・たぶんサトシは、ヒカリを好きなのかもしれないけれど・・・・・




それでも気持ちを伝えたい、って思った。




そう思ったのは、伝えられなかった後悔を知ってしまったせいかもしれない。




毎年春がくる度に、満開の桜の木から舞い散る花びらを見ながらいつも後悔してた。




あの時、ちゃんと気持ちを伝えればよかったって――・・・




あたしの想いをサトシに聞いてほしかったって・・・・・




だから今こそ伝えたいと思うのに、怖くて出来ない。




・・・もしかしたらどこかでまだ当たって砕けたくないっていう気持ちが残ってるのかもしれない。




出来ればもう少しサトシと、この桜と花火をただ見ていたいと。




「・・・カスミ、」




「えっ?」




急に沈黙を破ったサトシに、あたしはゆっくりと顔を向けて「何?」と小さく聞き返した。




前を向いたまま
視線は花火に向けられたままで
サトシはさっきと変わらないような調子で




「ずっと、元気にしてたか?」




そう言って柔らかく笑みを口元に作った。




to be continued


←前次→

6/303ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!