[携帯モード] [URL送信]

◆Main
ハイライト













「おーい、カスミー」



中に声を掛けてみるが、カスミからの返事がない。



「こっちは戸締まり終わったぞー・・・ってどうした?!」



カスミがプールの側で仰向けになってひっくり返っていて、驚いて駆け寄った。



「おい、カスミ!大丈夫か?!」


「あ、サトシ・・。あれ。ごめん、疲れちゃって一休みしてたらウトウトしてたみたい。」


「ったく驚かすなよなー。滑って頭でもぶつけたかと思ったぜ。」


「自分のジムで今更転んだりしないわよ。」


「どうだか。」



サトシがおでこに手を置いてやると、カスミはフワリと笑みを浮かべた。



「なんだよ。」


「サトシの手、冷たくて気持ちいい。」


「そうか?おらっ」


「痛い!もう、鼻摘まないでよ。」



鼻をさするカスミを見てクスクスと笑うと、サトシはカスミの手を優しく掴んだ。



「そろそろ立てるか?」


「うん」


「ちょっ、おい、カスミ!」



腕を引っ張ると、カスミが足を滑らせて2人で床に沈んだ。



「お前なぁ・・」



しっかりと頭の後ろに腕を回していたから、カスミは頭を打たずに済んでホッとした。



「ご、ごめん。自分でもビックリした。
思った以上に力が入らなかったみたい。」



本当に疲れているのか、驚いたくせに飄々とそう言うカスミを見て、力が抜けてサトシも隣に寝転がった。



「俺も立ち上がれなくなったーっと。」


「えー、サトシも?」



顔を見合わせて、少しの沈黙の後2人して吹き出した。



「・・本当に、今でも信じられない時がある。」


「ん?何が?」


「1年前、ハナダを飛び出した時は1人でこれからどうしようかと思っていたのに。
サトシと出会って、いろんな場所に旅して、想像もしなかったくらいたくさんの人たちと出会って。
こうしてサトシとタケシとジムに戻ってきて、水中ショーを助けてもらうなんて。」


「・・・前にここに来たのは、ジム戦の時だったな。懐かしい。」


「たまにね、もしかしたらサトシとの出会いは、神様からのご褒美だったんじゃないかなって思うの。」



ふと横目で盗み見ると、カスミはとても柔らかな笑顔で天井を見つめていた。


サトシの口角が自然と上がる。



「カスミ」


「うん?」



起き上がり、上半身だけカスミに覆いかぶさると素早くキスをした。



「何?急に・・」


「カスミが俺を煽るのが悪い。」


「フフ。あたしのせいなの?」



頬に添えられた手に胸が高鳴って、カスミの目は自然ととろけ、細められる。



「神様のおかげなんかじゃなくって。
俺たちの出会いは、元から決められた運命だよ。」



そう言ってサトシの唇が近づいてきて、カスミはゆっくりと目を閉じた。



「・・サトシっ」


「何?」



何度も、何度も、角度を変えて交わり続けるキス。



「約束と違う・・」


「何の?」


「外ではっ・・キスしないって」


「ここ外じゃないじゃん。」


「そういう意味じゃないっ・・」


「いってぇっ!」



腕をつねられて、痛そうに顔を歪めるサトシ。



「自業自得よ。タケシに見られたらどうするの。」


「だってカスミの焦った顔もっと見たくて。」


「・・悪趣味」



口ではそう言いながら、満更でもないカスミの甘い声色。


そのはにかむ顔を見て、口角を上げるサトシ。


愛しいものを見つめるようなサトシの眼差しに、うっとりと見とれるカスミ。



ーーあぁ、こんなにも


ーーお互いから目を離せない。



「そろそろ行くか。タケシが探しに来るかもしれない。」


「今度からはこういうとこでは禁止だからね。」


「えー。まっ、別の場所でOKならいいや。」


「まったくもう・・」


「ほら手を貸してやるから、ここ閉めたら部屋まで戻るぞ。」


「ねぇサトシ」


「うん?」


「あたしね、今は本当に毎日が楽しくて、幸せ。」




ーー・・永遠に続かない時を、




「あぁ、俺もだ。」




ーー・・言葉で確かめることしか出来なかった。




ーー・・そんな思い出なのに。






「カスミ!どうしたの?」



ドアの側で見つめていたプールから視線を戻して、振り返る。



「ううん、何も。」


「よかった。カスミはバテやすいんだから、気をつけなよ?」



そう笑ったケンジからタオルを頭にパサッとかけられた。



旅を終えてから何年経っても、ケンジは変わらず手伝いにきてくれる。



「こっちはもう全部鍵かけたから。
プールの鍵閉めて、もう行こう。」



そう言ってケンジは背中を向けて歩いて行く。



もう一度プールに振り返り、目を閉じる。



「・・サトシ」



いつまでも色褪せない、愛しい名前を噛みしめて、
そっとドアを閉めて、鍵をかけた。



カチっと、いつもの音がなる。



鍵を握りしめて、振り返らずに歩きだした。




ーーーー




「サトシ。ここにいたんだ?」



見つめていたプールから視線を戻して、振り返る。



ヒカリがポッチャマを抱いて立っていた。



「もう回復終わったのか?」


「うん!もう晩御飯の時間だよ。ここのポケモンセンターね、オムライスもあるって」



そう笑ったヒカリが、早く行こうと俺を呼んで、ポケモンセンターに戻って行った。



あれからもう、何年目の夏が巡ってきたんだろう。



もう一度プールに視線を戻して、目を閉じた。



「・・会いてぇよ。」



小さく呟いた声は、生温かい夏の夜の風にさらわれる。



プールに背を向けて、振り返らずにポケモンセンターの入り口に向かって歩き出した。






ーー・・もう何年も昔の思い出なのに



ーー・・今でも奥深くで光り続ける。





end

※アニメポケットモンスター61話の水中バレエショーの後の話を作成してみました。
年齢は少し上設定です。

←前次→

47/303ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!