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◆Main
君といた道5



知ってたよ。



アンタが望んでいたものは、仲間とどこまでも自由に生きることだって。



アンタがポケモンマスターになった時、やっとここにいてくれるって思ってた。



だけど心の中では、またどこかに旅立ってしまうんじゃないかといつも不安だった。



望むものに手を伸ばさなくなったアンタに、言えることがあったのにあたしは何も言わなかった。



「ポケモンマスターなんて辞めちゃえば?」


「ここを離れて、仲間の元に行くべきだよ。」



そう言うことも出来たのに、あたしは背中を押してあげることが出来なかった。



そしたらヒカリ達が来てくれた。
サトシの目を覚まして、サトシを解放してくれた。



サトシ、あたし何も出来なくてごめんね。



遅くなったけど、まだ間に合うかな。












ヒカリと笑い合うサトシを見て、あぁやっぱりかなわないなと思った。



ーーサトシのあんな穏やかな笑顔、あたしは初めて見た。



その場をふらりと立ち去って、あたしは気づけば仕事場の近くのベンチに座っていた。



傘もどこかに置いてきてしまったらしい。



けどそんなのどうでもよくて、今はただ雨に打たれていたかった。



全部全部、一緒に洗い流してほしかった。


こんな気持ちも、後悔も何もかも。



この雨と一緒に流れてくれれば、どれだけ楽になれるんだろうかーー・・・



「カスミ・・・!?」



突然名前を呼ばれたと思ったら雨が身体にあたらなくなって、顔を上げた。



「ハルカ・・」



驚いた顔をしたハルカが、傘をあたしに傾けて立っていた。



「何してるの!?傘も差さないで・・」



ハルカは戸惑いながらもカバンからタオルを取り出してあたしの肩を拭いてくれる。



「あーもービショビショかも!いつからここにいたの?風邪引いたらどうするーー・・」


「ちょうどよかった。ねぇハルカ・・」



肩に置かれた手を握って、あたしはハルカを見上げた。



「あのね、ヒカリがここに残ってくれるように、一緒に説得してくれないかな・・?」



あたしのお願いに、ハルカは困惑したような顔をした。



「ーー・・へ?」


「もし出来たら、ハルカもみんなもサトシのために残ってくれない・・?
ほら、やっぱりさ、みんながいてこそサトシって感じなのよね。あたし的には。」


「カスミ・・?」


「きっとハルカもヒカリもそれぞれ仕事とか生活があったと思うんだけど、ここに残ってサトシの側にいてあげられないかな・・?あ、なんだったらあたしが引き継ぎでも何でも手伝うし!」


「・・・・」


「サトシはあたしとだと、アクが強すぎてお互い潰しあっちゃうっていうか・・。あ、大丈夫!仕事のことはタケシがやってくれるし、ハルカ達にはただサトシがまた1人にならないように支えてあげてほしいっていうか・・」


「・・ねぇ、カスミ?」


「だから、だからさ、」


「ーーカスミっ!」


「お願い、ここにいて・・っ。サトシの願いを叶えてあげて・・・!」



どうかもう、サトシから笑顔が消えないようにーー・・・。






ザアアアーと激しい雨音が2人の間に響く。



あたしはずっと、ハルカの手を握りしめ続けていた。



少しの沈黙の後、ハルカが大きなため息を吐き出した。



「よくわからないけど・・、わたしはポケモンコーディネーターとしてまだまだ経験を積みたいし、ずっとここにはいられないわ。
それにーー・・カスミはそう思ってても、サトシはどうかな?」



優しく労わるように手を握り返してくれているのに、あたしは気が遠くなるような思いで聞いていた。



「確かにサトシは大事な大事な仲間だけど、わたしには今シュウがいて、仲間で、パートナーだと思ってる。
カスミも、今のサトシにとってのそうなんじゃないのかな?」




・・違う。あたし達は、そんなんじゃないのよーー・・




「違う、違うよ・・。アイツはあたしじゃ・・ーー」


「ーーっカスミ!?どうしたの!?」



アイツは、あたしじゃダメなんだよ。



そう呟いたらグラリと身体が傾いて、それに抗えずあたしは意識を手放した。






ーーなんかフワフワする。



ハルカに会って、それから・・・



あれ?どうしたんだっけ?




『ーーーーミ、カスミ、』




ーーーあ、そっか。


これ夢なんだ。




「・・・カスミ、」




アンタのそんな声、あたし初めて聞いたもん。




「・・・サトシ。」



染み渡るような優しい声に思わず微笑んで、あたしは頬に感じた手の感触に頬をすり寄せた。



朧げな視界の中、サトシも穏やかな顔で微笑んだように見えた。



ーーーあぁ・・これが夢なら



このままずっと覚めなければいいのに。






「ん・・・」



目を開くと、見慣れた天井が視界に映った。



おでこの上に置いていた手の甲で目を擦る。



ーーーやっぱり、夢よね・・・。



ゆっくりとだるい身体を起こして、薄暗い部屋の中を見渡した。



今は何時なんだろう。


まだ雨は降ってるのかな・・。


・・サトシ、雨に濡れてないといいけど。



「喉乾いた・・・」



「ーーー・・起きたのか?」



ベッドの側から声が聞こえて、ほら、と水を差し出されて目を見張った。



「・・サトシ・・?」


「お前の家の冷蔵庫、ミネラルウォーターばっかりだな。なんか軽く食べれるものくらい入れとけよ。」


「なんで、いるの・・?」


「なんではこっちのセリフだっつの!お前に電話したらハルカが出るし。お前がぶっ倒れたとか言われるし。」



電気をつけ、こちらに振り返ってハッキリと見えたサトシの顔は、明らかに怒っていた。



「ったく、ビビらせんなよな。」


「ごめん・・えっと・・」



ハルカの名前を聞いて、さっきまでの出来事が頭に浮かんだ。



「ていうか、ヒカリは?」


「んあ?なんでヒカリ?」


「だってさっきまで一緒にいたんじゃ・・」


「あぁーー・・てか何で俺がヒカリといたって知ってるんだよ。」


「っそれはーー・・あっ」



ペットボトルを落とした拍子に、トン、とカバンが倒れて中から新しい物件の書類が数枚滑り出てきた。



一瞬目を見開いたサトシの顔が、さらに険しくなる。



「ーーーなんだよ、ソレ・・」


「あ、えー・・っと、言ってなかったんだけどね、あたしここを離れることにしたのよ!
ここだと、えと・・・えーと、ほら!姉さん達がジムリーダーやれってうるさいし、あたしも自分で仕事見つけて、そろそろ自立しなきゃ、みたいな?」


「・・・何で黙ってた・・?」


「あの・・・ごめん。あたしの抜けた穴は大きいかもしれないけど、でもあたしね!ヒカリとハルカにみんなにここに残ってもらえないかってお願いしてるところなのよ!
だからそうなったら、ーー・・」


「んなことはどうでもいいんだよ!!」



サトシの剣幕に呆気にとられて、でもすぐにあたしは困ったように笑みを浮かべた。



「ーーっどうでもいいって・・、ちゃんと喜んでよ。またみんなと一緒にいられるんだよ?嫌なの?」


「そういう問題じゃねぇだろ。もうアイツらにはアイツらの仲間がいて、今の生活があるんだぞ。」


「・・そんな。らしくないよサトシ。そんな正論言っちゃって。」


「お前なぁっ・・」


「そんな理屈並べてないで、ハッキリ言えばいいのよ・・」



あたしはシーツをギュっと握りしめた。



「アンタが何を望んでるのか、ハッキリ言ってくれればあたしは・・・っ」



涙が目に浮かんできて、あたしは唇を噛み締めて泣くのをこらえた。



こんなとこで泣いたら、サトシが本音を言えなくなる。



ここを出て旅に出るにしても、ヒカリ達とまた一緒にいたいって言っても、笑って応援してあげなきゃいけないのに。



静かな時間が流れて、サトシが小さく息を吐いた音が聞こえた。



「ーー・・言えばいいんだな?」



その声の低さに、ビクりと身体が震えた。



分かっていても、サトシの口から本音を聞くのが怖い。



「言えば、俺の言う通りにしていいんだな?」



少しの間を置いて、あたしは小さく頷いた。






「俺が望むのはーーー・・お前だよ。」






サトシの言葉を聞いて、涙が止まった。



「・・・え・・・?」



その意味が飲み込めなくて、あたしはシーツを見たまま目を見開いた。



「自立するだのなんだの、どっか行かなきゃなんねぇんならそんなもん諦めろ。
そんで、俺の側にいろ。」



何を、言って・・・。



「ーーー・・嘘よ。」


「はぁ!?」



だって、そんなの・・・。



「お前、まだそんなこと・・ーー!」


「だって、あたし見たの。
ヒカリと話してる時のサトシ。
あたしの前じゃアンタは、あんなに優しい顔しない・・・っ。」



サトシの顔を見上げてそう言い放ったあたしに、サトシは一瞬考え込んだ顔をして、バツが悪そうに顔を引きつらせた。



「あー・・・それは、あれだ。お前のせいだよ。」


「・・はい?」



此の期に及んであたしの所為にする意味がわからず、素っ頓狂な声が出た。



「アイツらに言われたんだよ。
・・俺がお前の話してる時は、そういう顔してんだとよ・・。」


「・・・え?」




ーーーあたしの話を、してる時?



あの時、あたしの話をしてたの?




「・・んだよ。なんか言えよ。」


「・・・でも、あたしじゃダメだよ。」


「はぁ!?お前、本っ当いい加減に・・!」


「ーーーだって・・っ」


「だって、なんだよ!」


「あたし、アンタのために何も出来なかった。
ジムリーダー辞めたのだって、アンタのこと思ってたわけじゃない。
・・・全部自分のためなのよ。
ヒカリやみんなみたいに、アンタのことちゃんと考えてあげられなかった。
サトシが苦しんでいたのを、目の前で見てたのに。
あたしじゃ、サトシに何もしてあげられない・・・」


「ーーそれでいいんじゃねぇの。」


「・・・え?」



サトシの口から出た意外な言葉に、あたしは黙ってサトシを見つめた。



「俺があーしろこーしろ言ったわけじゃないだろ?
てか、俺はお前に何かしてほしくて側にいるわけじゃねぇよ。」



サトシが呆れたような、温かい柔らかな笑みを浮かべてあたしの顔を覗き込んだ。



「俺が振り返ったとき、お前がいればそれでいいんだよ。
悪いけどヒカリでもハルカでもダメだ。
お前がいい。」



涙が溢れた目で、真っ直ぐにサトシを見つめ返す。



「だから、」



涙が止まらなくなるくらいの優しい笑顔で、サトシもあたしを見つめ返してくれる。



「ゴチャゴチャ言ってねぇで早く来い。」



嬉しくて嬉しくて、



「うん・・・っ」



腕を広げたサトシに向かって、あたしはまっすぐにその胸に飛び込んだ。



・・その瞬間、



「へ・・?」



なぜかそのままベッドに押し倒された。



「ええと・・サトシ・・?」


「いや、さっき口で確認したから今度は身体で確認、みてーな?」


「・・・はぁ!?全然うまいこと言えてないわよ!
もー、ムードとかちょっとは考えてよねー・・」


「んあ?そういうのが欲しいなら他あたれ。」


「んむっ」



言い返す前に口を塞がれて、深くなる口付けに何も言えなくなった。



「・・他って・・ん、あたるヒマないんですけど・・」


「当たり前だろ。いかせる気なんかさらさらねぇよ。」


「何よそれ・・」


「カスミ」



名前を呼ばれて顔を見れば、真っ直ぐにあたしを見つめるサトシの瞳とかち合った。




ーーーあぁ、どうして今まで気づかなかったんだろう。



こんなにも真っ直ぐに、あたしを求めてくれていたのに。



こんなにも真っ直ぐに、



「サトシ大好き・・」


「知ってるっつの。」



遠回りもしたけど、アンタといた道が間違っていなかったと伝えてくれる。



あぁ、このままーー・・



「・・このまま、どこまでも2人でいけたらいいな。」


「バカ。行けたらじゃねぇ、行くんだよ。
俺かまた旅に出る時は、お前も連れてくからな。」


「・・拒否権はないわけ?」


「俺が望んでる通りにしていいんだろ?」



勝気な顔であたしを見下ろすその顔は憎たらしくて、胸が締め付けられるほど愛おしくて、返事をする代わりに、あたしは笑ってその首に腕を回して抱き寄せた。



サトシといた道が、これからもサトシと行く道に繋がっていく。



あたしは確かに、そう思えた。



ーーーー




「・・そういうことは、直接カスミに言ってあげたらどう?今の俺があるのはカスミのおかげだーって」


「ヤだよ!んなこと言ったら、俺がアイツのことめちゃめちゃ好きみてぇじゃねぇか!!」


「大丈夫よ。心配しなくても、もう隠しようがないくらいダダ漏れだもの。」



クスクスと笑ったヒカリが雨の降り止まない空を、コンビニの短い屋根越しに見上げた。



「けど、どういう心境の変化なの?」


「なにが。」


「カスミがジムリーダーを辞める直前の、一番サトシが顕著に変わってしまってた頃、誰に対しても、特にカスミに対する態度は誰が見てもひどかったと思う。」


「あー・・あん時はな。」


「うん?」


「そりゃ変わりもするだろ。
俺を追いかけてジムリーダーまで辞めて、俺の態度が変わっても側についてきて、そんなヤツに何も思うなって方が無理だろ。
俺がどんだけ辛く当たっても、全然めげないで俺の隣にいるんだぜ?」



勝ち逃げなんて許さない、と前に言ったカスミの顔が頭に浮かんで、ーー・・・顔に笑みが広がった。



ーーーあぁ・・・やべぇ、会いてぇ。



「ホント・・・バカだよな、アイツ。」



そう言って笑った顔は、とても柔らかくて温かい笑顔だった。





end

少し修正しました。
タイトルとうまく繋がっていれば幸いです^ ^

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