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君といた道4



サトシがどんな風に変わってしまっても、絶対に側を離れないって決めていた。



絶対にサトシを1人にはしないって思ってた。



でもいつの間にか、アンタなしじゃ歩けなくなってたのは、あたしの方だった。













「これで全部かな・・・」



さっきもらったばかりの書類を腕に抱えながら、あたしは仕事場に向かっていた。



確かにたくさん欲しいとは言ったけど、まさかこんなにもらえるなんて。



おかけで全部はカバンに入りきらなくて、数枚は腕に抱えたまま。



仕事前に寄った自分も悪いけど、どこかでこれは一旦整理した方が良さそう。



「あ、」


「っと・・」



手元を見ながら歩いていると、誰かとぶつかってしまった。



その拍子にパラパラと数枚が腕から落ちて、とっさに相手も書類を拾ってくれた。



「すいません!」


「いえこちらこそ・・ってカスミ?」


「え?あ、なんだタケシじゃない。」


「すまんな、携帯を見てて前を見てなかった。もう身体の具合は大丈夫か?」


「あ、うん、大丈夫。昨日はごめんね。」


「いやいいさ。これで全部ーー」



書類に目を落として、一瞬固まってしまったタケシから急いで奪い返した。



「これで全部よありがとう!
ていうかタケシ今日はどこか打ち合わせしてから来るって言ってなかったっけ?もう終わったの?」



続け様に質問して誤魔化そうとした。


でもそんなのタケシに通用するわけもなく、大きなため息を吐かれた。



「・・俺が人の恋愛の心配をする羽目になるとはなぁ・・」


「え?なに?よく聞こえなーー」


「サトシには言ってないのか?それ。」


「あーえっと・・・うん。」


「まぁタイミングもあるだろうが、ちゃんと自分の口で言えよ?
そんな大事なこと、人づてに聞くのはサトシも嫌だろ。」


「そう、かなーー・・。」


「たぶん、いや間違いなく反対されるだろうがな。」



あたしは視線を下に逸らした。



「でも、サトシにはみんなが付いてるし。きっと分かってくれるわよ。サトシは・・・」



ーーーあたしがいなくても、もう大丈夫だもの。



何も言えず黙り込んだあたしに、タケシはため息を吐いた。



「ま、あんま思い詰めないでちゃんと腹割って話せよ?俺はギスギスしてるお前らを見るのは嫌だからな。」



そう言って、先いくぞ、とタケシはあたしを置いて歩いて行った。



あたしにはそれが、頭を冷やしてから来いと言われてるように感じた。



・・タケシには悪いけど、あたしはたぶんこのことをサトシには言わない。



こんなにズルいあたしを、これ以上サトシには知られたくない。



・・・こんなあたしじゃ、もうサトシの側にはいられない。



あたしは、新しい引越し先の家のチラシをギュっと握りしめた。



ーーーー




「お前なぁ・・・覚悟は出来てるんだろうな?」


「うわっ!」



屋上で昼休憩を取っていたら、突然上からベンチを乱暴に掴まれて覗き込まれた。



「サ、サトシ?!お、脅かさないでよ・・」


「うるせー、呑気に寝やがって。」



サトシはイライラを隠さないで、こめかみをピクピクさせたままあたしを恨みがましい目で睨んでくる。



「昨日はせっかく人が待っててやったのに、結局来ねぇとか。
ったく、俺に連絡くらいしろっての。」


「・・・自分はいっつも連絡してこないくせに。」


「なんだよ?」


「まぁまぁいいじゃない。おかげでヒカリとバトル出来たでしょ?良かったじゃない。」


「はぁ?バトルなんてしてねーよ。」


「えぇ?何やってんのよ、人がせっかくーー・・」


「ついこないだヒカリとはバトルしたし、引き止めてまでする理由もねぇじゃん。
ヒカリもお前がいないなら帰るってすぐ帰ったぜ。」


「そんなぁ・・」



この前みんなとあんなに楽しそうにバトルをしてたから、ヒカリを誘ったのになぁ・・。



もうサトシは孤独じゃない。

だから、あたしとバトルをする理由はもうなくなったのに。



ーーーあの日、みんなと楽しくバトルをするサトシを見て、あたしは孤独だった頃のサトシを恋しく思った。



あたししか世界にいないかのような、あたしだけを求めるサトシが恋しいと。



そんな自分を・・ーーー最低だと思った。



サトシから離れなくちゃいけないって、本気でそう思った。



だから、仕事も辞めてこの地を離れることをタケシには伝えた。



きっとみんなが側にいて、特にヒカリみたいな人がサトシの側にいてサトシを支えるのが一番いい。



ヒカリならいつも、サトシを正しい道に導いてくれる。



この先も、みんながいればサトシから笑顔が消えることはない。



・・・きっと、そう思う。



考え込むあたしの顔がそんなにおかしかったのか、サトシは吹き出すように笑って鼻を摘んできた。



「んだよその変な顔。」


「ぎゃっ。」



急に摘まれて変な声を出してしまった。



「変な顔なんかしてないわよっ。そっちの方が変な顔してるくせに。」


「んあ?もっぺん言ってみろ。」


「いたたたたっ!」



また鼻を摘まれて、あたしは鼻をスリスリと撫でた。



「もうー。女の子の顔なんだからもっと丁寧にあつかーーー・・」



顔を上げると、サトシが少し顔を傾けて近づけてきていて、すぐにキスをしようとしてるんだと分かった。



あたしの唇を見ているから、少し視線が伏し目がちになって普段では見えない色っぽさにドキッとする。



いつものように自然と唇を寄せようとあたしも顔を上げて、そしてふと我に返った。



「・・・ちょ・・ーーーーっと待って!!」


「イデっ!!」



両手で思いっきりサトシの身体を押し返したら、サトシが後ろにひっくり返ってしまった。



「いってぇなぁ・・。お前なんーー・・」


「あのさ!ずっと言おうと思ってたんだけどね?!やっぱこういうのは、本命とすべきっていうか・・・
そりゃまあ、そういうのしたくなるのは分かるし、あたしから持ちかけといて今更だけど、でもやっぱりーー・・」



あたしは息を吸って、地面に視線を向けたまま重い口を開いた。



「ホントに好きな人が出来た時にするべきじゃないかなって・・・」



そう口にした途端、自分で言ったのに胸がズキッと痛くなった。



本当はずっと思ってた。



なんとなく身体を重ねてしまった時から。



サトシにとって、こんなことをずっと続けていいわけないって思ってた。



ーーーなのに、サトシは眉を寄せて怪訝な顔をして言った。



「ーーー意味わかんねぇ。」


「え?」


「俺はお前がいいんだよ。」



手首を掴まれて顔を上げさせられて、あたしは驚きから目を見開いた。



「はい・・?」


「はい?じゃねぇよ。ホントお前わけわかんねぇこと言うよなぁ。」


「だって・・え?・・」


「だから、こういうことすんのはお前だけでいいっつってんの。」



サトシに呆れたような顔で見つめられてるのに、胸に温かさが広がっていく。



「ホントに・・?」


「ウソついてどうすんだよ。」



掴まれてる手首から力が抜けていって、声まで震えてしまう。



「ホントのホントに・・?」


「あーもう、うるさいな。ちょっと黙ってろ。」



手首を引き寄せられて、今度はそのまま身体を委ねて、あたしはサトシとキスを交わした。






ーーーねぇ、


じゃああたしは、


今もアンタの特別だって思ってもいいの?






ーーーー



「サトシ、もう帰っちゃったかな?」



珍しく残業もなく仕事を終えて外に出ると、雨が降っていた。



午後サトシはトレーニングをしにいくと外に出ていったきり戻ってこなかったから、もしかしたらもう家に帰ったかもしれない。



ーー・・一緒にご飯食べようって、連絡してみようかな。



でも雨だと出てきてくれなさそうだし、何か買って持っていこうか。



そんなことを考えてたら、勝手に口許が緩んできた。



こんな気持ち久しぶりで、なんだか少しくすぐったい。



カバンを抱え直した時、ふと今日もらってきたばかりの引越し手続きの書類が目に付いた。



「・・これも、もういらないかな。」





ーーだって言ってくれた。


あたしがいいって。


サトシは、あたしのことをーー・・





目の前の景色を見て、足が止まった。



道路の向こうのコンビニの前で、サトシが満面の笑顔でヒカリと話している光景が目に入って、動けなくなった。



『あぁ?ウソついてどうすんだよ。』



ーーウソつき。



『俺はお前がいいんだよ。』



ーーだってあたしは、



アンタをそんな柔らかい笑顔に、させられたことないよ。





to be continued

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あきゅろす。
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