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サクラ咲き、B




ドンドン、と花火が鳴り響く中、



必死に人込みを掻き分けて、あたしはただ歩いていた。




――・・・こんなことならお祭りなんて来なきゃよかった。




B




サトシの後ろから、楽しそうな笑い声をあげて歩くハルカとヒカリ。




そんな2人に優しく微笑みかけるサトシの姿。




そんな光景を、あたしはただ瞬きもせずただ見つめていた。




正確に言えば、見つめることしか出来なかった。




――どうしたんだろうあたし・・・・・



・・・・なんでこんなに胸が痛いんだろう。




今からサトシと話さなくちゃいけないのに。




久しぶりねって、笑って再会しなくちゃいけないのに。




サトシの隣でうれしそうな笑顔を咲かせている2人の姿に、あたしは胸の中で穏やかではない波が広がっているのを感じていた。




「あ、サトシじゃないか!それにハルカにヒカリも!おーい!」




あたしの後ろから急に大声を出したケンジに、あたしはハ、と視線を下に反らした。




いけない、いけない。




あたしったら、笑わないと。




何で暗い顔なんかしてるのよ、とあたしは自分に言い聞かせるように、笑顔を作り顔をあげた。




すると、もうすぐそこまで来ていたサトシの姿にまた胸がトクンと高鳴った。




「ごめん、ちょっと遅くなっちゃったな。」




「もう、サトシが道に迷うからかも〜!」




「本当よねー?出る前からちゃんと場所確認した方がいいんじゃない?って言ってたのに。」




本当におっちょこちょいなんだから、と頬を膨らませるヒカリ。




悪い悪い、なんて笑顔でかわすサトシにあたしは呆然としていた。




あたしの知ってるサトシだったなら、すぐ言い返していたのに・・。




複雑な思いが少しだけまた顔を出す。




「いや、僕達全然待ってないから大丈夫だよ。ね、カスミ?」




「えっ?え、えぇ。」




突然声をかけられたあたしは、驚いたけどすぐに適当な返事を口にして動揺しているのを隠した。




「カスミ、久しぶりだな。」




その途端あたしに向けられたサトシの視線が絡まった。




少し見上げなくちゃならなくなったその笑顔に、あたしはほんの少し目を細める。




「・・・・・うん、久しぶりね。」




それは懐かしさや、嬉しさからなんかじゃなくって・・・・



ニコリと微笑むサトシを、凄く遠くに感じたからだ――・・・・




以前は、あんなに近くにいたっていうのに。




時の流れは怖い。




「あ、あなたがカスミなのね!わたしヒカリ!よろしくね!」




ヒカリがニコッと笑い、あたしに差し出してきた手を、「う、うん!こちらこそ」とあたしはまるで上の空のような返事と共に慌てて掴んだ。




だけど、どこか気が抜けたうな声だと思ったのはあたしだけらしかったらしく、ヒカリは可愛い笑顔を浮かべて握手をすると、何事もないかのようにくるり、サトシの方に向き直った。




「ねぇサトシー!わたし綿菓子食べたいんだけどな。」




「あっわたしもー!」




「綿菓子か。どこにあるんだろうな。」




「あ、綿菓子ならあっちの方で見かけたよ!」




「じゃあ行こうか」と歩きだした4人の後をあたしは追い掛けるようについて行った。




――なんか、変。




楽しそうに話を弾ませるハルカや、ヒカリに、話し掛けられてもあたしは何か胸につっかえるものを感じていた。




ふっ、とサトシの横顔を視界が捉える度に、胸苦しいようなほろ苦い甘酸っぱさが募っていく。




あたしもヒカリや、ハルカみたいに隣に並んで歩いてみたい、なんてさっきからそんなことばっかり考えたりしてる。




だけど、そんなことを思うのがなんだか空しい――。




だって、昔はそんなの考えもせず隣に並んで歩いていたのに。




今のあたしには、サトシの傍に居場所がないような気がして―・・




あたしは胸の中でこっそりとあの頃のサトシを探すように、心の中で呼び掛けるしか出来ない。




一度でいいから、あの頃のようにこっちを見てって――・・・・・・




「ねぇねぇサトシ!このお祭りポケモンコンテストもやってるみたい!」




「へぇ、本当だ!しかもジュニア戦だって。おもしろそうだな。」




「ねぇ、後で見に行きましょうよ!」




「そうだね!僕、ポケモンコンテストって見るの初めてだ。楽しみだなぁ!」




4人の会話に、あたしは1人首を傾げた。




・・・ポケモンコンテスト・・・・・・・?




聞いたこともない言葉にあたしは、それって何のことだろう?と1人話についていけなかった。




「あのね、カスミ。ポケモンコンテストっていうのは、いわばポケモンの技をどれだけ美しく魅せられるかっていう勝負なんだ。」




「へぇ、そんなのがあるんだ。」




そんな様子を見てケンジがあたしに振り返って説明してくれて、あたしが思わず感嘆の声をもらすと。




「あそっか。カスミは知らないんだよな。」




思いもよらずサトシから、驚いたように何気なくそんなことを言われてしまって、目を見張った。




チクりとした胸の痛みに、あたしは思わず返事も出来なかった。




なんだか、その言葉にサトシがまた余計に遠く感じてしまった気がして・・・・




そんな一言に傷つくあたしもどうかしてるかもしれないけど、サトシには、そんな言い方をしてほしくはなかったのに。




なんだかやるせない思いと、バカバカしい思いが募ってきた。




――あたし、なんでここにいるんだろう・・・・・




「カスミ?どうした?」




ここに来たことを、あたしが後悔し始めていた時、あたしの異変にケンジが気が付いた。




いつもあたしのことを気にかけてくれるケンジにいつもならありがたく頼る所だけど




だけどあたしは、口元に笑みを作ってフルフルと首を横に振った。




何でもないから、気にしないで、と。



本当に何にも、ないんだから。




「あっもうすぐ花火じゃない?」




「本当だ!まさか春に花火が見れるなんて思ってなかったかも!ねぇ早く行きましょサトシ!」




「あぁ、そうだな!」




ヒカリとハルカに手を引かれて、先に行くサトシの後姿を見ながら、ため息を1つ吐いて、重い足を前に出した。




その途端ス、と隣にきたケンジにあたしは顔を上げた。




「どこか、具合が悪かったら言いなよ?カスミ。」




この頃疲れてたんだろ?、と心配そうな顔をするケンジに、なんだか少し安堵した。




「うん、分かった!ありがとう。ケンジ。」




そんなケンジにニコリと笑って答えるとケンジはまだ心配そうな顔のまま、あたしの頭をポンポンとたたいた。




そんなケンジの優しさにあたしが顔を綻ばせたまま前に向き直ったら、ふと、サトシと目が合った。




トクン、と相変わらず鳴る胸を抑えながら、じっとこちらを見てるサトシに、首を傾げながら見つめ返すと




フイ、とその視線を反らして歩きだしてしまった。




――何・・・・?



今の顔は、何か言いたそうな顔をしていたけど。




一体何だったのかさっぱり分からないあたしは、ケンジの隣に並びサトシ達の後をついて行った。




頭上には晴れ渡った蒼い夜空が果てしなく広がっている。




今にも流れそうな、高く散らばった星達を見ながらあたしは深く息をついた。




ちらり、とサトシの背中見る。




さっき何か言いたかったんじゃないのかな、サトシ・・・・




さきほどのサトシの顔が頭をちらついて離れなくてあたしは眉を寄せる。




何を言おうとしてたんだろう?



もしかして、あたしにじゃなくてケンジに用があったのかな・・・?




だけど、さっきのサトシの目はあたしだけに向けられていた。




まっすぐな、あの瞳が。




きっと何かあたしに言おうとしていた。




なぜだか、あたしにはそう確信があった。




後で、話してくれるかな・・・・・・




ぼんやりとそんなことを考えながらサトシから夜空に視線を写したとき。




「ねぇねぇ、カスミ。」




「えっ?なぁに?」




ケンジがこそこそと耳打ちをしてきてあたしは、どうしたのかとケンジを見た。




するとケンジはもうすでに騒がしくて聞こえるはずなどないのにあたしの耳に口を寄せた。




「あのね、これはまだ秘密なんだけどさ。」




その途端、急に嫌な予感がした。




ケンジの口を塞ぎたい衝動にかられたけど、その前にケンジは続けて言ってしまった。




「ヒカリがさお祭りの帰りに、サトシに告白するんだって。」




そう言い終わった瞬間、大きな音をたてて花火が空に上がった。




to be continued


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