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◆Main
Yours





※R18指定
激しい描写はそこまでないのですが、内容が内容のため指定させていただきます。





甘すぎて喉がしびれるような



柔らかすぎて掬いきれないような



いっそ痛みを伴う程の優しさで



サトシがあたしに触れてくれる。



そしていつもあたしは、



ーーー不安におそわれる。













「カスミ・・」



何度も名前を呼んで



「好きだ。」



何度も好きだと言ってくれる。



そして優しく抱きしめて、甘いキスをしてくれる。



何度も何度もキスをして、優しく髪を梳いてくれる。



それがたまらなく嬉しくて、でも・・・



『・・嬉しい、けど、もっと』



甘くて、優しくて、気持ちよくて、痛みや辛さを伴うことは一切しない。



甘やかされるだけ甘やかされて、キスをして頭や髪を撫でられる。



それだけを繰り返すあたし達は、



まだ“体を繋げた”ことが一度もない。



それを不満とか、不安になんて感じるのは、おかしなことなんだろうか。



本屋でブラブラと時間を潰しながら、ふと思う。



これってワガママかな?


贅沢なのかな?



サトシに愛されるようになってから、あたしはすっかり欲深い人間になってしまったみたい。



・・いや、たぶんサトシはきっかけに過ぎなくて、もともとあたしには欲深さがあったのかもしれない。



サトシのこととなると、一つ一つのことが大きくて、手放して考えられなくなる。



雨が降り始めた空を窓越しに見上げて、サトシは傘を持ってるかなと考えて、またサトシのことを考えている自分にハッとする。



・・・サトシだって、何かしら思っているはずなのに、どうして何も言わないんだろう。



いつもキスだけで終わって、満足してるのかな。



あたしに対して甘すぎるというか、過保護過ぎるというか。



・・・違う。正確には、しようとしたことはある。



しようとして、うまくいかなかった。



・・そうだ。あれからかもしれない。



あの時は痛くて思わず声を上げてしまったんだった。



まさか途中で止めるなんて思わなくて・・。



ふと目に入った本の帯に、手が止まった。



恋愛と体に触れ合うことについて書かれた本の帯に大きく書かれた言葉。



“心のつながりと身体のつながり”



・・・ちゃんと最後まで出来たら、あたし達のつながりはもっと強くなるのかな。



どうしたら、越えられるんだろう。



サトシは、どう思ってるんだろうーー・・



ーーーー・・・



「カスミ!ごめん、遅くなった!」



改札から駆けて出てきたサトシの手元を見たらちゃんと傘を持っていて、こっそりと安心した。



「ごめんな。スケジュールが押しちゃってさ・・」


「あたしもさっき来たばっかりだよ。
時間、大丈夫?」


「大丈夫大丈夫!なぁ何食べる?俺腹減った。」



自然とあたしの手をとって歩き出すサトシに、思わず口許が緩んだ。



サトシはとにかく忙しい。



旅を終えてこっちに帰ってきたとはいえ、今や有名なトレーナーになったサトシは、毎日取材や、写真撮影なんかでバトル以外の仕事が増えた。



いつも時間を作って、合間を縫って、昼時のほんの小さな時間でも会いにきてくれる。



サトシは昔から大切なものには心底愛情を注ぐ性格だから、あたしにもありったけの愛情を注いでくれる。



時には自分のことを後回しにして、相手を優先して行動をする。



「サトシって、ほんと昔から変わらないね。」


「うん?それって褒めてんの?けなしてんの?」


「んー・・両方かな。」


「ひどっ。」



短くても、こうやって笑い合う時間がとても愛おしい。



ーーーずっと、どんな時も、サトシは優しい。



ーーー疑いたくなるほどに。



ご飯を食べて、次の仕事に向かうサトシを改札まで見送った。



「あーあ・・。次会えるの再来週か・・。
メールも電話もするからな。」



「うん。あ、でも、忙しかったらいいからね。」



そう言った瞬間、サトシの顔がムッとした。



2人で入ったまま大きな傘が少し下ろされて、外の景色が遮られて、あたしとサトシだけの空間になったと思った瞬間、そっとキスを落とされた。



目を見開くあたしに、サトシがムッとしたまま、切なそうな顔を向ける。



「そんな寂しいこと言うなよ。」



そう言い残してあたしの髪をさらりと撫でると、サトシは手を振って改札の中へと入っていった。



見えなくなるまで手を振るサトシに、あたしは呆気にとられたまま手を振り返した。



・・・優しすぎるよ。



姿が見えなくなった改札の中を見つめながら、さっきまで見ていた手を振る姿を思い浮かべて目を細めた。




「・・・サトシが、好きだよ。」




ーーーはっきりと、確実に、好き。


本当に、好き。



・・・だからこそ、



優しくなんてしないでほしい。



どうしてこんなに、もどかしい。



サトシから理性を剥ぎ取ってしまいたい。




ーーー・・・



「ん・・はっ・・息、くるし・・」


「ん、ごめん・・」



2週間ぶりに会ったサトシと、あたしのベッドの上で抱きしめ合って、キスを繰り返す。



「カスミに触るの久しぶりだから、なんか、止まんなくって・・・」



息を乱して、眉を下げて切なげな顔をするサトシに、甘い痺れが背中に走った。



「いい、から・・・」



ーーー乱暴にしてくれていい。



そっとサトシのズボンのベルトに手を伸ばす。



ーーーむず痒くなるような優しさに、イライラする。



「・・っ!カスミ!?」


「サトシ、して・・」


「や、でもまだ・・」


「いいからっ・・早く・・」



もどかしい。


すきにしてほしい。


どうにでもしていいから、


痛みごと受け入れるから、



「カスミ・・っ」


「・・っ・・」



ーーー優しくする余裕なんて、


ーーーそんなものは捨ててほしい。




ーーー・・・




「なぁカスミ。なんでそんな焦ってんの。」



襟足の髪を撫でてくれながら、サトシが背中越しにあたしの顔を覗き込む。



「・・別に焦ってなんてない。」



シーツに顔を埋めるあたしを労わるように、首元にキスを落とされる。



「・・どうして、途中で辞めちゃったの?」


「あんだけ痛がってるのに、無理やり出来るわけないだろ。」


「あたしは無理やりでもいい。」


「それは俺が嫌。」



あたしの身体に腕を回して、頬にキスを落とされた。



「もっとゆっくりしよ?な?」



その言葉に気が立って、あたしは眉を寄せてサトシを見た。



「どうしてそんな余裕があるの?そんなこと言ってたら、いつまで経っても出来ないじゃない。」



詰め寄るあたしに、サトシが困ったようにあたしを見つめ返す。



「・・いや、余裕あるとかそういうんじゃないし。どうしたんだよ、らしくないぞ?」


「だって、」



ギュっと布団を握りしめる。



「サトシ・・優しすぎるよ。もっと力づくでくるかと思ってたのに。」


「ちょ、そんなヒドイことするわけないじゃん!」


「そうしてくれてもかまわないんだけど。」


「はぁ?!カスミ、お前何言ってんの?」



ため息を吐き出して、もう言うしかないと思って口を開いた。



「・・・不安なの。サトシが優しいばっかりで・・。
痛がってるからとか、途中で辞められたら、本当にあたしのことが欲しいのかなって考えちゃうじゃない。」



そこまで言ったら、サトシがあたしから視線を逸らした。



「・・どう思われようが、痛がってるのに無理やりすることはできないよ。
はい!もうこの話はおしまいな。」


「勝手に終わらせないで。そんなこと言って、本当は怖いだけなんじゃないの?」



あたしの言葉に、あきらかにサトシがムッとした顔をした。



「・・あのさぁ、カスミ。そういう挑発はやめてくんないか?」


「ちゃんと話したいだけよ。不安だって言ってるじゃない。すごく大事なことでしょ?」



ーーーどうして不安なんだろう。



「怖いのかって、そりゃ怖いよ。
俺のせいでカスミが傷つくのがすげぇ怖い。優しいばっかで不安になるってのは、裏を返せば物足りないってことだよな。
それでも俺は優しくしかできない。カスミを傷つけたくないし、嫌われたくないから。」



ーーーこんなにも優しいのに。



「本当にカスミが欲しいから、大切にしてるってことは」



ーーーこんなにも想われているのに。



「分かってほしい。」



ーーーなのに違和感があるのは、



「分かんない・・!」



ーーーどれを取っても、サトシの本心が見えないから。



「そんなの、分かんないよ!」



眉を寄せて、サトシを睨み上げた。



「サトシの言ってることは、綺麗すぎて嘘みたい。」



ーーー丁寧な扱いも、度を過ぎると距離になる。



「サトシの優しさが、全部ただのエゴにしか見えない。」



ーーーサトシがまるで、少しずつ離れていくような、過度な優しさがそんな気にさせるんだ。



「・・・はぁ?」



ーーーそれが不安で、とても怖い。



「あたしが欲しいって、手放したくないって、本当にそう思うならもっと欲を見せてよ。」



喧嘩になってもいい。



綺麗なだけじゃない、



「少しくらい傷つけられても、乱暴にされても、サトシを嫌いになんてなるはずないじゃない。」



ーーーもっと深い、サトシを見せて。



「結局、サトシはあたしを信じてないんだよ。」


「・・カスミ、止めようこんなの。」


「そんなんで、よく、」



ーーー優しさで遮らないで。



「大切にしてるなんて、」


「カスミ」



ぐいっと手首を掴まれて引き寄せられた。



「喧嘩売ってんなら買うけど、覚悟して。」



目の前には、あたしを見据える余裕のないサトシの顔。



「・・そんなの、とっくに出来てる。」



そんなサトシを逃したくなくて、真っ直ぐに見つめ返す。



「ふぅん。そんなこと言っていいの?
カスミに突っ込むくらい、ワケねぇんだけど?」


「出来もしないくせに。」


「・・へえ。」



身体を押されて、そのままサトシにベッドに押し倒された。



「じゃあ試そ。泣いてもやめねぇから。」


「やれるもんならやってみなさいよ。」



ーーー憂さを晴らすようにしてくれていい。



「んっとにお前は・・・!」



手首をシーツに押し付けられて、噛みつくような深いキスに息を上げながら応える。



ーーー優しくなくても、綺麗じゃなくてもいい。



ーーー深いところで、サトシのものになりたいから。



end

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あきゅろす。
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