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拗らせた片想い3end






そもそも会おうと思ったことが間違いだった。






end






『カスミ』



俺の一番大切な人。






初めて旅に出た時に最初に出逢った、他の誰とも違う特別な存在。



一緒にいると楽しいし、なんか温かい気持ちになるし、トレーナーとしても尊敬している。



正直、これは恋愛感情なのかと悩んだ時期もあった。



でも恋愛のような独占欲とか性欲とか、そういうもので自分達の関係を汚したくないと、そうも考えていた。



何よりも、『恋人』の関係になって『俺たち』にいつか終わりがきたらと思うと、



それがすごく怖かった。



だから『親友』という言葉を知った時、俺たちはそういう関係でありたいとそう思ったんだ。




『サトシのことが好きだから。』



彼女に想いを伝えられた時には、本音では嫌ではなかったし、こんなこだわりを捨ててよかったかもしれないけど、



『・・・・ア、アハハハ・・あー、えっと・・・』



この子との関係を『恋人』なんて安直なものにしたくないという、俺の意地が勝ってしまったのだ。



結局俺たちはその一件以来、お互いを避けるようになってしまっていたから、



突然連絡が来たときには、向こうもあの一件を気にしていないんだと安心したし、



・・・あと単純にすごく嬉しかった。



またあの頃に戻れる、と。





だからーー・・・




『サトシ・・っ』



酔いも覚めきり、目の前に映った光景は、



全てを出し切り、冴えきった頭で理解するには、






少し生々しかったーーー・・・








「あたしとするの、そんなに嫌だった・・?」




カスミの悲しそうな声にハッとして、俺は慌てて笑顔を繕った。



「あ・・いや、俺もかなり酔ってたみたいでさ。ごめん、痛いとことかないか?」


「・・・特に。」


「そっか。よかった。」



ハハ、と笑顔を作ってはみたものの、拭えない現実にすぐにため息がこぼれた。




「・・・ダメだよな、こんなの。」




髪を掻いて、たまらず視線を下に落とした。




「こんなの、親友とか言ってらんないよな。・・・って、そう思ってるのは俺だけなんだったっけ。アハハ・・・。」




ーーーこれで今度こそ、もう元には戻れないのかな・・・



項垂れる俺の前に、カスミがゆっくりと歩いて来たのがわかった。



「サトシ・・・どうしてそこまで親友にこだわるの?」



カスミの足下を見つめたまま、俺は黙ったまま俯いていた。



どうして、って・・



「・・・あたしのこと、恋愛対象としては見れない?」




そういうことじゃない。

そういうことじゃなくて。



俺にとってカスミがーーー・・




「・・親友だって思える人ってさ、いつ出会えるか分かんないし、すぐになれるもんじゃないんだよ。」




ーーーどれだけ大切なのか、お前は分かってない。




「・・・セックスなんて、誰とでもすぐ出来ちゃうじゃん。」




そういうのとは違うんだ。


そういうものに俺たちの関係を置きたくないんだ。




「俺はそんな即席的な関係なんて、嫌だ・・・」




始めなければ、終わりもない。

そうすれば別れもなく、ずっと一緒にいられるのに。


どうして、分かってくれないんだ?





カスミが小さく溜息を吐いたのが分かった。



「サトシはあたしのこと嫌い?」


「・・・嫌いなわけない。」


「じゃあ・・・好き?」




ギュ、と手に力が入った。




「好きとか、そんな単純なもんじゃないんだって・・!
俺にとってカスミは特別だから・・。
大切にしたいから、だからこんなに苦しい思いしてるんじゃんか、カスミのバカ・・っ。」



勢いに任せて思いを吐き出した。




ーー恋人になった瞬間、俺は親友を失う。

そうなったら今まで一緒に過ごした時間まで失うようで、

だからこそ変えたくなかった。




バカなんて言って、怒られるかななんて思っていたら、



細い手が伸びて来て、カスミに頭を抱きしめられた。



「・・・バカ。」


「え・・?」


「苦しい想いをしてたのが、自分だけみたいな顔しないでよ・・っ。」




気持ちとは裏腹に、カスミの温もりに触れて身体の力が抜けていく。



誰といても得ることのできないしっくりとくるこの感覚を、無視できなくなる。



カスミの腕を離そうとすると、カスミが俺をそのままベッドに押し倒した。



「あんたの意地に付き合わされるのはもう嫌よ。」


「カスミ・・・」


「・・・いい加減認めて。あたしのことが好きだって。」




カスミの華奢な柔らかい手が頬を包んで、真っ直ぐに俺を見下ろす。




「ずっと・・・サトシの一番大切な人でいさせてくれるって。」




一番大切な人で、一番傍にいたい人で、絶対に失いたくない人。



俺がそう思える人なんて、カスミ以外あり得ないことなんか最初から分かってた。




「・・・好き。」




真っ赤に頬を染めて必死な顔をして、

俺が一番大切だって、俺の一番になりたいって言ってくれる。



真っ直ぐすぎて無防備すぎるこいつを、他の誰かになんて、



渡したくない。





「大好き、サトシ・・」





もう笑って誤魔化せない。



親友の言葉に隠すこともできないくらい存在感の大きなこの気持ちは、もうなかったことにするには遅すぎる。




きっと、今までも


これからもずっと、


大切なのは、カスミだけだ。




言葉にする代わりに、俺はそっとカスミの背中に腕を回して、その身体を強く抱き寄せた。





end

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あきゅろす。
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