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拗らせた片思い1
会うのはいつ振りだろう。
君はどんな時間を過ごして来たの。
どんな人と、どんな毎日を過ごしてきたの。
あたしは今も、相変わらずだよ。
ねぇ。
君にとってのあたしと、あたしにとっての君は・・・
今も、違うままなのかな。
拗らせた片思い1
「お疲れ様です。」
「お疲れー・・。あ、ねぇねぇカスミちゃん。
次の土曜って予定空いてない?」
「え?」
「合コンするんだけど、女子と男子のメンバーが1人足りないのよ。カスミちゃん、男の子の友達と一緒に参加しない?」
「そういうのはちょっと・・」
「どうしてもダメー?友達にも可愛い子連れてくるって言っちゃったのよ。
人助けだと思って、ね?!」
「えっと・・」
ーーーあ。そういえば・・
「あたしは行けないけど、知り合いなら、紹介出来るかも・・。来てくれるか分からないけど。」
「何なに?どんな人?カスミちゃんのお友達だし、同じジムリーダーの人?」
「いえ、でもたぶん知ってる人だと思いますよ。確かここに・・」
ーーー彼とはしらばく会っていない。
「あった。」
「なに?雑誌?」
「彼です。」
ーーー今どうしているのだろう。
「ポケモンリーグ入りした“サトシ”です。」
ーーーあたしが昔、特別な想いを寄せていた人。
『はぁ〜・・今日暑くないか?』
『この程度で根を上げるなよ。まだ7月に入ったばかりだぞ。』
『あちーー、水ーー・・』
『もうお水ないわね。どこかで買ってこなくちゃ。』
『すぐそこの公園の中に自販機があったと思うぞ。』
『マジ?!俺買いに行ってくる!』
『あ、じゃあソーダお願いねー』
『ついでにスーパーにも行ってきてくれないか。ちょうど調味料が足りなくなってきたんだ。』
『はぁ?ちょっと待てよ。結局買い物係になってるじゃん!』
『どうせ外に出るなら同じだろ。』
『えー?はぁ〜・・ったくしょうがないなぁ。じゃあカスミも行こうぜ。』
『なんであたしまで行くのよ?!』
『いいじゃん、どうせ暇だろ。』
『何よその言い方!まぁいいわ、ソーダはサトシのおごりね。』
『なんでそうなるんだよっ。』
『あたしの自転車壊したんだからソーダくらいおごってくれてもいいでしょ。』
『お前それいつまで言う気なんだよ。』
『とにかく、2人とも気をつけて行ってこいよ。』
『ちぇっ・・はーい。』
旅を始めて間もない頃の、
なんら変哲もない、いつもの日。
ポケモンセンターを出て、いつものように文句を言って、サトシがそれに突っかかってきて、ケンカをしながら歩いた。
買い物を済ませて、帰り道を歩いていたら雨に降られて、慌てて公園で雨宿りした。
『すごい雨だな・・。』
『落ち着くまでここにいましょ。』
『ありえないよなー、急にこんな降ってくるとか。』
少し濡れた服をパタパタと乾かすサトシを横目に、濡れた前髪を梳いて空を見上げる。
あーぁ、通り雨だといいけどなぁ・・。
『っくしゅん!』
『風邪引いてるのか?』
『ううん、ただ少し肌寒くて。』
『服も少し濡れたもんな。今より雨足がマシになったらすぐ戻るか。』
『そうね。・・・っくしゅん!』
サトシがあたしを見て、ガシガシと頭をかいて上着を脱いだ。
『ん。』
『え?』
『着てろよ。ほんとに風邪引くぞ。』
『平気よ。そんなに軟弱じゃないもん。』
『そんな風にクシャミされてたら、こっちが気になるっつーの。』
『そんなこといわれても・・。っくしゅん!』
『・・・あ〜もうっ』
上着を投げるように肩にかけられた。
驚いてサトシを見れば、フイと顔を背けている。
『サトシ・・?』
『・・お前人から放って置けないって言われない?』
『・・たまにお姉ちゃん達に言われたかな。』
『だろうな。』
ーーー自転車は壊すし、普段は無鉄砲でツンケンしてるけど、サトシって根はいい奴なのかもしれないなぁ・・。
『ありがとう・・・』
『べ、別にお礼なんていいよ。』
そう言って、あたしに顔を見せないサトシの背中からなぜか目が離せなかった。
『あ、雨止んできたし、先行くからなっ。』
『サトシ、待って!』
『な、なんだよっ。』
『・・1人でこの荷物は、運べないんだけど。』
『えっ、あぁ・・ごめん。』
その時見た、照れたような表情にあたしは、“可愛いな”なんて思ってしまった。
そうたぶん、あれが始まり。
「あ、返事きました。」
「サ、サトシ君、なんてっ?!」
「うわっ。」
目をキラキラさせて間近に詰め寄られ、一瞬よろめいた。
バイトの先輩がここまで興奮してるの初めて見たかも。
「えっと・・・・。へ?」
「なになに?!」
「『カスミが来るんなら行ってもいいよ。』」
「・・・・っカスミちゃん!!」
一瞬の沈黙の後、ぎゅっと手を握られた。
「お願いカスミちゃんも来てー!!!」
合コンなんて本当は行きたくないけど、
ジムリーダーの仕事だけじゃキツくって最近始めたアルバイトだし、
お世話になってる先輩に泣きそうな顔で懇願されたら・・・。
あたしはため息を吐き出した。
・・結局、行くことになってしまった。
まぁ彼にあんな用件で連絡した時点で、面倒なことになるのは分かっていたんだけど。
ーーーふと、彼の顔が浮かんだ時、無性に連絡を取りたくなってしまった。
【また会えるの楽しみだな!】
携帯に映るメッセージに胸が高鳴って、
すぐに苦しくなった。
『あちっ、あっちぃ。ほら、やるよ。』
『いいの?』
『だって1人で食べてもつまんないじゃん。』
あたしが旅を終えてハナダに戻っても、彼はよく会いにきてくれた。
『ありがとう。』
旅をしてた時からサトシはいつもこうやって当たり前のように、たい焼きや、肉まんを2つに分けてあたしにくれる。
『でもサトシ、よくこっちに来るけどそんなに友達いないの?』
『はぁ?そんなワケないだろっ。俺にだって他に友達いっぱいいるよ!』
からかっただけなのに、ムスッとした顔でサトシがたい焼きにかぶりつく。
そんなサトシがおかしくて、クスクスと笑ってしまう。
『ただカスミと遊びたいなーと思って・・。』
そう言って、サトシが恨めがましい顔であたしを見た。
『ったく。せっかくカスミに会いにカントーまで来たのに、嬉しくないのか?』
『別に来て欲しいなんて言ったことないけどー?』
『う・・っ』
ーーーサトシにとっても、あたしにとっても、初めて経験した旅は特別だったと思う。
経験する何もかもが真新しくて希望に溢れてて、そんな時間を共有してきたからこそ、あたし達には深い絆があった。
『嘘よ。あたしも、サトシといるのは楽しいよ。』
『やっぱり?!ってかそれ先に言えよな!!』
彼の傍にいるのは居心地が良かったし、特別に思われるのは嬉しかった。
2人でふざけ合った後、サトシが1人ニヤニヤと笑っていて首をかしげた。
『何よ。どうかしたの?』
『へへ・・。本当その通りだなーって思ってさ。』
『うん?』
『いやさこの前やってたテレビで見たんだけど、親友っていうのは恋人が出来るまでの1番大切な人なんだって。』
サトシが照れ臭そうにマフラーを口元にあてて、楽しそうに続けた。
『俺恋人とかはよくわかんないけど、恋人が出来たら、親友は1番の理解者に変わって、ずっと変わらず続いてく・・みたいなこと言っててさ?
確かにカスミは、俺のこと1番よく分かってくれてるし。』
あたしは瞬きも忘れて、サトシの横顔を見つめていた。
『俺がこっちに来るのも、カスミには何でも話せるし、カスミといるのが本当に楽しいからなんだよな。
だからたぶん俺にとってカスミは、“親友”なんだろうな、ってさ。』
ーーー『恋人が出来るまで』・・・
『親友・・』
『って、これってある意味告白みたいだよな。』
ーーーそれって、いつかサトシに『もっと大切な人』が出来た時に、
『フハッ、なんか照れるなー。』
ーーーあたしは・・・
『・・あたしは親友だなんて思ってないよ。』
『えっ?なんでだよ!?』
ーーーどうせなら、あたしのことだけ。
『ずっとサトシの1番でいたい。』
『へ・・・・?』
あたしはサトシの顔を見ていられなくて、下を向いた。
心臓が早くて、顔が熱かった。
『サトシのことが好きだから。』
吐き出した想いは、ごく自然に口から紡いで出てきて自分でも少し驚いて、
もうずっと昔からこの想いを抱いていたことに、その時やっと気がついた。
永遠に続くような沈黙が流れた後、
恐る恐るサトシの顔を見上げると、
『・・・・ア、アハハハ・・あー、えっと・・・』
サトシがとても困ったように、眉を下げて笑っていた。
ーーーバカだ。
ーーーこうなることくらい分かっていたのに・・。
『・・冗談だよ。』
グッと手に拳を作って握りしめた。
『そんな本気の反応されたらこっちが困るんだけど?』
『え!?』
『変な顔しちゃって、バッカみたい。』
『な、なんだよもー!急に変なこと言うからビックリしたじゃんか!』
ーーーあんな顔されたら、これ以上伝えられるわけないじゃない。
『ちょっとふざけすぎちゃった。』
・・・あの日以来、顔を合わせ辛くなって
あたしの方から、距離を置くようになっていった。
「・・あれからもう何年も経ったのね。」
彼のことなんてもう吹っ切れたと思っていのに。
「・・早く、会いたいな・・・。」
やっぱり彼女とか、もういるのかな。
いるとしたら、きっと芸能人みたいに綺麗な人だろうな。
ポケモンリーグに入って、今では彼も有名人の1人だし。
だとしても、あんまり知りたくないな・・。
ーーーあぁ、やっぱりあたし
サトシのこと、今も好きなんだな・・・。
きっとあたしだけが、何も変わっていないんだ。
to be continued
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