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◆Main
恋をしたのは・7・





2人しか知らない記憶。



たった1人で抱えて、



それはキミをどれだけ苦しめて来たの。













−−年4月






『テレビ・・・に?』



『うん!俺がポケモンマスターになりたいと思ったきっかけだったことを話したら、ぜひ俺に出演してほしいって。ずっと昔から見てた番組でさ、俺の特集をするから何週かに渡って出演するんだって。』



『それってすごいじゃない!よかったね!』



『へへ、ありがと。俺も正直嬉しくってさ。
テレビとか表に出る仕事はあんま興味ないから断ってたんだけど、あの番組ならいいかなって。』



『そうなの?』



『うん。もともと有名人になりたくてポケモンリーグに入ったわけじゃないしな。俺は俺のポケモンたちと、ポケモンリーグでバトルが出来たらそれでいいし。』



『フフ。サトシらしいね。』



『たださ〜、お前もこれからジム戦で忙しくなるのに、その前にイチャイチャする時間が削られるのは辛いけど・・・』



『何言ってるのよ。応援してるから、無理せず頑張ってね。』



『ん、ありがと・・・』



『・・ちょ、サトシ、何してるのっ』



『いや、さっそくイチャイチャしよっかな〜って。』



『もう。だからってソファで・・』



『じゃあ・・・ベッドいく?』



『・・・・・うん』






−−年6月






『え・・・今日も?』



『ごめん、カスミ・・・。なんかプロデューサーに気に入られちゃって、いつのまにかバトルの企画にも呼ばれてるし、俺の出番増えてたんだよ・・。』



『えっ、それってすごいことなんじゃ・・』



『うーん、ありがたいんだけどさ、カスミに会えないの寂しくて・・』



『何言ってるの。旅に出てる時は、このくらい顔合わせられないのが普通だったじゃない。』



『それは一緒に暮らす前だから耐えられたの!』



『フフフ。無理はしないでね。』



『うん・・あとちょっと頑張る。テレビの中の格好いい俺を、カスミに見てもらいたいしな。』



『はいはい。楽しみにしてるわね。』






−−年10月







『だからっ、なんで俺に聞かずに仕事入れてるんですか!大体俺この仕事でテレビの仕事は最後にするって言ったじゃないですか!
その日は前から旅行に行くからNGだって−−・・』



『サトシ・・・いいから。ね?』



『っ・・・・。とにかく、これから仕事入れる時は俺に一言相談してください。』







−−年2月





−−−−−−−−−−
TOカスミ
Re:カスミぃぃぃ

ごめん
今日も帰れそうにないや

明日は絶対絶対絶対
夜には帰るから!!
−−−−−−−−−−



−−−−−−−−−−
TOサトシ
ReRe:大丈夫

無理しないで、ちゃんと食べて寝てね
明日待ってるね

−−−−−−−−−−






・・・・−−ピンポーン






『・・・サトシ?』




・・・・−−カチャ



『はい・・・』




『夜分にすいません。わたくしサトシさんのマネージャーをしてる者ですが。』




『え・・』




『カスミさん・・・ですね?』







−−年2月







『・・・もしもし』



『あぁぁ5日ぶりのカスミの声だ〜!』



『サトシ・・・』



『カスミに会えない寂しさで俺もうマジで死にそう〜!!』



『・・・あたしも−−−−』



『・・・・カスミ?』






“申し訳ありませんが、色々と調べさせていただきました。”




“え・・?”




“単刀直入に言います。彼と別れていただきたい。”




“・・・っ、どうして、そんなことあなたに・・”




“カスミさん、正直申し上げて、あなたの存在は彼にとってマイナスにしかなりません。
あなたとの付き合いが世間にバレれば、今の彼がどんな目に遭うか。
今や芸能人としても注目されている彼が、不釣り合いな恋愛のスキャンダルによって、今後いろいろな仕事に触れるチャンスを失うかもしれない。
彼は今世間に求められている。彼のさまざまな可能性を潰してしまうかもしれないんですよ?”




“・・・お断りします・・っ”






『カスミ、大丈夫?』



『あ・・・ごめん。』



『ジム、やっぱ大変?無理してないか?』



『・・・・・』






“お金、ですか?”




“は・・・?”




“いくら払えば、別れていただけますか?”




“何の・・・話ですか。”




“ご自身のジムの経営、うまくいっていらっしゃらないようですね。ご実家もあまり裕福とは言い難い上に、ご家族もジムの存続には匙を投げているとか。”




“・・・・帰ってください”




“経済的に彼に頼りたくなる気持ちは分からなくもないですが−−・・”




“お金も何もいりません、帰ってください!”




“・・金額が決まったら、こちらに連絡してください。”






『・・・・ジムは、なかなかうまくいかないけど・・・大変なのはみんな一緒だから。』




『うー・・カスミは大人だな。俺なんか、カスミに会えないのがもう限界で、子供みたいに駄々こねて、せめて電話する時間だけでもくれって言って、現場抜けてきちゃったよ。』



『え・・・』



『しかも、現場の監督に他の番組にも出てくれないかって言われてて。』



『そ、うなの・・・?』



『うん・・。バラエティとか、他の仕事はすぐ辞めてもかまわないんだけど、いろいろな企画のバトルをさせてもらえるのには、ちょっと未練出てきちゃって。
いろんな人と出会えるし、出演してる人も各方面で活躍してるトレーナーが多いからおもしろくて。』



『・・・・・』



『タケシにも、そんなに楽しそうに仕事してんの初めて見たとか言われちゃってさ。
意外と俺、人と一緒に何かを作り上げていく仕事をするのが合ってるのかなって思う瞬間があるから余計迷うっていうか。』



『・・・・・』



『それにこの業界で食べていけたら、いろんな経験が詰める上にお金にも余裕が出るから一石二鳥だしな。ポケモンマスターとしても−−−・・・って、あれ?』





−−−ツー、ツー・・・





『カスミ・・・?』







“あなたとの付き合いが世間にバレれば、今の彼がどんな目に遭うか。”




“彼のさまざまな可能性を潰してしまうかもしれないんですよ?”







−−年4月







『・・・なんで、何も話してくれないの。』



『・・・・しばらく・・・距離を、置きたいの・・』



『ハァ・・。マネージャーから話は聞いた。
こいつはもううちの事務所にはいないし、カスミが心配することは何もないから。』



『・・・・そういう・・問題じゃない。』



『じゃあ、何が問題?』



『サトシの・・・足を引っ張りたくないの。重荷にはなりたくない。』



『いつカスミが重荷になったって言うんだよ。』



『これからなるかもしれないことが怖いの。』



『そんなの・・っ。マネージャーのことはもう解決したのに、なんでそんな頑ななんだよ・・。
ほかに何かあるなら言ってくれないと、俺わかんないよ。』



『・・・・ごめん、なさい・・。』



『何で謝るの。』



『どうか、あたしのことは忘れて・・・』



『っ・・・』





−−−ヴーヴー・・・





『・・ごめん、仕事行かなきゃ。
俺も寝てないから冷静に話できそうにないし、今のカスミが普通の状態だとも思えない。』



『もうあたしの決意は−−・・・』



『無理に2人の家に戻ってこいとは言わないから、この話は日を改めさせて。』



『・・・・分かった。』



『じゃあ、また。』





−−−パタン・・・





『・・あ、鍵・・・サトシの・・』





−−−カラン・・・




『サトシ・・・』






−−−キキキキー・・・!!!




『きゃああああぁ!!』




−−−ドンッ・・・!!




『っ!!っサトシ・・・・!!!!』







−−−−−−






「どうして別れ話なんてことになったのか、詳しいことは俺たちも知らない。」



「でも、あの時期サトシはとにかく仕事が忙しそうだったし、カスミはカスミで、ジムのこととか経営のこととか、あと家族のことも重なってたらしくて、精神的に参ってたわ。」



「それに出てったカスミを探してた時、サトシ、マネージャーにキレてたから、そこらへんとも何かあったのかも。」



「真実はお前とカスミにしか分からない。だが少なくとも、互いに望んだ別れではなかった。」



「カスミは今も・・・サトシのことを想ってる。それだけは間違いなく真実よ。」



「・・・っ」





カスミちゃん・・・





「・・・つまり、俺が記憶を取り戻さないと話になんないってことだよな。でもそれなら、昔の写真とか見て、みんなからもっと話を聞けばきっと−−−・・」



「・・・・」



「・・?・・・何・・・?」



「サトシ・・・」




3人が顔を見合わせて、視線をそらせる。



その様子に眉を寄せた俺に、タケシが慎重な面持ちで口を開いた。




「6年前の時点で、俺たちはお前にカスミのことを思い出させようと色々と手を尽くしたんだよ。」



「でも、もっと何か・・っ」



「だけどそれに伴って起きる激しい頭痛は、脳への負担が大きくて−−・・」



「こんなのいくらでも耐えてみせるよ!記憶がなくても、今の俺もカスミちゃんを好きになったのに諦めてたまるかよ!!」



「・・・そうか。
だがなサトシ、事態はもっと複雑かつ、深刻なんだ。」




タケシが俺に携帯を手渡してきた。




「俺の携帯・・・?」



「連絡先の一覧を見てみろ。・・今なら見えるかもしれん。」



「!?・・・これっ・・」



「言っておくが、誰もお前の携帯には手を加えてない、元からそうだった。
お前の脳がそれを見せていなかっただけだ。」



「そんな・・・・」





−−−俺は言葉を失った。





「サトシ・・・あなたが記憶を失ってからカスミに会うのは、今回が初めてのことじゃないの。」





連絡先
−−−−−−−−
カスミちゃん
−−−−−−−−
カスミさん
−−−−−−−−
カスミちゃん
−−−−−−−−
カスミちゃん
−−−−−−−−
カスミ
−−−−−−−−
カスミさん
−−−−−−−−
・・・・・





「それがこの6年で、お前とカスミが再会した回数で−−−・・お前がカスミを忘れた回数だ。」





数十件以上追加して登録され続けているカスミちゃんの名前が、そこにはあった。




to be continued





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あきゅろす。
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